悲しみと憎しみの壁
アルの潜在意識に自らを調和させたロウアは、どことも分からない場所にいた。
(…こ、ここはどこだ…?ん?こ、ここは、僕の部屋か…?!)
その場所は、ロウアの部屋だった。
シアムがアルの言葉で傷つき、部員達やカウラがロウアの部屋に集まったあの時だった。
(…えっ?!ろ、廊下にアルがいる…!)
聞き耳を立てて、ロウアの部屋に集まった部員達の声を聞いているアルの姿をロウアは見つけた。
(…そうか、あの時、アルは部屋の外で話を聞いていたんだ…。)
やがて、アルはショックを受けてロウアの家を飛び出す。
(アルッ?!)
ロウアはアルの後ろを追いかけた。
アルはそのまま自宅に戻り、部屋に籠もるとベッドで悲しみの声を上げた。
「うわ~~~~んっ!!私がぁ、私がぁ、シイリに酷いことを言ったからからぁ~~~~っ!!
私だけのけ者になっちゃった~~っ!
私は、私は悪い子…。
もう、みんな私のこと…嫌いに…、嫌いになっちゃった~~~っ!!!
うわ~~んっ!ヒック…、ヒック…。
フェェェェェ~~~~…。ヒィィィ…。
みぃぃんなぁぁ、い、いいっしょだったのにぃぃぃ、わたしがぁぁあ、わたしのせいだぁぁぁ…。」
(…えっ…?)
ロウアがアルの悲しみを知った瞬間、また先ほどと同じようにアルは部屋の外でみんなの声を聞いていた。
(ま、また場所が戻った…。ど、どうして…?)
そして、アルは、またショックを受けて自室に戻る。
アルの潜在意識は、繰り返し、繰り返し、同じ事を思い出してはこの事実を自らに刻んでいた。
同じ事を繰り返し続けるアルに、ロウアは声をかけた。
(アル…?アル…?)
「ふえぇぇぇ…だ、誰ぇ…?」
(アル聞こえるんだね?)
「イケガミィィィ、イケガミィィィ…。
お前がぁぁぁ、先導したなぁぁぁぁっ!!
お前が一番、居ちゃいけない奴何だぁぁぁっ!!」
アルは、ロウアに気づくと恐ろしい形相で彼をにらみつけた。
(アルッ?アルッ?ど、どうしたんだっ?!)
「お前なんてぇぇぇ、嫌いだぁぁぁぁっ!!!
ここに居ちゃいけない奴だぁぁぁ~~~っ!
お前が来てから全部おかしくなったんだ~~っ!
私をのけ者にしたのはお前だ~~~っ!」
(…ち、違う…。)
アルの言葉にロウアは首を振ったが、彼女は別の話を持ち出した。
「お前が来たからロウアが死んじゃったんだ~~っ!」
(ち、違う…、ロウア君はあの時すでに…。)
「お前がいなければ、ロウアは生き返ったんだ~~~っ!!
未来人なんて、出ていけけぇぇぇぇっ!!!
ムーから出てけ~~~っ!!
どっかいっちゃぇぇぇぇぇっ!!!
嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!
だ~~~い嫌いっ!!!!」
その表情は、池上だった時に初めて会った"とっきょ"の表情だった。
あの時、とっきょは、瞳を歯車に変化させて、時計の長針と短針を使って、池上を殺そうとした。
(と、とっきょ…?!)
殺人鬼のような形相となったアルにロウアは、身体が固まってしまった。
その時、ロウアを呼ぶ声が聞こえてきた。
「…ガミ君?イケガミ君…?大丈夫?」
「イケガミ兄さんっ?!イケガミ兄さんっ?!」
「あうん?!お兄ちゃんっ!」
その声は、霊界お助けロネント部の部員達だった。
部員達は、ロウアがコトダマを唱えてから静止してしまい、不安に思ったのだった。
「……はっ!あ、あぁ…。み、みんな…。」
その声に、ロウアは意識を戻すことが出来た。
「…イケガミ兄さん?アルちゃんは…?アルちゃんに何があったんですか…?」
シアムはロウアにアルについて尋ねた。
ロウアは、油汗を流した顔を部員達に向けると、
「…す、すいません…。アルの心に大きな壁があって話ができませんでした…。」
膝を崩してそう答えるだけだった。
「壁…?壁ってなぁに?」
「アルは、自分の心に大きな壁を作ってしまっています…。」
詳細を聞こうとしたアマミルに、ロウアは答えた。
「…え?アルちゃんが自分自身に…?そ、そんな…、どうして…?」
シアムは親友の悲しみが自分にも伝わってきて涙を流しそうになっていた。
「彼女の心に届かなかった…。そこまで行けなかった…。」
「ア、アルちゃんがみんなを寄せ付けないようにしているという事?」
アマミルが続けて聞いた。
「…はい…。」
「イケガミ君…、見てきたことをお話しできる…?」
青ざめた顔になっているロウアを見て、アマミルは申し訳ないと思いつつロウアに説明を求めた。
「…はい、お、お話しします…。」
ロウアが話した内容に部員達は驚愕した。
部員達が集まったあの日、外でアルが話を聞いていたということ。
アルは自分だけがのけ者にされたと思っているということ。
その犯人はロウアだと思っているということ。
ショックのあまり自分の心に殻を作って閉じこもってしまっていることを。
「あぁ、何てこと…。これは私の落ち度だわ…。
私は、アルちゃんとシイリちゃんに話をさせるべきだった…。
これはイケガミ君のせいじゃない…!」
アマミルは、部長としてアルを一人にしてしまったことを反省した。
「アマミル…。自分を責めないで…。イケガミ君も…ね?
私たち全員で考える問題よ…。私たち同じ部員でしょ…?」
イツキナは、アマミルとロウアを慰めるように言った。
「アルちゃん…、私たちは、私たちは…、どうしたら良いの…?
アルちゃんはどうしたら私たちを、また受け入れてくれるの…?」
シアムは、涙を流しながらそう言った。
部員達は、アルを見つめると、彼女を孤独にしてしまったことを深く反省するのだった。
そんな中、ロウアは、アルが自分に向けた言葉が胸に刺さっていた。
- お前が来たからロウアが死んじゃったんだ~~っ! -
- お前がいなければ、ロウアは生き返ったんだ~~~っ!! -
- 未来人なんて、出ていけけぇぇぇぇっ!!! -
「…アルがそんなことを思っていたなんて…。」
「イケガミ兄さん…?どうしたんですか…?」
シアムの声にロウアは我に返った。
「…な、なんでもないよ…。それよりも、さっきはありがとう。」
「はい…?」
「みんなで僕を呼んでくれただろ?あの声が無かったら戻れなかったかもしれない…。」
「えぇ…!えぇ…!そうだったんですか…?!
よ、良かった…。アルちゃんも、イケガミ兄さんも居なくなったら…私たちどうしたら良いのか…。
…はっ!!」
そう言うと、ロウアの手を握ったままの自分に気づいて、シアムは、ぱっと離れた。
「わ、私ったら…。ごめんなさい、にゃ…。」
「あはは…。ありがとね。」
ロウアは、シアムの肩を叩くと、立ち上がって真剣なまなざしでアルを見つめた。
「イケガミ君…。私たちこれからどうしたら…。」
アマミルは、アルの事を考えてロウアに意見を求めた。
「はい…。ぼ、僕も答えを持っているわけではありませんが…。」
ロウアは、部員達にこれからどうすれば良いかを説明するのだった。




