ナレミの部屋にて
エメは、その手でムーを牛耳るつもりだったが、失敗し、その代わり仕事を奪われた者達の代表者であると訴え始めた。
実際にロネントによって仕事を奪われた人々は、数え切れないほどいて、エメはその代表であることは変わりは無かった。
こんな白熱した中でもエメの弁護人は、エメを守るような発言はせず、一人で下を向いてブツブツを独り言を言っているような状態だった。
神官組織によって選ばれた彼は、かなり年を取った老人であり、エメを庇護するために雇われたと言いがたい人間だった。
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"この弁護人いらね。何しにここにいるの。"
"エメの意見を尊重しろ。"
"俺達の未来から希望を失わせた神官組織は、この世から消えろ。"
"検察はどっちの味方だ。弱い者の見方をしろ。"
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彼を同情する声や、応援する声、そして、同じように訴える声がパンクしそうになった頃、
「で、では、もう一人証人を提案したい、裁判長。」
と検察がニヤリとすると、法廷に一人の男が現れた。
「……!」
エメはその男を見て、一瞬驚きはしたが、想定していた通りだと思った。
そして、何かに覚悟した目をした。
「では、オケヨトさん、証言して下さい。」
「は、はい…、あ、あの…。」
孤児院のナレミの部屋から参加したオケヨトは、震える声でエメ達の計画を暴露するように証言した。
その発言に対して検察は確認するように質問し、オケヨトはそれに応えれば応えるほど、エメの立場は追い詰められていった。
エメは怒るでも、うろたえるでもなく、淡々とそれを聞いていた。
エメは、オケヨトが神を深く信仰していて、自分の計画を許せないでいることは分かっていた。
だから、オケヨトを襲撃計画の会議から外していたのだが、やはり、どこかで聞いていたのだとエメは思った。
「…それでは、エメ被告は、計画的にムー女王を殺害しようとしたのだね?」
「は、はい…。そ、そうだと…お、思います。」
淡々と聞きながら、エメはオケヨトになら裁かれても良いと考えていた。
(お前なら…、君なら…。俺を、私を止められる…。君の純粋さなら…。)
オケヨトは何度もエメを見ては目をそらし、その度に声に詰まっていた。
(気にすることはなんだぜ…。)
親友を裏切っている罪悪感にオケヨトは今にも押しつぶされそうだった。
エメはそれを、身近なところにいたからこそ、分かっていた。
オケヨトの発言が終わると、裁判官は、
「エメ被告…、エメ被告…?聞いているかね?エメ被告。」
はっとエメは我に返り、
「…はい、オケヨトさんに言ったとおりです。」
と、オケヨトの証言をあっさりと認めてしまった。
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"おいおい。"
"勇者、罪を認めるな。"
"ほら見ろ、ただの悪党だった。"
"俺達を守るんじゃなかったのか。"
"誰が俺達を助けてくれるんだ。"
"こんな破壊者は死刑にしろ。"
"俺達はこんな奴を応援していたのか。"
"死刑、死刑、死刑。"
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それには検察よりも、オケヨト自身が驚いてしまった。
「…エメ、ごめん…、ごめんよ…。エメ…、僕は君を裏切った…。大事な君を…。うぅぅ…。ヒック…。」
「ば~か、泣くなよ、親友…。お前は正しい。そうさ、お前はいつだって正しかった。
お前だけが俺を裁けるんだ。」
「エメ…。」
オケヨトはそう言うと、法廷から姿を消した。
孤児院では、ナレミの部屋で力を失って倒れ込んだオケヨトがいた。
「ごめんよ…、ごめんよ…。エメ…、ごめんよ…。
僕は…、僕は…、本当に正しいことをしたのか…?
友を裏切って、友を差し出して…、本当に正しいことをしたのか…?
ラ・ムー様、あぁ、ラ・ムー様、お答え下さい。私は正しいことをしたのでしょうか…。
お答え下さい、どうか、どうか…。
だけど、君は…、君は…、僕を最後に親友と呼んでくれた…。
どうしてなんだ…、どうしてなんだ…。
あぁ、あぁ、あぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その部屋は、小さな信者の迷いと苦しみをこだまさせた。
「オケヨト君…。」
その姿を扉の隙間から見ていたミミは、オケヨトの姿に耐えきれず、彼を抱きしめた。
「ミミ、ミミさん…、僕は友を、友達を裏切った…。裏切ってしまったんです…。僕は…酷い人間だ…。」
「オケヨト君…、君は正しいわ…。正しいの。」
「あぁぁぁぁぁぁ…。あぁぁぁぁぁぁっ!!!ウワァァァァ~~~。」
オケヨトはミミの胸の中で涙が涸れるまで泣き続けた。
法廷は、エメが自分の罪を認めたことによって、長引くことも無く閉廷し、エメと警備室を襲撃した部隊を含む、部下達、全員の死刑が決定した。
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