宇宙の散歩道
ここはどこだろうか、とてつもなく大きな空間だった。
地球にいる人々は、もちろん見ることは出来ない。
また、霊格の低い魂も見ることは出来なかった。
霊格の高い魂達は、その空間を"神々の道"と呼び、入ることの許された魂は地球では数体だけだった。
そこは、宇宙神の光で満ちていて、それ相応の霊格の高さを必要としたからだった。
神々の道は、太陽系であれば惑星間をつないでいて、太陽系から銀河系をつないでいて、銀河系同士をつないでいた。
そのような神々しい神秘の道を一つの魂が宇宙速度で移動していた。
その姿は我々の目では見えないため、分かりやすいように翻訳した姿でお見せしよう。
地球の記録係であるアーカは、幅が100メートルはあろうかという洋館のような廊下を飛んでいた。
時々、30メートルぐらいの高さはあろうかという巨大な扉を、その小さな身体で開いては入って、そして閉じるのを繰り返していた。
「あぁ、重いっ!ワームホールの扉は何て重さなんだよっ!もうちょっと楽に開けないかなぁ…。
だけど、今日はお父様へのご報告日だから急がなくちゃっ!」
そんな扉を数十回も開いてやっと巨大な神殿にたどり着いた。
「はぁ~、やっと着いたよ…。」
その神殿は、少し眩しいぐらいの明るさであり、ほんのりと安らぎのある花のような香りもした。
アーカが入ってきたワームホールの扉から見ると円形状に広がっていて、円の向こう側はほとんど見えないぐらい遠い場所にあった。
天井も見えないぐらい高い場所にあり、その巨大さを物語っていた。
中心地には直径が50メートルぐらいの大きな柱が、真ん中の聖堂を囲むようにいくつも立っていた。
アーカが神殿に入ると、宇宙中の惑星から記録係達が、石畳のフロアを覆うばかりに立っていて、久々の出会いを互いに喜んでいた。
「わぁ~、記録係だらけだ~っ!」
その記録係達は、アーカと同じ人間の姿の者もいたが、中には、犬の形をしていたり、猫の姿をしていたり、猿、トカゲ、恐竜、タコ、羊、または、地球には存在しない生物の姿の者もいた。
その身長も、50センチメートルであったり、1メートルであったり、3メートルであったり、10メートルであったりと大小様々だった。
肌の色、毛の色も赤色であったり、黄色であったり、青色であったり、星の景観を現すような色をしていた。
ただ、この人という姿も翻訳した姿であることを付け加えておこう、実際には大小さまざまな光がそこにあるだけである。
「あの人は大きいなぁ。記録している星が大きいんだろうな~。」
アーカが巨大な記録係に見とれていると、やがて一人の記録係が、アーカに声をかけてきた。
「82AC82F182AAの82BF82AB82E382A4の記録係さんっ!ひしゃ…しぶりっ!」
「あぁ、え~っと、誰だっけ…?」
アーカと同じ青色髪の少年は、彼女の酷い言葉でずっこけてしまった。
「しゅ、数億年ぶり…だから…って、それはない…!記録係でその記憶力…、全く君は…。」
「え、えっと…、あぁ、8376838C834183668358の8341838B834C8349836Cの記録係さんだっけ?
宇宙語が上手くしゃべれないのかい?」
「おぼえている…じゃ…ないか…。82AC82F182AAの82BF82AB82E382A4の記録さん…。」
「えへへっ!
えっとさ、番号で呼ぶの大変でしょ?
地球ではアカシックレコードって呼ばれる事が多いんだ。アーカちゃんって呼んでおくれ。」
「うん…、ああかしゃんね。」
「発音がおかしいなぁ…、アーカちゃんっだって!えっと、君は何て呼ばれているんだい?」
「○□△●◎▽▲⊿かな。」
「へぇ~、…って、聞こえないわっ!」
「ぼく…の星は、音波をつかわな…いで…はなし…するから、うまく、おと出…ない…。」
「…そっか、それでさっきから、宇宙語がおかしいのか。それなら、僕が名前を付けてあげようっ!
