イツキナ元気になる
すっかり元気になったイツキナは、カウラの作ってくれた空中に浮かぶ車椅子に乗って、霊界お助けロネント部の部室にも顔を出した。
「こんにちは~~っ!
いや~、やっぱ、実際の目で見る部室は良いね~っ!」
部員達は、そのあまりにも元気な声に、驚きの表情でイツキナを迎えた。
「イ、イツキナ先輩っ!」
「良かったです、にゃ~~~っ!!」
アルもシアムも今日は、イツキナが復帰すると聞いて、無理矢理休みを取って部室に来ていた。
二人は、イツキナを見ると涙を浮かべていた。
「あぁ、ありがとねっ!二人とも心配かけちゃったよね。」
「いえいえ、そんな~っ!元気な声が聞けて良かったよね、シアムッ!」
「うんうん、とっても嬉しい、にゃっ!」
「嬉しいなぁ~、二人ともこっちに来て~っ。」
「はいっ?」
「は、はいにゃ?」
二人が近づくと、イツキナは唐突に抱きしめた。
「二人とも大好きっ!」
「ぬ、ぬぉ~~っ!まさかのハグだよ、シアムッ!」
「はにゃにゃっ!わ、私も大好きです、にゃ~っ!」
二人は戸惑ったが、イツキナが元気になって良かったと心から思った。
(ま、待てよ、ハグって言葉なんで知っているんだ…。)
ロウアは、アルがたまに現代語を使うので焦った。
「イツキナお姉ちゃん、戻れて良かったですっ!!」
「おぉ、愛しの妹、シイリちゃんっ!ありがとうねっ!!
さぁ、シイリちゃんもこっち来て。」
「うんっ!」
イツキナは、シイリが近寄るとアルとシアムにしたように、そのまま抱きしめた。
「色々と面倒を見てもらったわね。
シイリちゃんがあの時、怒ってくれたから、私、頑張れたのよ。
ま、まだ、歩けないけどね。」
「イ、イツキナお姉ちゃん…。うぅぅ…。
こ、ここまで回復したんですっ!学校まで来られるようになったんですっ!
きっと歩けるようになりますっ!!
私、嬉しい…、嬉しいよぉ~っ!うわ~~~んっ!!」
そして、イツキナは、ホスヰがモジモジとしているのに気づくと、
「ホスヰちゃんも、こっち来てっ!」
とホスヰも呼んであげた。
「あうんっ!!」
ホスヰはダッシュして自らイツキナに抱きついた。
「ふふっ!ホスヰちゃんも身体の面倒をたくさんみてくれたもんね。」
イツキナが頭を撫でてあげると、ホスヰは頭をイツキナの膝にぐりぐりとした。
「ツクちゃんも来て~。」
「は~いっ!!」
イツキナは、同じようにツクを抱きしめた。
「ツクちゃんもありがとね。」
「イツキナ先輩が良くなって良かったですっ!」
「ありがとうっ!」
アマミルはこの光景を見ていて、らしくないイツキナだと思いつつ、
(でも、元気だからいっか…。)
とも思った。
「ロウアァァァ、つ、次は僕の番かなぁぁ。」
マフメノは次は自分の番かと、ワクワクしていたが、
「男子は無しっ!!」
イツキナは、さくっとハグタイムの終わりを告げた。
「ガ~~~ンッ!!」
「マフメノ…、この頃、遠慮しないね…。」
「いいよぉ、いいよぉ、ロウアァ、僕はさっき、ぐりぐりしているホスヰちゃんの写真を撮ったから…。」
「い、いつの間に…。」
ロウアはヘンタイ発言を遠慮無くするマフメノに頭を抱えた。
「それにしても…イツキナ先輩、どうしたんですか…、何かすごい明るくて元気になって…。」
「イケガミィ、自分の身体で登校が出来て嬉しいんだよ、ね、先輩。」
ロウアの問いにアルがイツキナの代わりに答えた。
「それもあるけどさぁ、みんなが大好きな事に気づいたのだよ~~っ!
みんなといると嬉しいんだぁ~~っ!」
イツキナの大好き発言で部員達も笑顔になった。
「ねぇっ!写真撮ろうっ!!マフメノ君お願い~~っ!!」
イツキナは続けて、復帰記念と言える今日の事を写真に撮りたいと言い出した。
「わ、分かりました。」
「良いね、イツキナッ!てか、今日は完全に仕切られてるわ…。」
「そうだ、幽霊部員達も入ってよっ!見えないけどっ!
メメルトも、師匠もいるのよね?あっ、ロウア君の本体もっ!」
「ほ、本体って…。い、いますよ。…入るそうです。
まだ、みんなに説明していないんだけどなぁ…。」
「なぁに?私はイツキナに聞いたわよ、イケガミくんっ!」
「あぁ、アマミル先輩までイケガミって呼び出してしまった…。」
アマミルの得意満面な顔にロウアはたじろいたが、
「???」
「マフメノ先輩、何を話しているんでしょうか…。幽霊部員って?」
マフメノとツクは何を話しているのかといぶかった。
「二人にも説明しないとね…、僕もイツキナ先輩を見習って全部話すよ…。」
「おぉ、ロウア君っ!良いじゃ無い、それよそれっ!あれ、イケガミ君の方が良いのかな?」
「呼び名は、どっちでも…。」
部員達は、壁際に集まると、マフメノが作った嫁と称するロネントがみんなの前に写真を撮るために立った。
「い、行くよぉ~~。」
マフメノが合図すると、イツキナは、
「あ、あれ、幽霊部員達って入っているの?」
と幽霊部員達を気遣った。
「ちゃんと入っているそうです。」
「おぉ、そうかぁっ!マフメノ君、よろしくっ!」
「は、はい…。」
マフメノは、心霊写真が撮れてしまうるのでは無いかとドキドキしたが、嫁に撮影の合図を送った。
"パシリッ!"
