小さな勇気
この10歳クラスの授業はロウアとって適切なスピードで進んだ。
(はぁ、とてもゆっくり進んでくれる……。
しかも何度も繰り返してくれるから助かる……。
子どもの頃の授業ってこんな感じだったのだろうか)
(俺にとっては眠くて仕方がない授業だぜ……。
まあ、実際には眠くならないんだけど)
魂のロウアは退屈そうに話した。
(それにしても、科目は、国語、算数、理科、社会と、21世紀の科目とほとんど同じなんだよねえ。
宗教は珍しいかな)
(へ~。お前の時代と科目が同じなのは面白いなっ!)
(先生は別々に専門の人が来るんだね。そこは違うかな。
僕らは一人の担任の先生が全科目を教えてくれたから)
(そりゃ。大変そうだな)
(あ、もちろん内容は全然違うんだけど……)
(だから、大変なんだってか?
頑張ってくれよ、ロウアッ!
俺が戻ったときに、10歳クラスだと困るからなっ!)
(人ごとだなぁ……)
もちろん体育の授業もあった。
体育の授業では、健全な身体を育成することが目的らしく、あらゆる筋肉を鍛えるような授業が多かった。
ただ、10歳クラスは小さな子どものクラスでもあったのでボール遊びのような授業もあった。
そのボール遊びの授業では、"大きなお兄さん"が混ざっていたので、さながら保育園のお遊戯のようだった。
ロウアは、ボール遊びをしてくれる優しいお兄さんになっていった。
自然とロウアはクラス中で人気者になっていった。
(イケガミ、人気あるじゃないかよっ!)
魂のロウアは、それをからかうのだった。
(ロウア君……、あのね……。まあ、楽しいけどね……)
ロウアは、子どもと遊ぶのはまんざら嫌でもなく、同じクラスの子ども達と一緒に楽しく駆け回る。
だが、ある日、それを遠くから見てあざ笑っている生徒達がいた。
「あははっ!ロウアのやつ、子どもクラスにいるぜっ!」
「優等生が落ちたもんだな、ロウアッ!」
「あいつにすげームカついていたから、ざまーみろだぜっ!」
「子どもに絡まれていて笑えるっ!」
この生徒達は隣のグラウンドで体育の授業を受けていたロウアの元クラスメイト達だった。
彼らは、飛び級で年下のロウアが同じクラスだったのを嫉妬していた。
だから、落ちぶれたロウアを見て、冷笑するのだった。
(くそっ!あいつらっ!同じクラスだった奴らかっ!!)
魂のロウアは自分が侮辱されたように感じ、非情に憤慨していた。
(や、止めろよ……。もう良いよ……)
(だけど……、あぁ、くそっ!くそっ!くそっ!畜生っ!!!)
すると、体育を見学していたホスヰが突然立ち上がり、罵詈雑言を繰り返す生徒達のそばに向かって行った。
「ホ、ホスヰ?」
ホスヰは生徒の近くに行くと、小さな身体を振り絞って声を上げた。
「お兄ちゃんをバカにしちゃ駄目だ~~~~っ!!!んが~~っ!!ゴホッ……、ゴホッ……」
「……んだよ。子どもが味方かよ……」
「ちっ、行くか……」
ロウアをバカにしていた生徒達は、ホスヰの言葉で退散するのだった。
ロウアは、らしくないホスヰにあっけにとられていたが、しまったと思い、急いでホスヰのところに向かった。
「ホスヰ アリガトウッ! アリガトウッ!ダイジョブ、キニシテナイッ!」
「あうん……。ゴホッ……」
ホスヰは、"あ"だか、"うん"だか分からない返事をして、少し恥ずかしがっていた。
いつもは大人しいホスヰが、自分のために怒ってくれたのでロウアは嬉しかった。
(何だよ……、意外と勇気があるんだな。見直したぜ)
魂のロウアもホスヰのことを褒めるのだった。
すると、授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。
「キョウシツ モドロウッ!」
「うんっ!」
ホスヰは、自分の後ろをちょこちょことついてきていて、相変わらず咳をしている。
「コホッ、コホッ……」
ロウアは、自分のために小さな勇気を振り絞ってくれた少女を何とか助けられないかと考えていた。
2022/10/08 文体の訂正




