蚊帳の外
ロウアは、学習旅行の草案を見せると、足りていないところについて付け加えるように説明した。
「まだ後半が決まっていなくて。
あっ!す、少し自分の主観が入っています…。
僕の時代のことも書いてありますが無視して下さい。
提出するときに直します。」
そして、ふと女性陣を見ると、全員が呆れた顔をしていたのでロウアはキョトンとした。
「あ、あれ…?」
アマミルは、眉をひそめながら、
「イケガミ君…、ちょ、ちょっと待ってよ。ありえないわ…。」
とぼやくように言った。
イツキナは、感心しつつも、
「細かいなぁ…。しっかし、これだとさぁ…。」
と、怪訝そうな面持ちだった。
「やだやだやだ~っ!これって本気なの?何だかなぁ…。」
アルも呆れていた。
「わ、私は良いと思いますっ!イケガミ兄さんらしくてっ!」
シアムは、フォローするように言ったが、言いたい事を我慢しているようだった。
ロウアは、女性陣のおかしな雰囲気を感じたが、何が悪いのか分からなかった。
「な、何が悪いのですか…?
あぁ、僕の時代のことは後で話しますよ。
…そ、そっか。
氷壁見学は関係ないからかなぁ…。止めますか…?
…あれ、違う?
こ、後半ですか?
決まっていないから不安ですよね。みんなで決めていきま…。」
ロウアの言い訳まがいの説明を聞いて、アマミルは、
「はぁ、分かって無いわ…。」
と切り捨てた。
「ど、どこが…ですか…?」
ロウアは具体的に教えろと言いたかった。
「まずね、一日目だけど…。」
「はい…。」
「5時に集合ってところ。ここがまずダメ。」
アマミルがそう言うと、女性陣は、うんうんと頷いた。
ロウアは思わぬところを突っ込まれて焦って説明を加えた。
「そ、そこですか?!だって、ムーから15時間ぐらい掛かるって書いてあったから…。」
「それは知ってるけど…。
はぁ~、バカねぇ…、夜出発に決まっているでしょっ!
翌朝から行動すれば良いじゃ無いっ!」
「だ、だって、一日目が無駄になってしまいますよっ?
そ、それに、車内で寝るから疲れてしまいますってっ!」
「もうっ!ベッド付きの部屋に泊まりながら移動するに決まってるでしょっ!
この前みたいに椅子で寝るつもりなの?
今度は、親からお金が出るのよ?目一杯使わないでどうするのよっ!」
アマミルは、メメルトの実家に行ったときのことを混ぜながら、ロウアの計画を更に切り捨てた。
アルはアマミルに同意するように
「そうだよ~っ!イケガミィ、ここは親に甘えないとぉ~。
夜行便なら寝ながら行けるってば~っ!」
と言った。
「いや、だって…。親のお金だからこそ、節約しないと…。」
"池上"だったころの貧乏生活が染みついているロウアだった。
次にイツキナが文句を言う番になった。
「細かく書いてあるけど、なんか色々抜けているよねぇ~。」
ロウアは、イツキナは同意してくるのかと期待した。
「…そ、そうなんですよっ!!
公園で誰に質問するとか、決まっていなくてっ!
年齢層が大事ですよねっ!
