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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
生命の始まり
247/573

放課後ループ

結局、その後もアルは回復することも無く、最終期限日まで残り一日となってしまった。

練習時間も終わりかけた頃、誰もが絶望しかけていたが、アルは元気なまま、


「はぁ…、はぁ…、疲れた~~っ!

みんな上手だなぁ~~っ!

今日はこの辺かなぁ~~。ちょっと外の空気に当たってくるね~~っ!」


と言って、アルは練習室を出て行った。


アルが出て行ったのを確認した後、アマミルは改めて部員達に厳しい現実を連絡した。


「み、みんな…、今日で最後よ…。分かっているわね…?

今日…、回復の兆しが無かったら…社長さんに連絡するわ…。」


「き、きっと、平気ですっ!アルお姉ちゃんは…。アルお姉ちゃんは…。」


シイリは一番アルにしごかれたはずだったが、アルを思う気持ちは変わらなかった。


「アル様なら、アル先輩なら、きっと回復しますっ!もう少し待って下さい、アマミル先輩っ!」


いつも大人しいツクもアマミルの最後という言葉で全て終わってしまうような気がして慌ててしまった。

ツクから主張を受けたこともなかったアマミルは、驚きつつも厳しいことを言わざるを得なかった。


「ツクちゃん…、だけど…、これ以上は社長さんにご迷惑が掛かってしまう…。

私たちだけで隠しておける問題では無いわ…。」


「うぅぅ…。」


ツクが泣きそうになるのを見て、シアムはアマミルに説明を加えた。


「…コンサートを準備するお金も無駄になってしまうし、取り消し料も、すごくお金が掛かるの…。

この時期でも、準備は始まってしまっているし…。

は、早いほうが…、早いほうが良いの…よ…。うぅぅ…。

で、でも、私も気持ちはツクちゃんと同じよ…。」


もちろん、シアムも親友を信じたい気持ちを持っていた。


「シアム先輩ぃ~~っ!!うわ~~~っ!」


シアムは、感極まって泣き出してしまったツクの頭を撫でながら優しく抱きしめてあげた。


「ツクちゃん、アルちゃんのことを思ってくれてありがとう…。」


「ふえ~~~っ!!」


アマミルは、さっきから黙っているロウアが気になっていた。


「…イケガミ君…?」


「ちょ、ちょっとアルの様子を見てきます…。」


そう言うと、ロウアは練習室を出て行った。


「…イケガミ兄さん…。ラ・ムー様、ラ・ミクヨ様…、どうかアルちゃんをお願いします…。」


シアム達は、最後の希望を願いながらロウアを見送った。


-----


ロウアが練習室を出ると、魂のロウアが話しかけて来た。


「…おい、あいつは屋上にいるぜ…。」


「そ、そうか…。ありがとう…。」


それは幼馴染みを思っての事だった。

彼は声をかけることも出来ないため、隣人に助けを求めたのだった。


ロウアが屋上に出ると、アルは屋上から生徒が落ちないように設けられたフェンスに寄りかかって風を感じていた。

鼻歌を歌っている彼女の顔は、少し落ち込んでいるようにも見えた。

いつもと様子の違う友人にロウアは、違和感を感じた。


アルは、ロウアに気づいたのか、鼻歌を止めて、遠くを見つめながら話しかけて来た。


「ねぇ、ロウア~…。」


相変わらずアルは、イケガミと呼ばないで、亡くなった元の幼馴染みの名前で呼んだ。


「うん…?」


「…私、もしかして、何か変?」


ロウアは、アルが自分の事を変だと言ったのでドキッとした。


「…ど、どうしてだい?」


アルは、ロウアの方を見た。


「わ、笑わないでよ?」


「笑わないって」


「いっつも笑うんだもんっ!」


ちょっとムッとした顔の少女は、先ほどまで黄昏れていた姿とは異なっていた。


「笑わないって!し、信じろってっ!」


ロウアもさすがにムキになってしまった。


「う~ん…。え、え~っと…。」


アルは、また神妙な面持ちに戻り、話を続けた。


「…わ、私ったらさ、ほ、放課後の事を覚えていないのよ…。

し、信じてもらえるか分からないけど…。」


アルは自分が放課後の記憶を失っていることに気づいたようだった。


「…ア、アルッ!」


「昨日とか、一昨日とか、その前とか…。わ、私って何をしていた…?

覚えてないの…、覚えていない…。

…わ、私、怖い…。怖くて、怖くて仕方がない…。」


アルは、そう言うと、両手を自分の身体を抱くようにして座り込んだ。

顔は青ざめていて身体が震えていた。


「怖い…、怖いの…。ロウア…、た、助けて…。」


ロウアはその時が来たのだと思った。

この機会を逃してはいけないと思った。


「アル…、今、君は病気みたいなんだ…。」


「びょ、病気…?私が…?」


アルは病気と聞いて驚いた表情をして、ロウアを見つめた。


「そう…。放課後を忘れてしまう病気なんだ。」


「…えっ!そんな病気…あるの…?」


「……。」


ロウアは返事を出来なかったが、アルは落ち着いた表情に戻り始めた。


「いつもなら嘘だと思うけど、今回はロウアの言った通りかなって思う…。」


「…アル、いつ気づいたんだい…?」


「さっき…、そう、ついさっき、踊っているときにね…。

あれ、私って、先週、何をしていたっけって…。

んでね、暦を見たら日付だけ進んでるのよ…?

