四日目:人工知能中枢ルーム
この後も、ロウア達は案内人に従って、国会を一通り歩き回った。
やがて、片面がガラス張りになっている大きな廊下に案内された。
ガラスの向こう側には、何列にも及ぶ人間の背丈ぐらいの物体が綺麗に並んでいるのが見えた。
パンフレットデータを確認したロウアは、ここがアトランティスの政治中枢を担っている人工知能ルームであることが分かった。
案内人は、廊下の中央辺りの少し広がった所で止まると、説明を開始した。
"え~、ここが、人工知能の中枢ルームとなります。
我が国にでは国の政策を決定するためにムー国から授かった人工知能を使っています。
ムー国の数千年もの歴史を学ばせた人工知能は、我が国において間違った判断をする事も無く、今に至っています。
国民も幸せな生活をおくっております。"
(間違った判断をしていない…?)
ロウアは案内人の説明に一瞬怒りを覚えた。
(政府の延命だけを考えていて?
国民の自由をこれだけ奪っておいて?
国民のことを考えている?)
すると隣人がすぐにその考えを遮ってきた。
(待て待て、イケガミッ!んなに敵対心を抱くなってっ!)
(人間の思考は自由だよ!)
(…んだよ、頑固だなぁ…。
とにかく、お前は監視されているだ。分かってるだろ?
ツナクトノを外しておけって。)
(…分かったよ…。)
珍しく慎重な隣人に、ロウアはツナクトノを腕から外した。
(んにしても、ここは、うざったい奴が多いぜ。
あ~、うっさいっ!あっち行けってっ!)
魂のロウアを含め、ロウアとイツキナは、霊の言葉が聞こえるので、あらゆる場所で蜘蛛の従者となった者の霊体達から罵詈雑言を食らっていた。
(早く帰れぇぇぇぇっ!)
(お前たちの居る場所じゃねぇぇぇっ!!)
(俺達の国に来るなぁぁぁ!!)
(反吐が出る顔だぜぇぇぇっ!)
(縄張りから出て行けぇぇぇぇっ!!)
たまりかねたイツキナは、ロウアに泣きついてきた。
「カミ君…、か、帰りたい…。これはたまらないよ~…。」
「…確かに、ここは酷すぎますね…。
なんでこんなに僕らに敵対心をむき出しにするんだろう…。
公園の人達はこんな感じじゃ無かったのに…。」
「従業員とか議員さんとか、みんなで私たちを嫌っているみたい…。」
身体を震わせているイツキナにアマミルも気づいた。
「イツキナ、どうしたのよ?さっきからあんた震えているわよ?」
「あ、あのさ~…。」
イツキナはアマミル達に小声で説明した。
「…そ、そうなの?私たちは聞こえないけど…。」
「そりゃそうよ~…。従業員とか議員さんの魂とかさ~、それに取り憑いている人とかなんだもん…。
てか、人って姿じゃないんだけど…。蜘蛛よ、蜘蛛。蜘蛛人間っ!」
「う、う~ん…。」
その話を聞いていたアルは、怪訝そうな顔をした。
「やだやだやだ~っ!ここの人達って本当は私たちのことを嫌っているって事ですかっ!!」
「ア、アルちゃん、声が大きいっ!」
「シアムの方が大きいじゃんっ!」
アマミル、イツキナ、ロウアは、そんな二人の大声に頭を抱えた。
大声は案内人と見学者達にも筒抜けだった。
"あはは…。ムーから来た学生さん…、え~、我々は嫌っていませんからね~。"
そんな案内人の声で他の見学者達は苦笑いをした。
アルとシアムは顔を赤らめた。
「い、いや~~っ!あははっ!
え、え~~と、きら、嫌いなわけないっ!そうですっ!そうですっ!
ねっ!シアムゥッ!」
「にゃにゃにゃ…。す、好きです…。」
もはや何を言ってるのか分からなかったので、見かねたアマミルはため息をすると二人の前に出てきた。
「大変、失礼しました、皆さん。この子達は、初めての旅行で疲れていまして。
嫌いとか何とか言っていますが、今までの私たちの国同士の関係を考えればあり得ないと分かっています。
子どものわがままと思って、聞き流して下さいませ。」
"そうですか…。確かに長旅でお疲れのようですね…。
え~、あぁ、そうだ。
まだ半分ぐらいですが続けることが難しいようなら、あちらから出ることも出来ますから。"
案内人はそう言うと、途中から出来ることの出来る出口を指し示した。
「あぁ、ありがとうございます。私も少し風邪気味ですので、私たちはここで失礼いたします。」
アマミルはそう言うと、みんなそそくさとその場から立ち去って、外に出た。
外に出た途端、やらかしてしまったアルとシアムはアマミルに深く頭を下げた。
「アマミル先輩っ!ごめんなさいっ!!」
「ごめんなさいっ、にゃあ…。」
「大丈夫よ、気にしないで。」
アマミルがそう言うと、イツキナはアルとシアムの手を握った。
「いやぁ~~、逆に私は二人に感謝だよ~~。あそこの人達には正直うんざりだもん。
案内してくれた人は、全然だけど職員や、議員っぽい人は悪口が酷すぎっ!
