同室の少年
エメ商会の崩壊と共に、エメ商会の口座も神官組織が凍結してしまった。
このため、孤児院は、また貧しくなっていったが、植物を育てるなどして慎ましく生きていった。
やがてオケヨトが老衰すると、孤児院では介護も出来なくなったため、病院に入院することになった。
オケヨトが入院してから数日経った頃、広い病室に一人の少年が入院した。
(あら、入院なんて大変ね…。でも広い病室だったから少し嬉しいわ…。)
オケヨトの姿は、元々の性格から女性のような雰囲気に代わっていった。
髪は誰も切ることなく伸びきっていて、その姿を見て男性と思う人はいなかった。
ある日、オケヨトは、その少年が窓際に来て外を見て驚いている姿を見た。
(何をそんなに驚いているのかしら…、そう、そうそう、エメもそうだった。
エメも空中を飛んでいる車に驚いていた…。あぁ、エメ…。)
オケヨトは、そんな少年を見てエメを思い出し、思わず声をかけてしまった。
「おや、とても若いのね…。お若いのに病気だなんて珍しい…。」
オケヨトが少年を見ると、右腕の先を失っているのが分かった。
「あら…、腕が…、大変ね…。」
少年はオケヨトに声をかけられて応えようとして身振りで何かを訴えているが、オケヨトは理解できなかった。
「あら、声が出ないのかしら?」
少年は、うんと頷いた。
「大変ね、私は、ほら、こんな歳でしょ?治療も効かなくなってしまって、こうして旅立つ日を待っているの。ふふふ。」
少年が寂しそうな顔をしたのでオケヨトは、
「そんな悲しい顔をしないでね。もうすぐラ・ムー様のいる天に召されるだけよ。」
と、自分の事をあまり心配しないで欲しいと訴えた。
(でも、不思議ね。私の言葉は分かるのね。)
オケヨトは少年の気をそらすため、自分のために持って来てくれた見舞い品である果物を差し出した。
すると、
「そうね、これでも食べる?」
(グゥ~。)
初年のお腹が果物の臭いに誘われて鳴りだした。
「あら、お腹が空いているのね。」
オケヨトは丁寧に果物をむいてあげると、少年は貪るように食べた。
その姿は、孤児院で育てた子ども達を思い出すようであり、思わず顔がほころんだが、
「う、うまいっ!」
と聞いたことの無い言葉で少年が話したので驚いてしまった。
「あら、声は出るのね。ごめんなさい。外国の方だったのね。どこの言葉かしら。
ウマイ?おいしいという意味かしら、北西の国で聞いた事があるかもしれないわ。
と言っても、私の言葉は分からないわね…。
お腹が空いているなら、もう一つ如何かしら?」
少年は、また、うんと頷いた。
「うふふ。お見舞いにみんな色々な物を持ってきてくれるのよ。たくさん食べてね。」
オケヨトは、また果物をむいて少年にあげた。
少年はお腹がいっぱいになると丁寧にお礼をした。
「あらあら、お礼なんて良いのよ。ふふっ、丁寧ね…。エメとは偉い違い。」
少年は、そのままベットに戻って眠ってしまったようだった。
(でもあの言葉…、エメが話していた日本語…だったかしら、あの言葉にそっくりだったような…。
エメ…、エメ…、あぁ…。また、あの時のことが思い出される…。)
オケヨトは過去自分が犯した罪の気持ちにまた襲われて不快になった。
その思いを忘れるようにベットに潜ると、オケヨトもまた眠りに落ちた。
少年の言葉を聞いた者がもう一人いた。
それはオケヨトに取り憑いていたエメだった。
<こ、この少年、日本語を話した…。な、何故…?何故なの…?>
エメはそれ以降、その少年、ロウアをつかず離れずの位置から取り憑くようになった。




