親友
イツキナの足は動かなかったため、一旦、病院に戻ることにした。
だが、病院でも神経はつながっているので足は動くはずという診断だった。
「てへっ!」
イツキナがベッドの上で自分の頭をコツンと叩くと、アマミルはぷちっと切れた。
「なぁに?またそれを言うのっ?!やっちゃうのっ?!
あれ程、苦労して治療したのに、どうして動かないのよっ?!」
ロウアはさすがに言い過ぎだと思ったのか、イツキナをフォローせざるを得なかった。
「まぁまぁ、アマミル先輩…、別の人が動かしたとはいえ、動いていたのを見たじゃないですか。
そのうち、歩けるようになりますよ。」
「もう、ロウア君は何で甘いのかな~っ!!」
それを聞いた、イツキナはニヤリとして今度はアマミルを攻撃した。
「うふふっ!アマミルったらロウア君が私を守ってくれたから嫉妬してるねっ!」
「(プチプチッ!)はぁ~っ!何言ってるのよっ!あなたのことを心配しているんでしょっ!」
「アマミルったらプチプチって音がしたわよっ!
血管切れちゃったんだじゃない?大丈夫?ぷっ、あはは~~~っ!」
「あぁ、何か、性格変わってない?もうちょっと真面目な感じだったでしょ?」
「そうかなぁっ!クスクスッ!」
「…ロウア君の魔法で性格も変わったんじゃないの?」
自分の名前が出てロウアは焦った。
「ぼ、僕は関係ないですよ…。
そ、それに良いじゃないですか…、良い意味で気持ちが楽になっているというか…。
神妙な面持ちだった頃よりも楽しそうですし…。」
「そうだよ~っ、アマミルッ!てへっ!」
また、イツキナがテへ顔をすると、
「んがっ!…はぁ~、もう良いわ…。」
アマミルは自分だけ真面目に考えていてバカらしくなってしまったが、
(だけど、本当にイツキナ…、元気になった…。
陸上をやってた頃も元気だったけど、あの時、以上に…。)
同時に、足は動かないとはいえ、元気な姿の友達を見るのは嬉しかった。
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退院後、イツキナは、カウラの用意した車椅子を使うことになって、学校にも復帰した。
当然のことながら、学校や、寮では、突然、足が不自由になったイツキナに驚きの声が上がった。
イツキナは、聞かれる度に、全身ロネントだった事や、部員達のお陰で上半身は動くようになった事を正直に伝えた。
アマミルは友人があまりにも気楽に自分の身体の事を話してしまうので、どうしてしまったのかと思っていた。
自分の身体の事は周りには話したがらなかったからだった。
寮に戻り、イツキナの部屋で掃除をしていたアマミルは、そんな疑問をイツキナに投げかけた。
「良いの?イツキナ…、学校であんなに自分の事を話しても…。」
「良いの、良いのっ!話しちゃった方が気楽で良いわっ!あはは~~っ!
陸上部のみんなも驚いていたね~っ!」
アマミルは、笑顔で話をするイツキナを見て、急に涙がこぼれそうになった。
「ちょ、ちょっと、アマミル、泣いてるの?」
「バカねっ!泣いてなんか無いわよっ!!グスッ…。」
そんな親友を見て、イツキナは自分への思いを再認識した。
「アマミル…、ごめんね…。苦労かけたもんね…。」
「バカァァァァッ!!」
感情が抑えきれなくなったアマミルは車椅子のイツキナの膝に抱きついて大泣きした。
イツキナも涙を流しながら、友達の頭を撫でてあげた。
「ありがとう…、ありがとう…、アマミルがいなかったら、私は今頃、ベッドで一人きり…。」
「そうよ、そうよ…。感謝しなさいよね…、グスッ…。」
「感謝しているよ…。アマミル…、私の大親友。大好きよ…。」
「ワァ~~ンッ!!バカァァァァッ!!」
厚い友情に結ばれた二人は互いを抱きしめ合った。
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やがて落ち着いたアマミルが顔を上げると、あることに気づいた。
「…グスッ、…あ、あれ、ロネントはどこに行ったの…?」
「知らな~い…、いつの間にか無くなっていたの。」
軽いのりのイツキナに、アマミルはちょっと切れ気味になった。
「はぁっ?!あ、あんな大きなものがいつの間にかって…。」
「勝手に動いたのかなぁ。そのうち戻るでしょ?」
「ちょっ、ちょっと、いなくなったペットがどこかに遊びに行ったみたいに言わないでよっ!」
「変よね~~。」
「変よねって…、全く…、う~ん、カウラさんに聞いてみよっか。」
「そうね~~。」
イツキナにとって大事に使っていたロネントだったが、身体がある程度自由になったから使わなくなった。
それはそれで良いことなのかもしれないと、アマミルは思った。