大統領なんて大妖怪だったしねぇ~~。
ねぇ、カミ君。」
イツキナはロウアに話を振ったが、
「はい、確かに。」
ロウアは、ぼそっとそう答えた。
「はぁ、もう疲れたわぁ…。この力って封印できないのかしら…。
ねぇ、カミ君、コトダマで何とか出来ないの?」
「コトダマを使えば出来るかもです。」
「おぉっ!
それにしても、君はあんまり気にしていないね。」
イツキナは、さっきから冷静なロウアを不思議に思った。
「…あはは…、まぁ、何というか…。慣れていますからね。」
「な、慣れてるの?!」
イツキナは驚きの声を上げた。
「えぇ、まぁ…。」
ロウアは池上だった頃、幼少時から母親に取り憑いた悪魔から同じような罵詈雑言を食らっていたので、ムーに来る前は日常茶飯事だった。
この場所は、多少うるさいかな、程度と思っていた。
「だけど、こんなに攻撃的な人達に出会うのは久々ですね。
ムーではこんな事ありませんでしたから。」
「はぁ~、そうなの?」
「ムーは魔に魅入られた人が少ないですから。」
「ふ~ん…、ムーは良い国なのかなぁ。」
「えぇ、ムー国は、ラ・ムー様とその配下の神格をもった方々に守られていますよ。
だけど、この国は…。」
「違うってこと…なのね…。」
イツキナがそう言うと、ロウアはこれまでに感じていたことをみんなに説明した。
「アトランティス国は、来たときから感じていましたが、霊的に酷く冷たい場所です…。」
「なぁに?気温みたいに?寒いって事?」
アマミルは気温と同じなのかと聞いた。
「それ以上というか…。」
「どういう意味だよぉ~。」
アルも理解できないようだった。
「…適切かどうか分かりませんが、神様から見放されている場所というか…。
人間が自分達の欲で作った国というか…。
ムー国は先ほど話したとおり、ラ・ムー様に守られていますが、ここの国は、始祖となる神が居ないのでは無いかと…。」
「そうなんですか、寂しいです、にゃ…。」
シアムは少し寂しそうにそう言った。
「この現状を見る限りそう思わざるを得ないわね…。
しっかし、カミィ君は、神官様みたいな事を言うのね。」
「は、はぁ?!」
イツキナの指摘にロウアはまた言われたと思って、ずっこけそうになった。
「イツキナ先輩、カミィは、いつもそうですからっ!」
アルはここぞとばかりに付け加えた。
「コトダマといい、全く君は不思議な子だなぁ。」
イツキナは腕を組みながら、そう言った。
「そ、そうですか…。
と、取りあえず、霊的な能力を下げるコトダマを…。」
「おっ!それそれっ!!」
<<力を止めるコトダマ! ワ・カケヘ・ソソ!>>
ロウアは、イツキナの前に立つと、コトダマの一文字一文字を両手で描いていった。
その時々で両手を合わせて出す音は、柏手のようだった。
「…おっ、静かになったっ!さっすが~っ!」
すると、イツキナの身体が少し光ると彼女の霊的な力が抑えられた。
(…これを子どもの頃に知っていたら、あんなに苦労しなかったかも…。)
ロウアはコトダマを知っていたら、子どもの頃の霊的な攻撃や、知らない霊に取り憑かれて多重人格化しなかっただろうと思った。
「私もコトダマを思いつかないかなぁっ!!」
「イツキナ先輩もコトダマを使えるはずだから、編み出せるはずですよ?」
「えっ!出来るの?
でもさ、どう組み合わせて良いか分からないよ~。
君はどうしているのさ~。」
「やりたいことを思うだけで、勝手に言葉が浮かんでくるのですが…。」
「なんだそりゃっ!神様からの啓示でも受けているんじゃない?」
「すごいですっ!カミッ!」
ロウアの言葉に、イツキナとシアムは感嘆の声を上げたが、
「やだやだやだ~っ!やっぱ、カミィはヘンタイだなぁっ!」
アルは、それをヘンタイと切って捨てたのでロウアはずっこけた。
「な、何故ヘンタイになる…。」
取りあえず落ち着いたのをアマミルは見届けると、
「まぁ、良いわ。行きましょうか。」
と行って移動を促した。
「は~いっ!」
「はい、にゃっ!」
「い、いや、良くないですよ…、アマミル先輩…。」
ロウアの情けない声はみんなには届かず、一同は次に行く予定だったお菓子食べ放題の店に向かった。
(あ~、良かった。調子できていたみたいね。)
イツキナはアマミルが仕切り始めたので、少し落ち着いたのか思って一安心した。




