記憶を消したもの
イツキナのとっさに叫んだイケガミという言葉がコトダマとなって、マフメノ達の記憶を呼び起こし、ロウアを思い出させる事が出来た部員達だった。
一同は、ひとまず安堵したが、他の人達は、一体どうしてロウアのことを覚えていないのか解決出来ていなかった。
「えっ!他の人達もイケガミを覚えていないんですかぁ?」
マフメノは自分達以外もロウアのことを忘れていると聞かされて驚いてしまった。
「そうなのよ。マフメノ君達はいつから覚えていなかった?」
イツキナがそう聞いたが、
「い、いつからって…。」
マフメノは、その時期がはっきりとせず、うなってしまった。
ツクとホスヰも同じようだった。
「ロネント工場を見学して、帰って来て、学校でレポートを作って…。
あの時…、イケガミさん達はどうしているんでしょうねって話しましたよね…?」
ツクは、おぼろげながら思い出した事を話した。
「あ~、そうかもぉ。ホスヰちゃんが今から追いかけるって言ったのを覚えているよぉ。」
「あうんっ!追いかければ良かったぁ~~っ!!」
「い、いやいや…、ダメよ。あんな国に行ったら…。自由なんてまるっきり無い国なんだからっ!」
イツキナが注意すると、
「そうだぞぉ~、おっきな蜘蛛がいたんだぞぉ~~っ!食べられそうになったぞぉ~。」
アルはそれに乗っかって魂が雲の姿となった大統領が支配している国だと、襲いかかるような仕草をしながら話した。
「ふえ~…。こ、怖いぃぃぃ…。」
アルに脅されて、ホスヰはシアムの後ろに隠れた。
「アルちゃん…、自分が見たような事言って…。
ごめんね。大きな蜘蛛さんは、遠くにいるから大丈夫よ。」
ホスヰは、シアムにそう言われたが、更に強く彼女に抱きついた。
「アル様…。それ本当ですか…。こ、怖すぎるのですが…。」
「ツクちゃん、大丈夫だぞ。あの国に行かなければね。
だいとーりょー、とか言う偉い人が蜘蛛の糸で色んな人を操っていたんだって。」
「ひ、ひぃぃ…。マフメノ先輩…、私怖いですっ!」
今度はツクがマフメノの後ろに隠れた。
「はぁ~、マフメノっちとツクちゃんはラブラブだなぁ~。」
アルがため息交じりに皮肉ると、マフメノとツクは顔を赤くした。
「まぁ~~、だけどさぁ~~、こっちもシアムもカミが…モグモグ…ブフブフ…。」
アルがシアムとロウアのことを話そうとしたので、いつものようにシアムがアルの口を塞いだ。
「…そ、そうですか…、だとするとシアム様は寂しいですよね…。」
ツクはアルが話そうとした内容を察して、更にシアムの気持ちの寂しい思いに同情した。
「…にゃ。」
シアムはアルの口封じを解くと耳を下に向けて、下を向いてしまった。
「あっ…、シ、シアム様。ごめんなさい…。」
ツクは慌ててシアムに駆け寄ると、
「ううん、へ、平気…。私、強くならなくっちゃ…ね。」
シアムは顔を上げて、涙目になった笑顔で力強くそう言った。
「いずれにしても、何らかの理由で記憶を封印されてしまった状態なのよね。」
アマミルは総括するようにそう言った。
「封印って言うかさ~、別の記憶に書き換えられてるんじゃない?」
「書き換えか…。」
「ロウア君は海で死亡とか、コンサートの紫色アアカちゃんは、自動ロネントに変更されてるし。」
「そうね。一体、誰が、どうやったのか…。」
だが、アマミル達は現象だけを確認するだけで、根本的な問題には行き着かなかった。
「他に何か、私たちがアトランティス国に行ってるときに起きなかった?」
更にアマミルが問いかけたときだった。
「あっ!そう言えば…。」
ツクが何かを思い出したかのように声を上げた。
「ツクちゃん、何かあったの?」
イツキナが聞くと、
「これが関係しているか分からないのですが…、学校でレポートをまとめていた時、学校の周りがすごい霧に包まれました。」
とツクは答えた。
「霧ですか、にゃ?」
「シアム様、そうなんです。
雨も降っていないのに急に霧が現れたんです。
すごく濃くって、とても高い位置まで。
教室も廊下も真っ白になってしまいました。」
「そう言えば、そんなことがあったねぇ。
学校だけじゃ無くて、ムー大陸全体がそうなったってニュースになってたよねぇ。
変な天気だったねぇ。」
「あうんっ!そうです。そうです。ホスヰは、お家に帰るのが大変でしたっ!
周りが真っ白しろで前が見えないのでっすっ!」
学習旅行の丁度、四日目、ロウア達が国会を見学している最中の出来事だった。
ムー国で急に大陸中を覆うような霧が発生した。
このため、交通網などが麻痺するなども問題が発生した。
この霧はナーカル校でも問題となり、一旦体育館に生徒を集めて順次、車で順番に自宅に帰すなどの対応を取った。
学習旅行期間中で、生徒は少なかったは幸いし、生徒達は怪我も無く帰宅できた。
「う~ん、その霧が出てからおかしくなったのかしら?」
アマミルは霧については理解したがそれが原因かどうか確信が持てなかった。
「わ、分からないのですが、その日からじゃないかな~と…。」
話した本人であるツクも確信が持てなかった。
「う~ん、霧が出てからイケガミ達の事は話さなくなった気もするねぇ。
でも、翌日から休んでいたからぁ。」
「翌日、遊園地に行こうとしましたけど、あの霧のせいで閉園でしたよね。」
「うん、そうだったねぇ。」
「ほ~っ!!二人でっ!ほ~っ!ほ~~っ!」
アルの悪ふざけで、マフメノとツクはまた顔を赤らめた。
「アルちゃん…。そこじゃないでしょっ!」
「ご、ごみん…。」
さすがにシアムも黙っていられず、怒られたアルは頭を下げた。




