秘策
昨日まで休んでいたホスヰが、今日は珍しく学校に来ていた。だが、相変わらず咳き込んでいる。
「ロウアお兄ちゃん、お昼だよ~っ!ゴホッ、ゴホッ……」
ホスヰは、ロウアの前では元気な振りをしている。ロウアは、それが分かるので何ともやるせなくて仕方が無かった。
だから、分からない振りをしてあげるのだった。
「キュウショク、タノシミダネッ!」
「うんっ!」
この時代でもお昼は給食だった。
ロウアはこの時間を胸躍らせて待っていた。
給食に出てくる料理がとても美味しいからだった。例えば今日の献立にある白身魚は、白身魚にしては深い味があり、その上、味付けが独特でうまく魚の味を引き出していた。いつもの大きい粒のご飯ともマッチしている。スープは味噌汁のような味をしていたが、より深みのある味となっていた。
(この白身魚は何なんだろうなぁ……)
(魚料理は未来では食べないのかよ)
(食べるけど、こんなに美味しくないよ)
(そうなのか。もっとうまい魚料理もあるぜ。楽しみにしてなっ!)
ホスヰは、席が隣にいるロウアといつも一緒に食べるのだった。
「イツモ オイシイネッ!」
「あうんっ!
ロウアお兄ちゃん、いつも美味しそうに食べるねっ!
だけど、量が少ない……?」
「アハハ、ソウ カモッ!」
給食を運んだり、盛り付けたりするのはロネントだったが、10歳の生徒に向けた盛り付けをするので、15歳のロウアには量が少なかった。
「私のをあげるねっ!」
「ダメダメ……、ホスヰ タクサン タベテ」
「あうん……。お腹いっぱいだもん」
ホスヰは、お腹いっぱいと話すが、病気で食欲が無いのは明らかだった。自分が食べられない分、ロウアに食べて欲しいのだ。ロウアはその優しい気持ちが嬉しくもあり、切なくもあった。
「ウン ワカッタ。タベルネ、アリガトウッ!」
「あうんっ!」
ロウアは少し困り顔でいつもこの申し出を受け入れるのだった
「ロウアお兄ちゃんが食べてくれて、ホスヰ、ウレシイッ!」
ホスヰは思わずロウアの片言言葉で話してしまった。
ある日、ロウアはホスヰが無理をして学校に来ているのでは無いかと思うようになった。
「ホスヰ ガッコウ ムリ シテル?」
ロウアはうまく話せなかったが、ホスヰはちゃんと聞き取ってくれた。
「あうん?
お兄ちゃんとお勉強するためにホスヰは頑張って学校に来るのですっ!ゴホッ……」
青白い顔をした少女は一生懸命に笑顔を見せた。ロウアは、この小さな少女にちょっと涙するのだった。
「ボクモ ホスヰト イッショ ベンキョウ ウレシイ」
「あうんっ!」
ホスヰはニコニコしながら、こっちを見ていた。
(嬉しいねっ!)
(まあな)
(だけど、この子の胸……)
(胸?はっ?ガキに興味があるのかよ……。お前、変態だな……)
(ち、違うって、この子の胸が黒く見えるんだ……)
(何だって?黒い?)
(多分、肺の病気なんじゃないかな……)
ロウアはホスヰの胸に黒い雲のようなものが掛かっているのが気になっていた。
(ん?そんなことが分かるのか)
(何とか治せないかなぁ。う~ん)
(気持ちは分かるけど、そんなの病院に任せとけって)
(病院だと治せるとしても一時的じゃないかなぁ……)
(はぁ?何で分かるんだよ)
(う~ん、試してみたいことがあるんだよね。やってみるかなぁ)
ロウアは"力"と"あるもの"を使って、ホスヰの病気を治せるような気がしていた。
(試す?何を?)
(まだ自信が無いんだ)
(???)
ロウアは未だ試したことがないので自信が無かった。
だが、それを使わざるを得ないときがもうすぐ訪れるのだった。
2022/10/08 文体の訂正




