ムー大陸
池上はこれが何度目だろうかと思った。昨日も意識を失ってしまったのだった。
また目が覚めると朝になっていて、池上はベットの上にいる。池上は、ベットの上でしばらく考え事をしていると、またしても目が死んでしまっているような女性が現れた。
(ま、また……。この人は何なのだろう……。生きている感じがしない。でも、人間のように振る舞っているし……)
池上は、その女性に案内されるように、検査室のようなところに案内された。池上は部屋に入ると女性は部屋を出て行くのだった。
検査室なのだろうが椅子と医者以外は、何も無い部屋だった。
(こ、ここで精密検査?)
医者は昨日見た顎にひげを貯えた人だった。この人は普通の人間のように思えた。
池上は医者の案内のまま椅子に座る。
「□□□□□」
池上は医者の意思を読み損ねてしまい、何を言ったのか理解できなかった。
すると奥の扉から目の死んだような人間が、今度は三人も入って来た。手を前後させない歩き方には不気味さがあった。
<さっ、調べてくれ>
池上は意識を集中していたので、医者の思っていることが分かった。
(調べて……?)
三人は、頭を一人が手で押さえ、他の二人は、身体中をくまなく眺めていた。端から見れば、何とも気味の悪い状態だが、こんな状態が5分ほど続いた。
生きているであろう医者は、そのようすを眺めている。そして、おもむろに頭を触っていた医者の服を上までまくり上げると背中を見つめ始めた。
池上は何をしているのかといぶかったが、興味がわいて立ち上がってその背中を見つめた。
「!!!」
池上がその背中を見ると、パソコンのモニターのような画面が空中に浮いたように表示されていて、診断結果のようなものが映っていた。
「な、な、何?この人は人間じゃないの……?」
その様子を見て医者が説明した。
<酷く驚いているけど、検査用ロネントは見たことが無かったかな?
病院や、学校にもいると思うんだけど……>
(ロ、ロネント……?えっ、何なのそれ……)
池上が医者だと思っていたは、病院の検査のロボットだった。医者は、ロボットのようなこの人工生命体をロネントと呼んでいた。
池上がよく見るとその瞳は、車のライトを思わせるような輝きをしていた。肌は人間と余り変わらないような柔軟な素材で出来ているのか、ほとんど区別が付かない。
(こんな高性能なロボットが存在するとは……。ちょっと待てよ……、もしかして、この医者も……)
池上が、次に医者をじっと見つめるため、医者は、池上の気持ちを察したのか、先に説明した。
<うん?私はロネントじゃないぞ。はははっ。
検査は問題無いようだ。他のロネントも同じ結果だね>
池上は申し訳ないと思った。
<こちらの話していることは分かるようだね>
池上は、うなずく。
<それは良かった。君は記憶を失っているのかな?
私はそれが確信出来なくてね>
(記憶はあるんだけどなぁ……。どうやって説明したら良いのかなぁ……)
池上はそれを表現する方法が無くてもどかしかった。
<う~ん、どうしたものか……。
何というか、記憶喪失というか、急に不思議な世界に来てしまったという顔をしているんだが……>
池上は医者の直感に驚いた。池上はうんとうなずく。
<急に不思議な言葉を話すようになったからね……。
それに君の認識番号を記録したツナクトノともつながらなくなっているし……。
こんな事はあり得ないんだ。
意識が入れ替わったりしたら別だけどね>
(ツナクトノ……、それは一体……)
池上は質問やしようとするが、こちらの言葉が通じない以上、どうにも出来ない。
<だが、君はどこから?どうやって?
どこの言葉を話しているんだい?>
<あぁ、そうか。地図があれば良いかな>
そう言うと、医者は背中にモニターを持つロネントを操り世界地図を表示した。
「あっ……」
池上はその地図に唖然とする。自分が知っている世界地図では無いからだった。
(に、日本列島が無い……)
だが、じっと見つめていると、北極と南極が分かる。そして、画面の真ん中にある菱形の大地があった。
その大地の北部に赤い点が点滅していて、ここの場所を示していた。
池上はその大地を指さして、ここが今いる場所かと身振りで確認した。
<うん?そうだよ。ムーを知らないなんて……。本当に君はどこか別の世界から来たような感じだなぁ。
言葉は翻訳できないし、一体どうなっているのか……>
「ムー?ムー大陸っ!そんなバカなっ!」
<そうだよ。ムーだよ。ん?ムーの後に何ていったのかな?>
「ぼ、僕は、ムーの時代に飛ばされたんだ……」
池上は、自分がムー大陸にいることを知った。
医者は、この病院がムー大陸の中央にある首都ラ・ムーにあると教えてくれた。
「あ、あり得ない……」
よく見るとアジア大陸は北の方が海になっていて、アメリカ大陸も半分が海になっている。
南アメリカは大きく二つに分かれている。
池上は、あのブラックホールに飲み込まれたことでタイムスリップしたことを知った。
「そんな、そんな、タ、タイムスリップだなんて……。意識だけこの時代に飛ばされたのか……」
池上は、肩の力を落として椅子でうなだれてしまった。
「ぼ、僕だけが飛ばされたというのか……。
な、永原は……?
