アルの復讐
ロウア達は、競技場に入ると、トイレに入り、各自リアユニフォームに着替えて、応援席の入口に集まった。
「う~ん、このボンボンって貧弱じゃ無い…?もう少し派手に広がっているって教えたと思うんだけど…。」
ロウアはだらっとしているボンボンを見て、そう言うと、
「えっ!ちちち、違うよ。せ、設計通りだよっ!」
アルは慌てるように答えた。
「…焦っているところを見ると…アル、何か失敗したな…。」
「ち、違うって!イケガミの言った通りだってっ!
わ、私の心の中を覗かれては、こ、困るなぁ。」
「そんなこと出来ないってっ!てか、誰が見ても分かるって。分かりやすいんだから…。」
「イケガミ兄さん、アルちゃんが、ロネントに依頼す…モゴモゴ…るのが遅…モゴモゴ…。。」
慌ててアルがシアムの口を押さえたので誰もが何かあったのだと分かった。
「やっぱりなんかあったのか…、しょうが無いなぁ…。」
ロウアが呆れていると、シイリは、
「でも、少し根元を追って、先の方を切れば…。」
と言いながらボンボンの根元のところを折り曲げて、先を切ったのでそれっぽく見えるようになった。
「おぉっ!シイリィ、最愛の妹よっ!!」
「えへへっ!」
こんな感じでボンボンの問題は解決した。
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競技場の観客席は、ちらほらと人がいるぐらいで応援している人達はほとんどいない状態だった。
そんな、がら空き状態の観客席に、チアリーダー姿に着替えた部員達は応援席の先頭に立った。
ボンボンを手に持った短いスカートと派手な色の衣装の部員達は、他校を含めた選手達と応援席にいた生徒達を驚かせた。
「ボソボソ…、あそこナーカル校?」
「そうよ。何をするつもりなのかしら…ボソボソ。」
「でも、ちょっと可愛いかもっ!」
「えぇ、恥ずかしくない?あの人達、大丈夫?」
「あの手に持っているのは何?」
「さ、さぁ?」
「あの小さいのって、もしかして、ロネント?」
「一人だけ男の子がいるわ…。」
それを聞いていたロウアは、改めて顔を赤らめた。
「は、恥ずかしい…。」
だが、女性陣は、ロウアよりも肝が据わっていて、
「なぁに?イケガミ君、男らしくないわよ?」
「そうよっ!派手に行きましょうっ!」
アマミル、イツキナはあっけらかんと言った。
「ステージ衣装みたいよね?シアム。」
「そうだね~。衣装作成にいつものロネントを使ったからかなぁ。」
この衣装作りには、カフテネ・ミルのアイドル衣装を作るロネントを特別に借りたので、アルとシアムはアイドル活動の延長線上にあるように思っていた。
「二人とも、この服を作ってくれて、ありがとね。」
イツキナがお礼を言うと、
「いいえ、いいえっ!気にしないで下さいっ!裁縫ロネントに作らせただけですし。」
「そうです、にゃ。イツキナ先輩のお友達を応援できて嬉しいですっ!」
アルもシアムは、お礼を言われて少し照れてしまった。
「うんとっ!うんとっ!
私、アルお姉ちゃんと、シアムお姉ちゃんと同じ格好が出来て嬉しいですっ!!」
少し興奮気味のシイリは嬉しそうにしていた。
「妹よっ!!私も嬉しいぞっ!」
「ふふふっ!今日は楽しもうねっ!シイリッ!」
「はい、にゃっ!」
そんなやり取りを聞いていたイツキナは、
「ホスヰちゃんとツクちゃんは大丈夫?」
とホスヰとツクに声をかけた。
「だいじょうぶでっすっ!!わ~いっ!わ~いっ!」
ホスヰは楽しそうに答えたが、
「きききき、緊張してしていままます…。」
ツクは、緊張気味だった。
「ツク、頑張るのだ。今、君は私と同じステージに立ったのだよっ!」
「は、はいっ!アル様っ!!」
アルは先輩ずらしてツクを励ました。
「ツツツ、ツクちゃん、が、がが、がんばれっ!」
マフメノは柄にも無くツクを応援した。
「きゃっ、マフメノ先輩っ!!ありがとうございますっ!
