ロウア
翌日、昼頃になると、また、とっきょ(?)と、良子(?)、そして、母親(?)の三人が病室に現れた。
三人は雑談をしているようだったが、相変わらず何を話しているのか分からない。
しばらくすると、看護婦(?)が病室に入ってきて、池上達を別の部屋に案内した。
池上は歩くのがやっとだったので母親と思われる人の肩を借りるしかなかった。
案内された部屋に入ると、そこには、昨日見たような死んだ目をした医者では無くて、ひげを貯えた人が椅子に座りどうぞこちらへという身振りで迎えていた。
池上は促されるままに椅子に座る。
(医者だよね……?)
医者(?)は、池上の服を上に上げると聴診器のような細長い棒を使って身体の至る所に触れた。
池上は、医者と看護婦が何かを話しているのだが、全く内容が理解できない。
発音はかすかに日本語のように聞こえるが、単語の意味が分からない。
(もしかしたら、能力を使ってみたら何か分かるのでは……)
様々な能力を持つ池上は、相手の考えていることに意識を集中すれば話していることが分かるのでは無いかと思った。
池上は意識を集中して、言葉では無く話している意識に心を同調させた。
<……ロウアさんの身体は問題ありませんし、意識もはっきりしています>
医者は、池上の様態を説明していた。
「おぉ、分かったっ!」
この部屋の全員が、池上に注目する。
池上はしまったと思い、とっさに下を向いた。
<意識ははっきりしていますが、記憶が混濁しているようです……>
<記憶が混濁っていうのは……?>
母親(?)が質問した。
<恐らく、記憶を失ってしまったのではないかと……>
<えっ?記憶を……>
<彼の意識がツナクトノとうまくつながらないのです。
今までの事例だと記憶喪失以外は考えられなくて……。
これ以上はナーガル医学では分からない状態です……>
(ツナクトノ……?ナーガル……?)
<うう、アルちゃん……、ロウア君が、ロウア君が……>
<やだやだやだ~~~っ、シアムちゃん、こんなに元気な顔をしているから大丈夫だってっ!>
<アルちゃん……。そうだよね……、きっと大丈夫だよね……>
「とっきょ……、じゃなかった、アル?その話し方……。やっぱり、とっきょなのか……?」
懐かしい話し方に思わず声がもれてしまう池上だった。
<ま、また、意味不明な言葉を話しているぞ……>
<う~ん、何をお話しているのかなぁ、ロウア君……>
二人は理解できない様子だった。
池上は、どうやら、自分が、ロウアという名前であることを理解した。
そして、とっきょに似ている子は、アルという名前で、良子に似ている子は、シアムという名前であった。
母親も、二人もブラックホールに入る前のままの姿に似ている。
ただ、三人とも髪は日本人特有の綺麗な黒色だったが、瞳の色が青で、肌の色はとても白い。
シアムという子は何故か猫耳を付けている。
<シアム、ロウアのやつ、こっちをじっと見つめているぞ……>
<う~ん、どうしちゃったんだろうね……>
池上は元気だぞっと、アピールするためガッツポーズをしてみるのだが右手の痛みで傷口を押さえてしまう。
「いたたっ……」
<うぉ、何かアピールしようとしたが、ダメだったって感じだっ!が、がんばれ、ロウアッ!>
<だ、大丈夫?ロウア君……>
シアムは、優しさからか、池上の肩に手を置いていたわっていた。
「シアム?あ、ありがとう」
<ううん?な、何て言ったの?ロウア君……>
すると、医者がまた話し始める。
<明日また、精密な検査をしますよ。何か分かれば良いのですが……>
<はい、よろしくお願いいたします……>
母親らしき女性が、お礼を言った。
(あ、あれ……?ち、力を使いすぎたかな……)
池上は、椅子に座りながら意識が無くなり、倒れてしまうのだった。
「ご、ごめん……」
「□□□□□!!!」
「□□□□□!!!」
朦朧とした意識の中でまた三人が不安そうに叫んでいる声だけが聞こえた。
ロ 広がる大いなる光を固定し
ウ 周りに循環させる
ア 中心にいる存在
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ア 人々の中心にいて
ル 色々な物を広げる存在
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シ 流れ広がる光りと
ヤ 溢れる光を受け止めて
ム 調和させる存在
2022/10/08 文体の訂正