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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
生命の始まり
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生命の始まり

広大な草原にシアムは歩いていた。


「私どうしてここに…?

だけど、綺麗な草原ね…。前にもどこかで…?」


白いワンピースを着たシアムは、あてもなく歩き続け、少し大きな丘にたどり着いた。

右を向いても左を向いても、どこまでも草原は続いていた。

太陽は眩しく、シアムと草原を照らしていたが、熱くなかったのは、時々、心地よい風が吹いているためだった。


「とても良い風…。」


シアムが腰を下ろして、そんな風を感じているときだった。


「ララランッ♪ララランッ♪」


後ろの方から、優しい歌声が聞こえて来た。


「ララランッ♪ララランッ♪

藍色は素直な色 弱い人を放っておけない♪

えへへっ!」


「あっ!あなたっ!!」


シアムが声の方を振り向くと、歌っていたのはシイリだった。

シイリは、姉を見つけると手を振って、近づいてきた。


「お姉ちゃんっ!待ってたよ~~っ!久しぶりっ!!」


「シイリ、どうしたの。こんなところで?

でも、あなた天国に帰ったはず…?あれ…、ここって天国…?」


シアムが疑問に思っていると、満面の笑顔でシイリは話を続けた。


「えっとね、今日は挨拶に来たんだ~っ!」


「あ、挨拶…?」


シアムは、挨拶の意味が分からなかった。


「うんっ!今度、また生まれることになったんだ~~。」


「う、生まれる?」


「そうだよ~っ!今度は、ちゃんと人間にだよっ!えへへっ!

こんなにすぐに生まれ変わることは無いってお婆ちゃんが言ってたの。

特別なんだ~って。」


「…そ、そうなのねっ!良かったっ!」


生まれ変わるという意味を理解しきれなかったが、あまりにも嬉しそうにシイリが話すので、シアムは優しく微笑んであげた。


「もう少ししたら、お話しできなくなるから、ご挨拶しようと思って。

生まれ変わると記憶が無くなくなっちゃうんだって。

でもね、また天国に戻ったら、思い出すから心配しないでって。」


「それもお婆ちゃんが…?」


「そうだよ~っ!

うんとね、また妹になるから、よろしくね。そしたら、お姉ちゃんは、またお姉ちゃんだ~~っ!」


「えっ?それって、どういう意味なの…?」


「えへへ…、また、仲良くしてねっ!またみんなに会えるの楽しみだなぁ~~っ!」


「シイリ…、あなた、どこに生まれるの?もしかして…。」


「もうすぐ、もうすぐだよ~~っ!楽しみすぎて、シイリはワクワクッ!」


シイリは、腕をぐっとして楽しみであることを姉に知らしめた。


「シイリ…、シイリ…、あれ…。声が…、声が遠くなっていく…。

ご、ごめんなさい…、よく聞こえないわ…。」


シアムは、シイリの姿と声が遠くなっていくのを感じた。

だが、彼女が自分に手を振っていることだけは分かった。

そして、彼女の口の動きから、"またね"と言っていることだけは、分かった。


-----


「…ふにゃっ…!?」


シアムが、目覚めると小鳥の鳴き声が朝になったのを知らせていた。


「…シイリ…、あの子の夢を見るなんて…。

ん?そう言えば、生まれるとか何とか…?

変な夢ね…。」


身体を起こしたシアムは、薄れていく夢の記憶から、かすかにシイリが伝えたいことを思い出していた。


-----


その夜、シアムが学校から戻ったときだった。


「ただいま~~っ。」


「おかえり~。」

「おぉ、お帰り。」


シアムが自分の部屋に鞄を置いて、リビングに行くと両親ともソファに座ってくつろいでいた。

いつも帰りの遅い父親も居たのでシアムは驚いてしまった。

シアムは、向かいのソファに座ると、


「お父さん、早いのね。」


と父親に聞いてみた。


「そうなんだ。お前に報告があってな…。…ちょっと恥ずかしいんだが…。」


「どうしたの?変なの、改まっちゃってっ!」


頭を掻きながら照れている父親を見て、シアムはどうしたのかと思った。


「今日、母さんと病院に行ってきたんだよ。」


「えっ!病院?お母さん、病気なのっ?!」


「すまん。違うんだ…。さ、産婦人科だよ…。」


「にゃっ?」


「…じ、実は、母さんが妊娠したんだ…。」


「にゃっ?!にゃっ?!」


シアムが母親を見ると、同じように顔を赤くしていた。

両親が照れている姿を見るのは初めてだったので、シアムは嘘をついているとは思えなかった。


やがて、徐々にその事実を実感すると、


「おめでと~~っ!!お母さんっ!!お父さんっ!!」


と大声で母親の妊娠を喜んだ。


「すごいっ!すごいっ!」


娘の喜びようを見て、父親の緊張がほぐれた。


「あぁ、お前が、そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ…。ほら、こんな歳だろ…?」


「そんなこと無いよっ!妹が出来るなんて嬉しいっ!」


娘が妹だと断定したので、母親は驚いてしまった。


「シアム…、どうして妹って分かるの?まだ、性別は分からないのに…。」


「えへっ!内緒っ!でも、妹だよっ!」


「不思議な事を言うなぁ。」


父親は不思議そうな顔をしていたが、


「でも、女の子なら名前は決めているんだ。」


と言った。

その時、三人は笑顔になった。


「シイリっ!」

「シイリっ!」

「シイリっ!」


親子は声を合わせて、その名前を呼んだ。


「ふふふっ!!!」


シアムが笑うと、父親も笑顔になった。


「あぁ、お前もそう思っていたのか?」


もちろん、母親もそうだった。


「…あの子がまた生まれたら良いなって、お父さんとお話ししていたのよ…、グスッ…。」


「その子は、シイリだよ。この前、夢でまた妹になるからよろしくね、ってお話ししたの。」


「あぁ…、そうか。そうだったのか…。」


父親はシアムが妹だと断定した理由が分かった。


「そう…、そうなのね…。あぁ、シイリ…、また私の娘になってくれるのね…。

また会いましょう…。私の可愛い子…。」


母親も笑顔になり、そう言いながら自分のお腹を撫でて上げた。


「さ、ラ・ムー様に感謝して、シイリが無事に生まれることをお祈りしよう。」


両親は娘の言ったことを疑いもせず受け入れた。

父親の言葉と共に、家族は祈りを捧げた。


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