三日目:国立公園:ベンチで休憩
回答を一時間ほど集めると、ロウアとシアムは、すっかり疲れてしまったので休憩のためにベンチに座った。
「イケガミ兄さん、お疲れ様です。」
シアムがねぎらいの言葉をロウアにかけた。
「シアムもお疲れ様。以外と疲れたね。そろそろ、ケーキ屋さんに移動しないとね。」
「はい、にゃっ!でも、移動も含めるともう少し時間がありますねっ!少し休みましょうか?」
「そうだね。」
ロウアは、シアムの気遣いがありがたいなと思った。
「それにしても、色々と意見がもらえましたねっ!」
「うん。ムーの印象がとても良いから驚いたよ。」
ロウアがそう言うと、シアムは少し首をかしげた。
「驚きましたか?そうですか、にゃ?」
「植民地政策って言うから酷い印象を持っているんだと思っていたからね。」
「なるほど~。
前にお話ししましたけど、アルちゃんとここでコンサートをしたときは、すごく盛り上がってくれたんですよっ!
私、アトランティスの人達は大好きですっ!」
「そっか~。僕の先入観は、間違っていたかな。」
ロウアも笑顔で答えた。
「う~ん、でも、イケガミ兄さんが、そう思うのも仕方ないかもです…。」
「アルと話していた酷い植民地政策というのがあるんだっけ…?」
「…植民地政策というか、あれは政府主体ではありませんし…。」
シアムがそこまで話すと顔をしかめて、泣きそうになってしまいそうになった。
ロウアは話を変えないといけないと思った。
「シアム、ちょっと待ってて。」
「は、はい、にゃ?」
ロウアは、目の前を通り過ぎていった販売員を止めると、アイスを二本購入して一本をシアムに手渡した。
「これでも食べようっ!」
シアムは、また猫耳をピンと立てて喜んだ。
「にゃっ!!!良いですのかにゃ?」
「もちろんだよっ!
今日は手伝ってもらったからねっ!」
「ありがとうございますっ!!」
シアムが満面の笑顔になると、ロウアは自分がこの時代に来たときの事を思い出した。
「そう言えば…。」
「そう言えば…?」
「ほら、僕がムーに来て入院していた頃、同じようにアイスを食べただろ?
あの時はアルも居たよね。」
「はにゃっ!そうでしたねっ!」
「あの時みたいだな~と思ってっ!」
「ですねっ!
…そ、そうだ。私も思い出しました。
あの時、イケガミ兄さんが私の耳を…。」
「あ”っ…。」
ロウアは、初めて見たシアムの耳を何かのアクセサリだと思って、躊躇無く触ったのを思い出した。
「あ、あの時は…、そ、その…。本物だって…知らなくって…。」
今更ながら謝るロウアに、シアムは笑ってしまった。
「ふふふっ!知らなかったんですから仕方ないですっ!
イケガミ兄さんの国には、猫族は居ないのですか?」
「う、うん…。そ、そうだね。居ないな…。シアムが初めて…だよ…。」
ロウアは、猫耳を持った人間が日本に居ないどころか世界中の何処にもいない事を言えず、困ってしまった。
恐らく何かがあって絶滅してしまったのだろうと予想していた。
ロウアの困った顔を見たシアムは、
「イケガミ兄さん、あの頃に比べて、沢山しゃべられるようになって良かったです、にゃ。」
と別の話をした。
「二人のお陰だよっ!ありがとねっ!」
ロウアに礼を言われてシアムは、顔を赤らめると猫耳と一緒に下を向いた。
「にゃ、にゃぁ…。照れちゃいます…。」
「あははっ!
このアイス、美味しいねっ!」
「はい、にゃっ!」
ロウアはそう言って、ふと顔を上げると目の前にふわふわと空中を浮遊するように丸い物が浮かんでいた。
それは、アトランティス政府が市民を監視するためのカメラだった。
ロウアは、ここに来るまでにも街中に同じような丸い物体が浮遊しているのを見ていた。
それは、歩道の他にも、建物の中や、トイレの中にも浮いていて、あらゆる場所から市民をじっと監視していた。
目の前のカメラのように浮遊しているものもあれば、固定されているかのようにじっと同じ場所に浮いているものもあった。
(こんな監視カメラだらけでイヤじゃ無いのかなぁ…。)
ロウアがそんなことを思っていると、魂のロウアも話しかけて来た。
(それについても聞きたいんだろ?)
隣人が話したように、ロウアの"裏の目的"は、もう一つあった。
それは、この異常なほどの監視体制についてだった。
これについて、市民の声を聞いてみたいと思っていたのだった。
ロウアが事前に調べた時、監視カメラは非常に多いと記述があった。
表向きには、強盗や窃盗などは、少なくなったと記載されてあったが、本当の目的は何なんだろうかと思っていた。
(…お前、分かっているんじゃないのか?)
(……。)
(カメラだけじゃないだろ?ツナクを使って、ここの国がやっていることを、さ。
お前の心はお見通しだぜ?こいつについても聞きたいんだろ?)
(……。)
ロウアは、隣人の言いたい事が分かっていたが、今は答えないでいた。
「シアム、先輩達と合流しようか。」
「はい、にゃっ!」
シアムの笑顔でロウアは、少し心が安らいだ。




