思い出の混濁
霊界お助けロネント部の部員達は、アルを連れて練習室に向かった。
各々が、色々と思いながら歩いていたため、誰も何もしゃべらず、重い空気のままの移動となった。
この練習室は、アマミルが責任者となっていて、扉を開ける権限を持っていた。
「つ、着いたわ。こ、ここよ…。」
アマミルは、そう言いながら、鍵となっている自分のツナクトノを扉に照らして、練習室の扉を開いた。
「そ、そう、そうっ!ここだったわね…。」
イツキナが下手くそな演技で相づちを打った。
夕刻にはほど遠い時間、外から見える青空が窓から見えた。
日の光は、元は生徒達が授業を受ける教室だった部屋を照らしていた。
「わっ~っ!片付いていて広~いっ!」
アルが教室に入るとそう言ったので、他の部員達は、やっぱり何も覚えていないのだと思って肩を落とした。
始めてこの教室を使うときに、部員全員で机や椅子などを教室の隅に片付けた事など微塵も覚えていなかいようだった。
「あ、あれって、ロネント?えっ!う、うそぉ~~っ!」
アルは、部屋の隅に置いてあったロネントに気づいて近寄った。
「イツキナ先輩の顔そっくりっ!もう一体は、青髪が綺麗ねっ!もしかしてロウア用?
わ~~っ!準備早っ!カウラお兄ちゃんにお願いしないとって思っていたのにっ!
嬉しいなっ!みんなとアイドル出来そうでっ!!」
とアルが両手を挙げて万歳の姿勢で、天井を見上げた時だった。
「…あ、あれ…?カウラお兄ちゃんが、この子達を連れてきた…?
あれ…、その場にみんなもいた…?」
「あっ!アルちゃん…っ?!そう、そうよっ!」
シアムは、アルが何かを思い出そうとしていたので、彼女の言葉に相づちを打った。
「アマミル先輩がお人形さんにお着替えさせたって…言って、カウラお兄ちゃんが顔を真っ赤にして…あれれ…?」
「そうよっ!私がカウラさんをからかったのをイツキナが怒ったのよっ!」
イツキナもアルが思い出しやすいようにサポートした。
「その後は、ホスヰちゃんのご両親に会いに行って、ご挨拶して…。」
「あうんっ!そうですっ!そうですっ!」
ホスヰもアルに頷いた。
「あれ、あれれ…。あれは何だったんだ…?
今日、初めてみんなに話をした…はず…だよね…?」
「あっ!アルッ!!!」
ロウアが、そう叫んだ時には、アルはすでに意識を失ってロウアの腕の中にいた。
「あぁ…。」
腕の中にいるアルを見て、ロウアは悲嘆の声を発するしかなかった。
「ア、アルちゃんっ!!何てことなの…。」
「あぁ…、アルちゃん…。」
「アル先輩ぃぃぃっ!!」
「あうんっ!あうんっ!」
様々な声が練習教室に響いたが、意識を失ったアルには届いていなかった。
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その後、ロウアは、また保健室にアルを背負って移動することになった。
「イケガミ君…、さすがにこれはマズイわ…。何とかしないと…。病院に連れて行く…?」
アルをベッドに寝かした後、アマミルは助けを求めるようにロウアにそう言った。
「イケガミ兄さん、アルちゃんが、また倒れちゃったよぉ…。うぅぅ…。
どうしたら…、私…、どうしたら良いの…?ヒック…、ヒック…。」
ロウアは、顔を両手で隠すように泣き出したシアムの肩に手を置くと、
「シアム、安心して…、今、調べてみるから…。」
「は、はい…にゃ…。お願いしますっ!!アルちゃんを、お願いしますっ!!」
ロウアは、どうしてこんなにもアルを調べたくないのかと思った。
何がそう思わせているのか自分でも分からなかった。
ロウアの直感が、アルの傷ついた心に近づいてはいけないと思わせていた。
「アル…、君の心を少し見せてもらうよ…。」
少年の真っ白な右腕は、左腕と共に綺麗なナーカルの文字を描き始めた。
その時々で手の平を叩く姿は、柏手をする者の姿に似ていた。
<<心と対話するコトダマ ワ・キタ・ムケカソッ!>>
それは、人間の潜在意識、つまり、その人の魂に直接アクセスするためのコトダマだった。