それに国会や、管理局に許可を得ないと行けないですしっ!」
ロウアが一生懸命説明したが、その回答が的外れだったので、女性陣は大きなため息をついた。
そして、アマミルが代表するようにぽつりと言った。
「つま…」
ロウアは何を言っているのか分からなかった。
「"つま"?何が"つま"?」
女性陣は、声をハモらせるように連続して発生した。
「つま…」「つま…」「つま…」
「みんなどうしたの?」
「つまんないっ!!」
「つまんない~っ!!」
「つまんない~~っ!!」
最後には、息を合わせてロウアに向かって吐き捨てるように叫んだ。
「えっ…、いや…、いやいや…。な、なんで…。」
だが、シアムだけは、
「そ、その…、真面目なイケガミ兄さんらしくて、その…、良いと思いますが…、その…、た、楽しいことも入れた方が良いかな~って…。」
フォローしつつも、ロウアの計画に遊びが無いところを指摘した。
するとイツキナが私が教えてあげるという体で、
「大体ねぇ、食事はどこで取るのよ?」
と食事する場所を聞いたが、ロウアは、決めていなかった。
「食べるところぐらいは何処にでもありますから決めていませんよ…。」
アルとアマミルは信じられないといった顔をした。
「やだやだやだ~っ!」
「バカねっ!そこは大事よっ!」
いつもの口調でロウアの計画を否定すると、今度は女性陣で一斉に話し始めた。
「まぁ、大枠はイケガミ計画で良いとして、細かいところは全部見直しね。」
アマミルは、そう言うと、ロウアの草案を一旦、全部白紙にしてしまった。
「あっ!」
ロウアはデータが消されて肩を落とした。
「みんな一日目は一緒に準備しにデパート集合ね。」
アマミルは提案しながら計画をモニターに書き込んでいった。
「そうねっ!みんなで色々と準備しようっ!」
「そうですねっ!」
「はいっ!」
イツキナとアルとシアムも同意した。
「…そんな準備は、予めできるかと…。」
ロウアの意見は聞かず、アマミルは、TBDという文字について聞いた。
「これって何て読むの?これの意味が分からないわ。」
「それは、"今は決まっていないけど後で決める"って意味です…。」
「なんだ。ロウア語なのね。」
アマミルはそう言うと、さらっと消し去った。
「な~~っ!!」
イツキナはいつの間にか、ツナクで氷壁の観光地を調べていた。
「氷壁のところだけどね。
名物の海産料理があるらしいわ。魚の身が引き締まっていて美味しいんだってっ!」
「あら、本当ね。このお店、良いじゃないっ!」
「素敵ですっ!」
「美味しそうですねっ!」
動画で食事が紹介されていて、それがあまりにも美味しそうだったので、アマミルとアルとシアムは目を輝かせた。
「それじゃ、決定ね。」
アマミルは、計画に書き込んだ。
イツキナは、観光地の名物を調べては次々と発言した。
「あっ!氷壁で作った"かき氷"が絶品らしいよっ!」
「冷たそうだけど、美味しそうじゃない。これは食べないとダメね。」
アマミルは、計画に書き込んだ。
ロウアは、
「えっ?寒いからかき氷は…ないのでは…。」
と、かすかに突っ込んでみたが、誰も聞いていなかった。
イツキナは、次に雪合戦というゲーム方式のイベントを見つけて、
「雪合戦をやっているんだってっ!
何組かに分かれてこんな風に大砲で撃ち合うんですってっ!!」
と、大砲を使って雪を飛ばす動画を真似ながら言った。
「あら、良いじゃない。」
「楽しそうっ!!やりましょうっ!」
「うんっ!うんっ!」
他の三人もやる気満々だった。
アマミルは、計画に書き込んだ。
「いや、そんな時間は…。」
もちろん、ロウアの声は聞こえていない。
次にアルはアルは首都での経験を話した。
「アマミル先輩、イツキナ先輩、首都の大通りにあるケーキ屋さんにも行きませんか?
あそこは美味しいですよっ!ねっ、シアムッ!」
「うん、美味しかったねっ!」
アルとシアムは、かつてカフテネ・ミルのコンサートでアトランティスに行った事があったのだった。
「おぉっ!そうか、二人は、行ったことあるのねっ!良いなぁ~~っ!」
イツキナは羨ましそうに感嘆の声を上げた。
「そうなんですよっ!先輩達、一緒に行きませんか?」
「そうね。行きましょうっ!」
アマミルは、計画に書き込んだ。
「…そ、そんな計画入れたら、質問時間が無くなって…。睡眠時間もなくなって…。」
もはやロウアはいないのに等しかった。
「ねぇ、ちょっと見てよっ!
首都で四つ足動物のお肉を食べられるらしいわよっ!!
半分生焼けにして食べるらしいわっ!」
イツキナは、動画で所謂ステーキが半焼けでジュ~といい音を出しているのを見て、よだれを垂らしそうになりながら話した。
「あぁ、草食の動物ね。聞いたことあるわ。
アトランティスで飼育されているんでしょ?