そうだなぁ~、君は、"まる"って名前にしよう。」
アーカは特に根拠も無く、名前を付けてしまった。
すると、少年は、
「Mるぅ?まaるぅ、ま、MA、RU、ま、まる、まる、まる、うん、まる…ね。それで…いい。」
"まる"という言葉を確かめるように翻訳しながら言葉にしていった。
「まるさんは、お父様への報告は終わったのかい?」
「うん、おわった…よ。アーカちゃん…これから?」
「そうなんだ。僕は今、着いたばかりだからね~。
今日は、ご報告もあるけど、聞きたいこともあるんだ~。」
「そう…なんだ~。」
まると呼ばれるようになった記録意識は、アーカ方に手の平を向けると、何かを読み取った。
「なる…ほど、転生輪廻…外れちゃった…魂がいる…。」
「そうそう。」
「僕の…星では、転生輪廻を…つかって…いない。一部…低レベルな魂…だけ…つかう。」
「ふえぇ、進化しているね。もうすぐ他の星に出張する人も出てくるんじゃかい?」
「うん…そう。計画…始まっている。
あぁ、あぁ…、うぅぅ、うぅぅ、うん、うん。
…段々、宇宙語に…慣れてきたよ。」
「それは良かったっ!」
まるは、宇宙語が流暢になってきたので、
「確か、君の星は…地上に生まれると、あの世を忘れてしまうん…だっけ?大変…だよね。」
地球での転生輪廻システムについてアーカに尋ねた。
「そうなんだ~。死んだ後に本来の世界に帰れない人が続出中でね。神様達は大変だよ。」
「その方が…魂が磨かれるから。一長一短があるよね。
…そうか、今は科学世紀なのかな?」
「そうだね、最も進んだ時間帯では、科学世紀だよ。
でも、この前、その文明を支えていた機械とかが使えなくなっちゃって、結構大変な時代になっちゃったんだ~。」
少年はまた手の平をアーカに当てると、
「ん~、あぁ、本当だ。えっ!そうか、一部の霊界も消えたのか…。こ、これって大丈夫なのかい?」
驚くようにいった。
「消えてしまったのは、僕の星では地獄って呼ばれていた霊界だよ。
確かに何億もの魂が消えちゃったんだよね…。
そのご報告は、気が重いなぁ…。」
「君たちの世界では地獄っていう世界かもしれないけど、通常の霊界として存在する星もあるからね…。」
「いやぁ、でも、魂同士が食べ合ったり、喧嘩したり、虐めあったりするする世界でしょ?」
「そうなんだけどね。でも、それもお父様が作った世界だから一概に否定も出来ないよ。」
「う~ん、それでも僕には理解できないけどなぁ。」
「まあね、僕もあんまり理解できないなぁ。」
「君の星にも地獄のような霊界は、あるのかい?」
「昔はあったけど、最新の時間帯では、存在しないよ。」
「はぁっ!すごいなぁ。お父様に近い星になっているんだね。
「50億年ぐらい掛かったけどね。」
「そっかぁ~。僕の星はまだまだだなぁ。
文明が無くなったり、また出来たりで、やり直しを何度も繰り返しているからねえ。」
「あははっ!それはどこの星でも同じさ。もちろん、僕の星もね。
そうやって魂と星は成長していくんだからっ!」
「なるほど~。」
そんな話をしていると、アーカに強い念波が伝わってきた。
「あっ!お父さんが呼んでるっ!行かないとっ!!」
「おっ!そうか。行ってらっしゃいっ!
んでもさ、君の星は、今、お父様達が注目しているんだから、頑張って~っ!」
「うん、ありがとっ!僕は記録するだけだけどね~。」
「記録も大事なお仕事さ。それじゃあね。」
「うん、またっ!
次は…、あぁ、今計算したら、次に会うのは20億年後だって…。」
「ありゃ、長いなぁ。もう僕の星は無くなっているかもしれない。」
「そっか~っ!そしたらまた別の星に移動だね。」
「そうだね~。星の人達が移住した星とか、まぁ、先の話さ。僕の星の人達と話し合っていくよ。」
「うんうんっ!それじゃあ、またね~。」
ちなみに、このような会話は、数ミリマイクロ秒で実際には終わっている。
あくまで、これは分かりやすいように説明しているだけである。
アーカは、偉大な魂から呼ばれて、他の記録係達をかき分けて神殿の中心地に移動した。
そして、ワームホールの扉の数倍はあろうかという扉の前に立ち、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「あ、開けるぞぉ~。」




