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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
生命の始まり
257/573

旅立ち

ロウア家で開かれたパーティーは、歓談が続き、数時間が経過した。

やがて、空が赤く染まり始めた頃、庭の端で椅子に座り、上を見上げている妹にシアムは声をかけた。


「シイリ、どうしたの?疲れちゃった?」


シイリは、姉の方を見るとニコッとて、


「あっ!お姉ちゃん、疲れてないよ…。

…えっと…、ありがとう、にゃっ!」


急に姉に感謝の言葉を述べた。


「うん?」


「お姉ちゃんと一緒に歌えたことが嬉しくてっ!」


「ふふっ!そうね、私も嬉しかったよっ!」


シアムは、そう言うと、妹を抱きしめてあげた。


「お姉ちゃんっ!」


「うん?」


「えっと、ごめんね…。」


「今度は謝ってりして、変な子ねっ!」


だが、妹が涙を貯えていることに驚いてしまった。


「シ、シイリ?どうしたの?」


「あっ、お父さんとお母さんも来てくれたっ!」


二人が気になったのか、シアムとシイリの両親もシイリのところにやって来た。


「お父さんっ!お母さんっ!」


「うん、どうしたのシイリ?」

「うん?」


「お別れの時間が来ちゃったみたい。

今日までありがとうっ!

こんな私と一緒にいてくれて嬉しかったっ!」


「えっ?!シイリ?今なんて…?」


シアムは妹の言ったことが理解できなかった。

そして、シイリは、自分の両親を見つめると、


「お母さん、お父さん、私を産めなかったことを謝ってくれたことがあったよね。」


と言った。

それはシアムも知らないことだった。


「…だけどね…、違うのよ…。」


シイリは首を振ると、


「私の身体は、お人形さんだけど、お母さんとお父さんの子どもだよ…。

一緒に…生活できて良かったぁ…。」


「シイリ…、あぁ、あぁ…、お前は私たちの子どもよ…。」


シイリの母親は、娘をその腕で強く抱きしめた。


「シイリ…、当たり前だろ…。お前は私たちの大事な子どもだ…。」


父親も涙を流して娘を抱いてあげた。


「ありがとう…。ありがとう…。お父さん、お母さん、大好き…。」


シイリはそれを聞くと笑顔になって安心した表情になった。


「えっとね、お婆ちゃんが…やって来たの…。お父さんの…お母さんだった人だって。」


「えっ?か、母さんが…?」


シイリの父親は思わぬ事を言われて驚いてしまった。


「えへへ、お婆ちゃんは、女神様なんだって、とっても…綺麗…だよ…。

かみ…が、長くて…金色…美人…なの…。

天国に連れて…行ってもらうの…。

前も連れて…行ってもらったのに、わがまま…言って、お人形に…やど…ちゃった…の…。

えへ…、えへへ…。」


「シ、シイリ…。

て、天国って…?お別れとか…、さっきから何を言って…、まさか…?!