おかしいじゃない…?」


アルは涙目になりながら、ロウアに無理矢理作った笑顔を見せて、話を続けた。


「ロウア、君の性格も変わっているし、何か変なの…。私の知ってるロウアじゃない…。

ロウアが溺れてからの記憶がなんか変、どっか行っちゃったみたい…。

イケガミって名前でみんなロウアのことを呼んでいるし…。

だけどね…、違和感を感じなかったの…。それが普通の事だというか…。

私もそう呼んでいたような気もする…。

だ、だけど、そう考えてみたら、頭がもやもやとし始めてしまうの…。」


「…アル。」


「それに…、それにね…。みんなも、私に合わせてくれてるの分かったんだ…。

そう言えば演技っぽかったなって思ったの…。

コンサートの練習だってね…、今日が初めてなのに、みんなすごい上手…。

アマミル先輩は、前から練習していたと言うけど、どうしてコンサートで歌う歌まで知ってるの…?

こんなのってあり得ないもん…。」


アルは頭をうなだれた。


「そっか…、私、病気なのか…。」


そんなアルをロウアは放っておけず、


「アルッ!」


思わず大きな声でアルの名前を呼んだ。


「う、うん…?」


「大丈夫だよっ!みんなで君を助けているんだっ!!」


「た、助けてくれてる?そうか、演技も私を思って…。」


落ち込んだアルは、ロウアを見つめるとそう言った。


「そうだよ。僕らはお助け部だろ?ん?ま、間違った…。霊界お助けロネント部なんだよっ?」


「う、うん…。そうだったね…。ありがとう…。グスッ…。」


アルはお礼を言うと改めてロウアに詰め寄るように、


「ロウア…、違うか、イケガミィ…、お、お願いがあるの。」


と言った。


「なんだい?」


「あ、明日の私にこのことを教えてあげて。きっと忘れているだろうから…。」


「うん、もちろんだよっ!」


「あ、ありがとう…。ありがとう…。グスッ…。」


「アルッ!安心して欲しい。僕らが君を守ってあげるからっ!!」


「う、うんっ!ロ、じゃない、イケガミのくせに格好いいぞ…、グスッ…。

やっぱり、イケガミィって呼んだ方がしっくりくる…。えへ、えへへ…。」


いつの間にか、この様子を見ていた部員達は、一斉にアルのところに寄ってきた。


「あっ!みんな…。ご、ごめんね。私、迷惑をかけちゃったみたいで…。」


「違うわっ!アルちゃんっ!私たちはいつも一緒なんだからっ!

迷惑なんかじゃ無いのっ!

子どもの頃からいっつも一緒にいたでしょっ?」


シアムはそう言うと、アルに抱きついた。


「シ、シアム…、そうだね…。えへへ…。ありがとう…。」


「そうですっ!アルお姉ちゃんっ!みんなアルお姉ちゃんが大好きなんですっ!

イケガミ兄さんもアルちゃんが大好きですっ!」


シイリは、アルを応援するように続いたが、最後にとんでもないことを付け加えたのでロウアは焦った。


「ちょ、ちょっと、シイリ…、最後の方、誤解が…。」


そう言われてシイリは自ら放った言葉を理解した。


「にゃ?!にゃ?!ち、違います、にゃっ!

イケガミ兄さんは、えっと…、恋愛感情では無い意味で…、ア、アルお姉ちゃんを大好きですっ!」


「ぷっ!シイリったらっ!!」


姉のシアムが吹き出すと、釣られて部員達は大笑いしてしまった。


「あははっ!!!でもね、みんながアルちゃんを好きなのは一緒よっ!グスッ…。」


アマミルがそう言うと、


「そうそうっ!私たちは、いつも元気なアルちゃんが大好きっ!」


イツキナも続くと、ツクも負けずとアルを慰めようとした。


「わ、私は、アル様を尊敬していますっ!わ、私なんかを友達にしていただいたアル様は偉大な方ですっ!!」


「あうんっ!わたしも大好きでっすっ!」


ホスヰは、そう言うとアルの足下に抱きついた。


「ツクちゃん…、ホスヰちゃん、みんなも、ありがとおぉぉぉ~~。グスッ…。ヒック…。

うぅぅ…、うわ~~~んっ!!」


マフメノは、この流れでアルに抱きつこうとしていたが、ロウアがそれを制止していた。


「フガ~~、イケガミィ、邪魔するなよぉ~~。」


「マフメノ…、こらこら…。空気読んで…。」


時間は黄昏時になっていた。

大泣きのアルを囲むように女性陣も泣きながら、彼女を抱きしめていた。

そこに入り込もうとする輩一人とそれを押さえ込む輩も含めて、等しく黄昏時の淡い赤い光が部員達を照らしていた。


いつの間にか幽霊部員達も集まっていて、メメルトや、イツキナの師匠も涙を流していた。

魂のロウアは、少し離れた位置から、珍しく笑顔で幼馴染みを見つめていた。


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