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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
見えない鉄格子
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五日目:不適合者

ロウアとその身体の持ち主である魂の姿となったロウア、その一人と一つの魂は、戦艦の深層部まで移動していた。


(ぎゃ~~、止めろ~~、俺は生きてるっ!!腹を切る…な、ギャ~~、ヒッ、ヒッ、ヒッ…。

い、痛い…、痛い、痛い…。止めろ~っ!!)

(…ど、どうして?どうして身体が動かない?!何を注射したんだっ!!)

(ヒ、ヒィィィィ…。い、生きてる人間から…、やめろ、止めろ…、どうしてこんな事をするんだ…。)

(お、俺達は何も悪い事をしていないっ!止めろ~~ッ!!)


そんな声がロウアのいる廊下の奥から聞こえていた。


(あ、あの部屋だぜ…?だけど、お前、これからどうするんだよ…。)


いつもは強気な魂のロウアが、少し声を震わせているのがロウアに分かった。


(ともかく中に入らないと…。)


(あぁ、だけど、それは難しすぎるぜ…。)


と、心の声で話しているときだった。


「…お兄ちゃん、何してるの?」


「ヒッ!!」

(なっ!しまったっ!!)


急にロウア達の後ろで声が聞こえて、ロウア達は顔が引きつってしまった。


そして、後ろを恐る恐る振り向くと、10歳ぐらいの女の子が廊下にぽつんと立っていた。


「お、女の子…?こんなところにどうして…?」


その子は、みすぼらしい肌着を着て、髪もボサボサで、肌も酷く汚れていた。

何処で手に入れたのか分からないが、ボロボロになった何かの動物のぬいぐるみを抱いて、彼女はこちらを不審そうに見ていた。


「…き、君は…?」


ロウアがそう尋ねると、


「私は、きょうしゅうせいに食べ物を届けてきたところなの。」


と女の子は説明した。


「と、届けてきた…?」


「お兄ちゃんは何をしているの?きょうしゅうせいなの?」


「きょ、教習生?」


「そうだよ、ここは教習施設だから。」


「教習施設?戦艦じゃ無くて?」


「せんかん?それってなぁに?ここはお空を飛ぶ教習生施設。

悪い事をした人が集まってる場所だよ。」


「悪い事…?」


「そうだよ~、お国のきそくを守らない悪い人が集まってるの。」


「それって…。」


すると話していると、奥の扉から声が聞こえてきた。


「<誰かいるのかっ?!また、役立たずのチビ共かっ!!>」


アトランティス大陸特有の言葉だったのでロウアには理解できなかったが、何か酷く怒っているのだけは分かった。


「ヒッ…、こ、怖いよ…。また、たたかれるっ!!こっちだよ、お兄ちゃんっ!!」


「う、うん…。」


(確かに、誰か出てきそうだぜ…?今はこいつに付いて行った方が良い。)


(そうだね…。)


ロウアは少女に導かれるまま別の奥の部屋へと案内された。


-----


「うっ…。」


ロウアがその真っ黒な部屋に入ると、つんざくような異臭が鼻を襲ってきたので、慌てて鼻を押さえた。

ただ、ロウアは、池上だった頃に、この匂いを嗅いだことがあったのを思い出した。


(ホ、ホームレス達の匂いだな…。懐かしいといえば懐かしいけど…。く、臭い…。)


まさにそれは人間の垢などが溜まって放つ独特の匂いだった。


「お兄ちゃん、お鼻を押さえてどうしたの?」


「な、何でも無いよ…、あはは…。」


ロウアは鼻声になって答えた。


「君はナーカル語が話せるんだね。」


「うん、話せないときょうしゅうせいとお話しできないから。」


「教習生ってのは何なんだい?」


「う~、私はよく分からないけど、悪い事をした人には、キョーイクする必要があるんだって。」


言葉は子どものようだったが、意外にもしっかりとした口調で女の子は説明した。


「そうなんだ…。…あっ。」


ロウアは、その説明を深く理解できないままだったが、暗闇に目が慣れてくるとこの部屋には、この子と同じような子ども達が数十人いることが分かった。


「<おいっ!2017っ!知らない奴を連れて来るなっ!>」


どうやら年上の一人がロウアを連れてきたことを怒っているようだった。


「<だ、だって…。>」


「<か、勝手なことをやっていると、殺されちゃうよぉ…。いっぱい見てきただろう…?>」

「<そうだよぉ~、1004だって、671だって怖い人に連れられて戻ってこなかっただろう…。>」

「<ぼ、僕たちみたいな不適合者は、大人しくしたがっていないと…。>」


(不適合者…?)


別の子達も2017と呼ぶ女の子を責めていた。

ロウアは、言葉を理解できなかったので、ムーに到着したばかりの時のように、力を使って子ども達の魂の言葉を聞いていた。


(ま、まさか…。)


そして、その意味が子ども達の姿を見て分かった。


(あぁ、そうみたいだ…。この国はとことん人をバカにしているっ!)


魂のロウアもその意味を知ったのか、腹を立てていた。


どうやら、子ども達は片腕が無かったり、片足が無かったりと、それぞれ身体にハンデを背負っているようだった。

他にも目が見えないのか目をつむったままの子もいたり、耳が聞こえなかったり、話が出来なかったりする子も居るようだった。


(あ、あぁ…、服に隠れているだけかと思っていたけど…、この子も…。)


よく見ると、先ほどの1017と呼ばれた女の子も右腕を失っているようだった。


(つ、つまり、身体に不具合があるから不適合…?