う、嘘よねっ?!」


シアムは、妹が天国に戻ると分かって、驚きを隠せなかった。


「お姉ちゃん、大好き…だよ…。生まれる前に…意地悪してしまって…ごめん…ね…。」


「そんなことっ!気にしてないっ!!あぁ、ダメよ…、ダメ…。

そんな急に…。行かないで…。うぅぅ…。」


シイリは涙を流しながら、姉にニコッとするだけだった。


いつの間にか部員達も集まって、一つの魂の突然の旅立ちに涙していた。


「みんなぁ…部活…、楽しかったよぉ…。」


「やだやだやだ~っ!シイリッ!何で急にっ!うわ~んっ!」


アルは、そう叫ぶと、シイリを抱きしめた。


「アル…お姉ちゃん、そうだ…。

学校に…誘ってくれたのは、アルお姉ちゃんだったね…。

あ…あり…がとう…、き、記憶が…治って…よかったぁ…。」


イツキナは、シイリの手を握ると、


「シイリちゃん…、あなたが怒ってくれたから私が居るの…。ありがとう…、ありがとうね。」


と身体を大事にしていないことをシイリに怒られたことを思い出して涙した。


「イツキナ…お姉ちゃん…、治って…良かったぁ…。

すっごく…嬉しかったよ…。

お姉ちゃんのね…お身体の…お世話を…するのが私の…部活動…。えへへ…。」


「そうだね…、色々お世話してくれたもんね…。あぁっ!お別れなんて…。シイリちゃん…。」


イツキナの涙に釣られて、ホスヰが、シイリの足に抱きついた。


「シイリお姉ちゃ~~んっ!!あうんっ!あうぅぅぅっ!!!うえ~~~んっ!!」


「ホスヰ…ちゃんと…あそべて…良かった…。元気なって…良かったね…。」


「あうん…。うえ~~~んっ!!」


「あっ、アマミルお姉ちゃん…。」


アマミルは優しく、シイリの髪を撫でてあげた。


「アマミル…お姉ちゃん、ありがと…、いつもかっこいい…お姉ちゃん…。」


「シイリちゃん…、うぅぅ…。」


アマミルは涙を抑えきれなくなった。


「あっ…、ツクお姉ちゃん…、マフメノお兄ちゃん…。」


次にシイリは、ツクとマフメノを見つけた。


「シイリちゃん…。何で急に…。」


ツクはシイリの強く手を握った。


「…シ、シイリちゃん…。」


マフメノも涙目になっていた。


「えへへ…、ふ、二人は…身体を…いっぱい、直してくれたよね…。

天国に…帰ったら…この…身体は…使って…良いからね…。」


「やだぁ~~っ!要らないっ!要らないっ!!だから、行かないでっ!!」


身体を上げると言われて、ツクは強く否定した。


「そうだよぉ、使う人がいないと意味が無いよぉ…。」


マフメノも断って、地上に残って欲しいと願った。


「シイリ…。」


ロウアは、シイリの肩に手を当ててあげた。


「イケ…ガミ…お兄ちゃん…、お兄ちゃんのコトダマ…大好き…。

いつも…私たちを…導く…強い…力…。

どんな…ことでも…解決しちゃう…。

お姉ちゃんを…大切に…して…あげてね…。」


「うん…、分かったよ…。」


ロウアは、髪の長い綺麗な女神が、頷いたのを見て、別れの時間が近づいていることを伝えざるを得なかった。


「…シイリ…、女神様が待ってる…。最後のお別れを…。」


「うん…、分かったぁ…。」


シイリはそう言うと、改めてみんなを一通り眺めた。


「みんなと…別れるのは…いやだ…なぁ…。

で、でも…、み…んな…、大、大、だ~い好き…。

えへへ…。」


「あぁ…、あぁ…。ダメよ…。シイリ…。うぅぅ…。」


シイリはその別れを惜しんだ。


「また…、またね…。また…、お姉ちゃん…、お父さん…、お母さん…。ま…た…。

みんなも…、またね…。

あり…がとう…。あり…が…と…。」


そう言うと、シアムは目を閉じて、天に召されていった。

閉じた目から流れた涙は、夕日を反射して綺麗に光った。


「あぁ…、あぁ…、うぅぅ…。」

「うわ~~~んっ!!シイリィィィ…。」


魂を失った身体を部員達とその家族は、彼女の家に運ぶと、静かにベッドに寝かせてあげた。

そこに寝ているのは、無表情な人形の顔では無く、純真で無垢な少女そのものだった。

少女は目を閉じて優しい笑顔で眠っているようだった。


-----


シイリ、シアムの家から帰る途中、アマミルは疑問に思っていたことをロウアに聞いた。


「イケガミ君…、あなた…、もしかしてこのことを…?」


「一度、彼女は天へ召されたのを断って、この世に戻ってしまったんです…。

いつかは…戻らないといけなかったんです…。

彼女の願いは全て成し遂げられました…。

幸せになったんです…。とても幸せだった…。」


「そう…、そうね…、シイリちゃんは幸せだったわ…。グスッ…。」


-----


翌日、シイリのお葬式が厳かに開かれた。


ロネントを葬儀する事になって、この時代の葬儀屋も理解できない風体だったが、結局、シイリのために葬式の準備が進んだ。


棺桶の蓋が閉まる前、最後の別れのため、各人が涙と共に挨拶をしていった。

身体を失った魂は、そのそばでみんなの挨拶を聞いていた。


ロウアはシイリの顔を見ると、何故か安心した気持ちになった。


(シイリ…、君は、誰よりも優しくて、みんなの力になろうとしてた。

君は様々な人達に愛されていた…。それは君がみんなを愛していたからだ…。

君はとても素敵な人間だったよ…。)


シイリはロウアの言葉を聞いて顔を赤らめた。


(えへ…、えへへ…、照れちゃいます…。)


(みんなに挨拶をするかい?)


ロウアは、コトダマを使って魂となったシイリを見えるようにして、挨拶をするかどうか確認した。

シイリは首を振った。


(ううん。良いです。

だって、お別れしにくくなっちゃうもん…。

ありがとうございます。イケガミお兄ちゃん。

みんなに、ありがとうございました~~って伝えてください、にゃ。)


(うん、分かったよ。またね…。)


(はい、にゃっ!またね、ですっ!)


彼女の身体は棺桶と共に、部員とその家族に守られながら、この時代の葬儀らしく成層圏まで飛ばされた。

やがて、地上に落ちながら燃え尽きて、地球と一体になった。


天に昇りながら自分の身体が燃え尽きのを見た少女は、ニコッと笑顔になった。


(お婆ちゃん、行こうっ!)


(…そうね。シイリ、行きましょう…。)


祖母と言うにはあまりにも若くて綺麗な女神と手をつなぎながら、その魂は天へと帰った。


2019/08/17

最後のところ見直して修正

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