…あら、すごく美味しそうじゃないっ!」
アマミルも同じ動画を見て、よだれを垂らしそうになっていた。
「私たちも食べたいですっ!この前、時間が無くて食べれなかったんだよねっ!」
「そうだったよね~~。今度こそっ!」
アルとシアムは時間が無くて食べれなかったことを話した。
アマミルは、計画に書き込んだ。
「いや、それ高いじゃないですか…。そんな予算は計画していなくてですね…」
次にアマミルは、ロウアの作った表紙にもケチを付け始めた。
「この表紙もつまらないわね。学習旅行って書いてあるだけじゃない…?」
アルは、それに対して、
「アマミル先輩、私が絵を描きますよっ!なんかすごく楽しそうなやつっ!」
面白い絵を描くと提案した。
「うん。お願いねっ!後から見て、すごく思い出になりそうなのが良いわっ!」
「分かりましたっ!お任せをっ!!」
「私も手伝うねっ!」
シアムも手伝うことを宣言した。
アマミルは、計画に"表紙作成予定"と書き込んだ。
「絵ですか?それは要らないのでは…。」
次にアマミルは、気になっているところを議題に挙げた。
「アトランティス人とは、言葉は通じるの?」
すると、アルは、
「自分達の言葉を作って話しているから、ナーカル語は通じないですね。」
と、ナーカル語が通じないことを話した。
「あら、困ったわね…。」
ロウアはすかさず、
「そ、そうなんですよっ!
その言葉って、きっと僕の時代の英語の語源、つまり、ラテン語の語源じゃないかと思っているんですよっ!」
と話してみたが、もちろん誰も聞いていなかった。
イツキナが困り顔で
「ふえ~、勉強しないとね~…。」
と言うと、シアムは、
「大丈夫ですよ。ツナクを通して通訳できますから。私たちも現地の設営さんとお話しできました。」
ツナクトノの自動翻訳機能で問題無いことを教えてあげた。
「おっ!そんな機能あったのかぁ~。使ったこと無かったよ。こりゃ、すごいっ!」
イツキナが安心したところで、アルが別の提案を出した。
「アマミル先輩、イツキナ先輩っ!首都で音楽を聴きに行きましょうよっ!
すっごい大きな音楽堂があるんですよっ!」
「あっ!アルちゃん、それ良いねっ!私もみんなで行きたいっ!!」
「良いわねっ!!」
「素敵ねっ!あぁ、ここかぁ、すごく綺麗な形をしているのねっ!」
シアムが同意すると、アマミルとイツキナも諸手を挙げて喜んだ。
「お、音楽?いや、それは不要では…。」
その後も、ロウアを抜かして、女性陣はあそこに行こう、あれを食べようと大盛り上がりで、ロウアの草案は次々と書き換えられた。
「え~っと、僕の話…、き、聞いてる…?
…うん、そうだよね…。聞いていないよね…。
あぁ、勝手に計画が変わっていく…。
よ、夜は報告の時間を入れないと…。
ふ、不要ですか?
一人でまとめろ…と…。」
一部始終を聞いていた、別動部隊のマフメノ、ツク、ホスヰは、ロウアに同情した。
「イケガミィ、大変そうだねぇ…。」
「そ、そうですね…。」
「あうんっ!お兄ちゃん、頑張れっ!」
「あはは…。」
すっかり蚊帳の外に居るロウアは、力ない笑い声で答えるしかなかった。
魂のロウアは、もちろん大爆笑だった。
(ぷぷぷっ!!ゲラゲラゲラッ!
だ、だから、適当にやれって言ったのにっ!
お、お前…、こいつらの、クククッ…、性格全然分かってないなっ!
クククッ…。は、腹痛ぇ…。
身体ないけど、腹痛ぇ…、ヒッ、ヒッ、ヒッ…。)
そんな隣人を見て、ロウアは何も言えなかった。
「はぁ~…。」
ロウアは、大きなため息をついた後、この四人と学習旅行に行くのはこれきりにしようと思った。