そして、こんなところに集めている…。)


この戦艦は、ハンデを背負った子ども達が集められている収容施設でもあったたのだった。

その事実を知るとロウアは怒りを抑えきれなかった。


「そんな、バカなっ!!人を何だと思っているんだっ!!」


ロウアは思わずナーカル語で大声を出してしまった。

子ども達はその声で驚き、静かになった。


「…君たちの親は、親たちは、どうしたんだい?<お父さんや、お母さんは…?>」


ロウアは、父親と母親ということろだけ、アトランティス国の言葉に翻訳した。


「お父さんとお母さんは…。うぅ…。」


そう言うと、少女は口ごもって下を向いてしまった。


「<…お父さん、お母さん…。>」

「<…お母さん、会いたいよぉ~~。>」

「ヒック…。、ヒック…。」

「ウェ~~ン…!」


ロウアの言葉に子ども達が明らかに気落ちしているのが分かった。

中には泣いてしまう子供までいて、ロウアは悪い事をしてしまったと思った。

同時に、この施設の悲惨さが伝わるようだった。


「き、君たちは親から引き離されてしまったのかい…?」


「うん…。突然…。不適合だからこくみんにふさわしくないって…。」


「ふ、相応しくないだって…?!こ、国民に…?!そんなの…関係ないっ!!何が国民だっ!!」


(お、おいっ!余り声を出すなって…。)


ロウアはそう言われて、声を落とさざるを得なかった。

ここで自分が見つかれば、この子達は酷い目に遭うに決まっていた。


(…それに、ここに居続ける訳にもいかないぜ?)


(うん…。)


「ねぇ、君…。」


ロウアは冷静になると、腰を下ろして女の子と同じ目線になった。


「うん…、ヒック…。」


「君の本当の名前は…?1017というのは、本当の名前じゃ無いよね?」


「ヒム…、ヒムって言うの…。。で、でもその名前で呼ぶと叩かれちゃう…。

不適合者に名前は要らないって…。」


「ヒム…、君は人間だ。不適合な人間なんて自分の事を思ってはいけない。

君は右手が無いかもしれないけど、僕にはちゃんと右手が見えるよ。」


「えっ!本当に?私は生まれたときから右手が無かったのに?」


ロウアにはヒムの魂が見え、そこにはしっかりと右腕も見えていた。


「うん、本当だよ。魂は、みんな手足があるんだ。

天国に帰れば、手足は元に戻るし、来世に生まれ変われば新しい肉体にはちゃんと手が付いているよ。

今は生まれたときの遺伝子などの問題で手足が無いだけだよ。」


「そ、そうなの?みんなもそうなの?」


「そうだよ、みんなそうだ…。みんなちゃんとした魂だ。

神様はみんなを虐めたりはしない。」


「う、うぅ…。」


「だから、心だけは綺麗なままにするんだ。友達と仲良くして、決してめげたりしてはダメだよ。

君は、この世界に一つだけの偉大な魂なのだから。」


「い、偉大?すごいって事?」


「そうだよ。どんな環境だろうと魂は偉大なままなんだ。

だけど、心を汚してしまえば、天国には帰れない。

強く生きるんだ。強くね。どんな環境だろうと自分は偉大な魂だと思うんだ。」


「…うん、うんうん、分かったっ!!」


ロウアが魂の真実を話すと、落ち込んでいたヒムの顔に笑顔が戻り、彼の目にはヒムの頭の後ろからオーラの光が見え始めた。


「<どうしたの…?>」


別の女の子がヒムに話しかけると、ヒムは今聞いたことを説明した。


「<えっ!すごいっ!ふてきごうしゃじゃないんだっ!>」


それを聞いた他の子ども達も喜び始め、この空間は真っ暗闇だったが、様々なオーラが灯し始めた。


「<うるせえぞっ!!役立たずどもっ!!>」


だが、看守と思われる者の声が聞こえると、またオーラは小さくなってしまった。


「…ヒム、ごめんね。僕はここから離れないと…。」


「えっ!お兄ちゃん、どこかに行っちゃうの?」


「うん、少しだけね。ちょっとだけ待ってて。」


「うぅ…、うん、分かった…。」


「ごめんね…。いいね?絶対に負けたりしたらダメだよ。」


「うん!」


ロウアはそう言うと、ヒムの頭を撫でて上げて、子ども達の部屋を後にした。


(…お前、待っててって、どうするつもりだよ…。)


部屋を出ると魂のロウアが、不安になってそう言った。


(あの子達をここから逃がす。)


(む、無理だろ…。何人いたと思ってるんだよ…。数十人はいたぜ?)


(分かってる…。)


(んじゃ、どうすんだよ…。)


(僕はここの不正を公開する。世論を味方に付けるんだ。)


(お、おう…、だけど、この国じゃ…って…、あぁ、ムーでか?)


(そうだ。あの国なら。)


(まぁ、それなら…。だけど違う国の事だ…。何処まで助けてやれるか…。)


(だけど、このままにしておけないよ。)


(…お前は、神官様だし、聞いてもらえるかもだしな。)


(そうそう、僕は神官だからねって…、違うっ!)


(こんなところでボケツッコミをやってる場合じゃ無いぜ?

ま、どうでもいいや…。

んじゃ、アルんところに戻るぜ。)


(いや、まだだ。)


(は?)


魂のロウアは、何を言ってるかといぶかしげな顔をした。


(あの声のところへ行かないと。)


(ガキんちょだけでも大変なのに、まだあの部屋を調べるってか?危なすぎだって…。)


(大丈夫、神官だからっ!)


(自分で否定しておいて…。はぁ~。もう知らないぜ…、神官様…。)


ロウア達は再び、あの悲鳴の聞こえる部屋を目指した。



2019/12/15:タイトル修正

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