あ、あの羊顔の奴はどこにいった……」
池上は21世紀で一緒にブラックホールに落ちた大学の同級生である永原と、池上を幼い頃から陥れようと画策し、
大田町を大地震や、インフェルノの塔を呼び出し、大田町の人間を陥れた羊顔の悪魔を思い出していた。
<う~ん、酷く驚いているね……。
どこから来たかも分からないのかな……。
まだ、体力が戻っていないだろうし、今日は病室で休みたまえ>
池上がうなずくと、医者は看護師ロネントを呼び出し、病室に案内させた。
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池上はやることも無く、窓の外を眺める。
車は空を行き来しているが、道路にも車らしきものが動き回っていた。
遠くを見ると、地平線が見えて、大きな山らしきものは見えない。
空は青く、排気ガスもなさそうで澄み切った青空が広がっていた。
(どの時代でも青い空は綺麗だ)
<おや、若いこと……>
すると同じ病室にいた老婆が話しかけてきた。
<お若いのに病気だなんて、珍しい>
ムー大陸の人間は、病気からは縁遠い。
池上が治療しているような再生治療もあるし、怪我やすぐに治ってしまう。
また、細菌、ウイルスなどの感染症も治療が進み、治療は家でも一日もあれば治ってしまう。
現在の先進国で流行っている成人病はその全ての治療方法が確立しており、家での治療が可能となっていた。
つまり、入院するという事はほとんど無く、この老人のような治療が家では出来ないような人だけが入院する事が多かった。
<あら、腕が……。大変ねぇ……>
その優しいまなざしの老婆に、池上は応えることが出来ない。
ロウアは、身振り手振りで、自分は話せない旨を伝えた。
<あら、声が出ないのかしら?>
実際には違うのだが、池上は説明のしようも無く、うなずいて応えた。
<大変ね、私は、ほら、こんな歳でしょ?治療も効かなくなってしまって、こうして旅立つ日を待っているの。ふふふ>
ロウアは、老婆が悲しい話をしているのに、笑顔でいることに驚いた。
<そんな悲しい顔をしないでね。もうすぐラ・ムー様のいる天に召されるだけよ>
にっこりとする老婆だった。
(ラ・ムー?昔呼んだ本ではムー大陸の指導者と書いてあったが……)
ロウアはこの女性が話すラ・ムーとはどのような人なのかと思った。
質問をしたいがそれも出来ない。
<ほら、これでも食べる?>
(グゥ~)
ロウアは海で溺れたから食事を取っていないことに気づいた。
老婆の差し出した果物の匂いで思わすお腹がなってしまい、顔を赤らめてしまう。
<あら、お腹が空いているのね>
老婆は果物の皮をむいてくれた。
その果物はリンゴのような形をしていたが、一回り大きかった。
「う、うまいっ!」
ロウアは一口食べると、思わず声が出てしまった。
<あら、声は出るのね。ごめんなさい。外国の方だったのね。どこの言葉かしら。
ウマイ?おいしいという意味かしら、北西の国で聞いた事があるかもしれないわ。
と言っても、私の言葉は分からないわね……。
お腹が空いているなら、もう一つ如何かしら?>
ロウアはうんとうなずいた。
<うふふ。お見舞いにみんな色々な物を持ってきてくれるのよ。
たくさん食べてね>
老婆は自分のお見舞いの品をロウアに振る舞ってくれた。
ロウアはお腹がいっぱいになると、老婆に頭を下げてお礼をした。
(あれ?お礼はこれでいいのかな?)
<あらあら、お礼なんて良いのよ>
(あ、合ってた良かった……)
ロウアはお腹が膨れて眠くなってきたので自分のベットに戻った。
(……しかし、ここがムー大陸だなんて……。
確か本には、1万2千年前に海に沈んだと書いてあったと思うが……。
……というか、実際に存在していたということか……、信じられない……。
何故僕はここにタイムスリップしてしまったのだろうか)
ロウアは自分に起こった出来事に理解できないまま、色々な事を考えているうちに眠ってしまうのだった。
ム 神々の光りを伝え
ウ 世界中に広げる大陸
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ラ 神々の光を体現し、広める者(聖職者)
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ム 神々の光りを人々に伝えて
ウ 広げる存在
2022/10/08 文体の訂正