マフメノの嫁は、それっぽく音声を出して記念写真を撮った。
「ロ、ロウアァ、幽霊部員達って、ほ、本当に写っているの…?」
マフメノが写真を画面に映してロウアに聞いた。
「うん、いるよ。」
「ゾクッ…、ちょ、ちょっと鳥肌立っちゃった…。」
「みんな良い人達だから、大丈夫だよ。女神様だっているんだから。」
「そ、そうなのか…。
えっ、女神様…?!ナニソレッ!見たいんだけどっ!!」
部員達のツナクトノにも共有された一枚の写真は、霊体も含め、みんなが一つになった記念撮影となった。
それは学生時代の大事な一枚でもあったが、喜びも悲しみも含んだ青春の一枚だった。
写真を取り終わると、魂のロウアが話しかけて来た。
(これ、お前とシイリぐらいじゃねぇのか?見えてんの。)
(まあ、そうだけどね。)
(あははっ!弟子の友達と記念写真とはねっ!一応、来て良かったよ。)
イツキナの師匠である髪の短い女神も嬉しそうだった。
続いて、魂のロウアは、イツキナの異変を話題にした。
(だけどさ、この前から気になっていたけど、イツキナは何か変じゃね…?)
(うん…、身体が戻って、嬉しいんじゃ無いかなぁ。)
(それにしちゃ、浮かれすぎだろ…。みんなを抱きまくって。なんだ?これは?)
それに対し、メメルトは、
(…身体にこだわらなくなって気が楽になったのではないでしょうか。
文字通り肉体的にも精神的にも彼女の重みになっていましたから。)
とイツキナのことを理解していた。
(なるほど。)
ロウアが納得すると、
(弟子が元気になったのは嬉しいな。
こいつは、生まれるたんびに苦労を背負い込む性格でさ。
目を離すといっつも深刻な状態になっているのさ。)
(そうですか…。)
ロウアは、イツキナの未来世である、愛那は虐められて自殺を選択してしまった事情について思い出した。
(何にしても、みんなのお陰だよ。ありがとね。弟子の代わりにお礼を言わせてもらうよ。
私は安心したからさ、しばらく空から見守ることにするよ。)
イツキナの師匠と称する髪の短い女神は、みんなにお礼を述べて、天国に帰ることを伝えた。
(いいえ、こちらこそ、ありがとうございました。)
(イケガミ様、こいつをよろしくお願いいたします。苦労性なんでまた何かやらかすかもしれませんが。)
(あはは…、分かりました…。)
ロウアが苦笑いをすると、メメルトも、
(私もそろそろ帰ります…。あんまりこっちにいると、天国での修行が遅れてしまうんです…。)
メメルトも天国に帰ることを伝えた。
(そうですか…。)
ロウアが残念そうにすると、女神は、
(メメルト、良かったら私のところに来なよ。)
とメメルトをスカウトし始めた。
(えっ!良いんですか…。)
(良いよ、これも縁だろうしね。弟子二号だ。)
(あ、ありがとうございますっ!嬉しいですっ!)
(あははっ!メメルトさん良かったですね。)
(はいっ!)
そして、イツキナの師匠と、晴れて弟子二号となったメメルトは、最後の挨拶をした。
(それじゃあね、あとはよろしくお願いします。)
(それでは。イケガミ様、ありがとうございました。
ロウアさんも呼んで頂いて、ありがとうございました。
幽霊部員、とても楽しかったですっ!)
(はい、また、会いましょうっ!)
(おう、またな。)
女神とメメルトはロウアと、魂のロウアに挨拶すると天国へと帰っていった。
すると、これに気づいたのは、アマミルとイツキナだった。
「なぁに?今、だれか、じゃあねって言った?」
「私も聞こえたど…。」
「アマミル先輩、イツキナ先輩、師匠さんとメメルトさんが天国に帰っていったんです。」
「あら…。メメルトが…。」
「えっ、師匠もっ?!」
二人は残念そうな顔をした。
「あぁ、お礼を言えなかったわ…。
イツキナの師匠って人には、散々助けてもらったんだよね…。
メメルトも影ながら頑張ってくれたのに…。」
「うん、そうだね…。師匠は私の縁のある人だったんだよね…。綺麗な人だったなぁ…。」
「お祈りをすれば感謝の気持ちは、二人に届きますよ。」
「そうなんだね。イツキナ、後で一緒にお祈りしよっか。」
「うんっ!そうだねっ!!」
イツキナの復帰と女神とメメルトの帰還は、霊界お助けロネント部の新たな始まりを予感させた。
「き、綺麗な人だったっ?!くぅ~~~、見たかったよぉ~っ!」
マフメノは、イツキナの言葉に反応していたが、みんな気づかないふりをした。
ツクはちょっと怒っていた。
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魂のロウアの一言
(あれ、幽霊部員、俺だけになったんじゃね?)
(そうだね…。)




