小さな声
ここムーの競技場には、大陸中から学生達が集まって陸上競技を競い合っていた。
空を見上げると綺麗な青空とまばゆい太陽が輝いていた。
そんな爽やかな天気の中、選手達のかけ声と同じぐらい大声でナーカル校のチアリーダーは応援していた。
「ゴーッ!ゴーッ!ナーカルッ!」
「ゴーッ!ゴーッ!ナーカルッ!」
そんな物珍しいチアリーダーに応援されているナーカル校の陸上部員達は、少しあきれ顔だった。
「キ、キミル…、アマミル達、私たちより目立っていない?」
「う、嬉しいけど、なんでだろ。こっちが恥ずかしいんだけど…。」
「あんな応援初めてよね…?」
部員達に言われて、キミルは苦笑せざるを得なかった。
「あはははっ!
しかし、こう来るとは思わなかったな~っ!
さすが、ご迷惑少女部組だわっ!!」
だが、部員達の中には、アマミル達の応援による力を実感する者もいた。
「だけどさ~、元気に応援してくれるから嬉しいねっ!」
「そうだね~、こっちも元気になってきたかも?」
「そうね、何だか身体がいつもより軽くなった感じ?」
「さっき、あなた最高記録だったでしょ?」
「あなたもでしょ?」
それらを聞いていたマネージャの生徒が、
「…今日は、みんなさ、全員記録を更新しているんだよね…。あの応援のお陰なの…?」
と言ったので、部員達は驚いた顔でお互いの顔を見合わせた。
「ま、まさか…。」
「……。」
「で、でも確かに…。」
そんな不思議な現象も起こっていたが、この時代にチアリーダーのような応援団は存在しなかったから、その珍しさからアマミル達の写真を撮ってはツナクにアップロードする学生達が多数いて、ツナク上にアマミル達の写真が溢れかえっていた。
そのため、午後になると様々な人が一目見ようと競技場に集まり始めた。
「おぉ、あれが?」
「衣装が素敵ねっ!」
「可愛いっ!」
「踊りも良いねっ!」
「なんか、たのしそ~っ!」
ツナクの情報には、カフテネ・ミルのアルとシアムもいるという噂もあったのでそれに更に拍車をかけていた。
「あぁ、ホントだっ!アルちゃんとシアムちゃんがいるっ!」
「おぉ、カフテネ・ミルだっ!」
「アルちゃ~んっ!シアムちゃ~んっ!」
「ま、待て、他の三人も可愛いぞっ!」
「あのちっこいロネントも可愛いっ!」
「だけど、あの男はなんだ?要らなくね?」
「イラネ~ッ!」
「イラネッ!イラネッ!」
そんな人達を見る度、ロウアは、ますます恥ずかしくなった。
「あぁ、人が集まり始めてしまいましたよ。
…イラネって、言われている気がする…、悲しい…。」
「き、気にしてはダメです、にゃっ!」
「あ、ありがとう、シアム…。」
「私たちは全然気にしておらぬぞ、イケガミィ。」
「ア、アル…。ふ、二人はさ、いつもこんなに注目されているの…?すごいね…。」
「ふふっ!そうだろう、そうだろう。」
アルはドヤ顔でそう言ったので、いつもならロウアはムッとするところだが、今日だけは素直に尊敬した。
「…やっぱ、アルとシアムを見に来ている人が多いなぁ。」
ロウアはアルとシアムへの応援を聞きながら二人の注目ぶりに感心した。
「だけど、アマミル先輩といい、イツキナ先輩といい、みんなすごいね…。
ホスヰも楽しくやってるし…、ツクちゃんも慣れてきたみたいだし…。」
ロウアは、アルとシアム以外の女性陣達も照れることなく踊りながら応援しているので、自分だけ置き去りにされているような気になった。
そんな時、
「はぁ~。…ん?」
とロウアがため息をしたとき、
<…助けて…。>
とかすかに誰かの声が耳に入った。
「ん?だれか、助けてって言いました?」
「なぁに?誰も言っていないわよ。」
アマミルは、ロウアの質問に首をかしげた。
「イケガミ、君は何を言ってるんだね。」
「うん?聞こえていないですよ、イケガミ兄さん。」
アルとシアムも何も聞こえないようだった。
「…空耳かなぁ…。ただ、聞こえたというより感じたというか、何というか…。」
部員達が首をかしげた時、
<たす、助けて…。>
とまた聞こえて来た。
「…い、いや、やっぱり聞こえる…。ちょっと席を外しますっ!」
「イ、イケガミ君…?」
とアマミルが言った時には、あっという間にロウアはいなくなっていた。
「やだやだやだ~っ!遂にイケガミが逃げたぁ~…。」
「アルちゃん、お休みしてもらおうよぉ~。さっきまで頑張ってくれていたしっ!」
アルとシアムの声を尻目に、ロウアは応援席の入口まで戻った。
だが、ここでも声はかすかにしか聞こえなかったので、ロウアは声を辿って、丁度、応援席の裏側にあるコンコースに出た。
「ど、どこから…?」




