光りの言葉
ホスヰの家は普通の一軒家だったが、天井がドームのような形をしていた。
ロウアはチャイムを鳴らすが応答が無い。この家の人のツナクトノがない限り扉を開けることは出来ない。
(親はいないのかな……)
(誰もいないぜ……)
(ホスヰは、どこにいるの?)
(屋根側の部屋だぜ)
ロウアは屋根まで飛ぶとそのドームの屋根についている窓から中を覗く。すると、ホスヰがベットで苦しそうにしていた。
ロウアは窓を叩くが聞こえていない。
(力を使って中から鍵を開けるっ!)
(あぁ、完全に盗人だな……。もう知らね……)
魂のロウアは呆れているようだったが、どこかでこの行動を気に入っていた。
ガチャッ!
ロウアは力を使って窓の鍵を開けて中に入る。
ホスヰの部屋は電気が消えていて、外からの光りが指していない場所は少し薄暗い。
ベットはその薄暗い場所にあり、ホスヰが苦しそうに咳き込んでいた。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……。ハァ……、ハァ……、ハァ……」
「ホスヰッ!!」
その姿を見てロウアは思わず叫んでしまった。
この時、誰も気づいていないがロウアの声が光りとなってホスヰに軽い衝撃を与えたのだった。その衝撃でホスヰの身体と魂の"ブレ"が無くなり、ホスヰは意識を取り戻す。
「……お、お兄ちゃんっ……?ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……」
「ホスヰ……。ダイジョウブ……?」
「……う、嬉しいな……。お兄……ちゃんが……来てくれ……た……。ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……」
ホスヰは、熱も出ているのか汗をかいていた。
(少し魂がずれている……。このままだと死んでしまう……)
(お前どうするんだよ……)
(早くしなければ……。えっと……)
(はぁ?なに、今この時に何でそれを見るんだよ……)
ロウアは右手にツナクトノを付けていた。
最初は左手だったが、右手に指が無いので操作できないと分かったからだった。
ロウアがその右手のツナクトノに表示したのは、アルとシアムが作ってくれた特製教科書だった。そしてナーカル語の一覧ページを開く。右下には可愛い女の子の絵が描いてあった。
ロウアはホスヰを失った右手で支え、左手で何とか画面を操作する。
その文字を眺めてロウアは適切な文字を選び出した。
ロウアは目をつむると、人差し指と中指を立てた左手を顔の前に持ってきて力を集中させる。
(力を下さい……)
そして、ホスヰの肺にある黒い物体に左手の人差し指と中指を指した。
ロウアはその二本の指で空を切り、その文字を現した。
<<つなぐものを切断するコトダマッ! ワ・キ・ホン・ル・ルッ!>>
(お、おい……。何だよそれ……)
すると、ホスヰの胸から"何か"が飛び出してくる。
<……うぇ~ん……>
(こ、こいつは……誰だよ……)
そこにはホスヰと重なるように小さな女の子が涙を流してながら座っていた。
<お母さん……。どこにいるのぉ……。
お兄ちゃん達、だれ~……?>
(君のことを少し教えて……)
ロウアはもう一度目をつむると、その子に向かってもう一度空を切った。
<<その魂の思いを伝うコトダマ ワ・キ・フメト……>>
しばらくして目を開けると、ロウアは話し始めた。
(こんにちは。
名前は……ロコ……だね。
家で病気で寝ていたら、お母さんが急にいなくなったんだね)
<うん……。ヒック……、ヒック……>
(お母さんはいなくなったわけじゃ無いよ)
<……どこに行ったのぉ?>
(今は天国にいるよ……)
<てんごく?お母さん、死んじゃったの?>
(残念だけど……。だけど、君のことを探してくれているよ)
<ほんとうっ?>
(ちょっと待ってね)
<<導きのコトダマ タタヤユ・キ・ヤッ!>>
ロウアが言葉を端ながら文字を空に切ると天井から強い光が差してその彷徨っている女の子を照らした。
(さぁ、お母さんが来たよ)
<えっ?>
(お母さんの元にお帰り……。
ここは君のいる場所じゃ無いよ……)
<あぁぁ、暖かい……。暖かい……>
その子は天からの光りに包まれた。
そして光りの中に、その子の母親と思われる女性が立っていた。
<お、お母さんっ!!!>
<ロコ……。ごめんね。待たせちゃって……>
<お母さ~~んっ!お母さ~~んっ!お母さ~~んっ!
うぁ~~んっ!会いたかったよぉ~~~っ!>
女の子はその懐かしい暖かな母親に向かって抱きついた。
<うぁ~~んっ!>
<ありがとうございました……。
私は……、長い間、彷徨っていて……。
自分のことばかり考えてしまって……、この子のことを……考えもせず……。ううう……>
母親は涙ながらに話すのだった。
(突然のことでしたからね……。
でも、お子さんに会えて良かった……)
(どなたか分かりませんが、ありがとうございました……)
(さようならっ!ありがとうっ!お兄ちゃんっ!)
女の子は母親に抱きつきながら、喜びに満ちた満面の笑顔でこっちを見ていた。
その親子の後ろには更に大きな光りに包まれた人がかすかに見えている。
(なっ!お、おい。奴ら……、いや、あの人達は……)
(この時代の神様に近い人達だね)
(はぁ?!もうダメだ。わけ分からん……。お前ナニモンだよ……)
そして、その光りはやがて薄くなり辺りはまた元の部屋の明るさに戻っていった。
(うまくいったよ……。良かった……)
ロウアはほっとした表情でいると、ホスヰが話し始めた。
「あ、あれ。気分が良いなぁ。身体があったか~いっ!」
(お、おい、声が今までと全然違うぜ……)
「ホスヰッ!ヨカッタッ!」
(お前ってすげえな……。でも、わけ分からんわ……)
(あはは……)
(あの女の子は何だったんだよ)
(ホスヰに取り憑いていた子は、君が話していた100年前の地震で亡くなった子どもだったよ。
病気で寝ていたところを地震で大陸ごと一緒に沈んでしまったんだ……。母親もね……。
それからずっと母親を探して彷徨っていたんだ。
ホスヰとはどこで出会ったんだろう……。
……そうか、ホスヰの母親は仕事をしていて、留守にすることが多かったんだ……。
だから、母親に愛されたいという寂しさのため病弱になって、そして、あの子とも同調してしまったのか)
(なっ!んなことが何で分かるんだよっ!)
(それにしても、僕らがここに来る前に後ろにいた人達がその母親を救ってくれたみたい。
タイミングがとても良かった。
あちらが遅かったら救えなかったかも……)
(はぁ……、お前ってh……
魂のロウアが話している途中、唐突にその空間が凍り付いたように止まった。
「えっ?何???おい、ロウア君どうしたの?」
===== ピ~ッ、ガラガラ…… =====
===== ピ~ッ、ガラガラ…… =====
===== ピンポンパンポ~ンッ! =====
===== 未来が入れ替わりました~っ!=====
「は、はい……?」
ロウアは全てが止まった空間に取り残され、突然聞こえてきた声に戸惑った。
2022/10/08 文体の訂正