お嫁さんも可愛いですよっ!」
ツクは照れつつ、チアユニフォームを着ているマフメノの嫁も褒めた。
そんな中、魂のロウアは、自分の元身体にも関わらず相変わらずロウアを見て大笑いしていた。
(ぷ、ぷぷっ!あはははははははっ!!!ゲラゲラゲラッ!)
(わ、笑うなよ…。君の身体なんだよ?)
(退屈しないわ~っ!クククッ…。)
(ま、全く…。
メメルトさんも来てくれたんだね。)
メメルトも久々に合流して、
(はいっ!ほら、私も同じ服にしてみました~っ!)
いつの間にか、みんなと同じチアユニフォームを着ていた。
(似合ってるね。)
(ありがとうございますっ!ロウア様っ!)
競技の方もいよいよ開催すると、アマミルは部員達に準備を促した。
「さっ!やるわよっ!みんなっ!」
みんなに声をかけると一斉に横に並んで予め決めた通り、ボンボンを左に右に、上に下にと動かして応援を始めた。
「ゴー、ゴー、ナーカルッ!」
「ゴー、ゴー、ナーカルッ!」
「ゴー、ファイトッ!ウィンッ!」
「ゴー、ファイトッ!ウィンッ!」
ナーカル語では無く、英語だったが、ロウアが知っている限りのチアコールだった。
ロウアは教えているとき、これを自分もやるのかと憂鬱になったが、諦めて教えるしか無かった。
ただ、チアリーダーの動きだけは教えようも無く、アルとシアムが覚えていたダンスのうち、簡単な動きをやることにしたのだった。
「ゴー、ゴー、ナーカルッ!」
「ゴー、ゴー、ナーカルッ!」
「ゴー、ファイトッ!ウィンッ!」
「ゴー、ファイトッ!ウィンッ!」
「ゴー、ゴー、ナーカルッ!」
「ゴー、ゴー、ナーカルッ!」
「こらっ!イケガミィ、動きが悪いぞぉ!声も出てないぞぉっ!!」
アルはここぞとばかりに、恥ずかしそうに動いているロウアを責めた。
「く、くそう…、さっきの仕返しか…。」
「ケケケッ!もっと手足を動かすのだよっ!!声は腹から出すのだよっ!!ほらほらっ!」
アルはどうだと言わんばかりに手足を動かして見本を見せたが、ロウアは恥ずかしくて仕方が無い。
「ケケケッ!下手くそ~っ!バガミィッ!ゲラゲラッ!!!べ~っ!」
「ア、アルちゃん…。」
シアムはアルと止めようとしたが、
「ほらほらっ!動けぇ~、声だせぇ~~っ!!」
さらに、アルは調子に乗ってロウアの周りを回り始めながらロウアをバカにした。
当のロウアはムカムカとし始めた。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!!やってやる~~っ!!やってやるぞぉ~~~~っ!!!
ゴー、ゴー、ナーカルッ!
ゴー、ゴー、ナーカルッ!」
ロウアは完全に半ギレ状態で、大声を上げ、身体を動かし始めた。
「やだやだやだ~っ!イケガミが切れた~~っ!!」
「イケガミ兄さん、良い感じです、にゃ!」
アルとシアムは、動きの良くなったやけくそのロウアを見て微笑んだ。
他の部員達も同じように楽しそうに応援をし続けて、ロウアに続くような動きとなっていった。
(お、おい…、その動きって…。)
(ロウア様、イケガミ様に教えた方が…。)
(いや、いいんじゃね?笑笑)
(そ、そうですか…。)
魂のロウアは何かに気づいたようだが、面白そうだったので放って置くことにした。




