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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
その発展は誰がためか
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社会の膿

結局、孤児院に配置されたように、ロネントの開発と配置は継続して行われていって、それに伴って大陸中の人々が仕事を失っていった。


我々の時代でもロボットによる工業は発展しているが、この時代も自動運転の車を作る工場などでは、ロネントの腕などが優秀なAIによって動作していた。

このような巨大な工場ではロネント配備は影響しなかったが、このような工場に納品するための小さな部品を作っているような下請けの町工場は、多大な影響を受けた。

エメ達のような孤児院の子ども達が、町工場で仕事を失ったのは、前述したとおりだ。


ロネントは、太陽から注がれる霊エネルギーで故障するまで半永久的に動作する。

様々な現場で仕事を覚えたAIはムーの神殿にフィードバックされ、次のロネントに継承される。

この連鎖によってロネントのAIは、人間の思考速度を超えた知性を持ち、その知性は人間よりも正確に身体を動かし、様々な仕事に活かされた。

半永久的に動く、正確無比なアンドロイドに人間がかなうはずもなく、エメ達の言葉を使うのなら、"人間から仕事を奪っていった"という事になるだろう。


ロネント達は、工場での作業の他にも、事務系の仕事や、銀行の窓口業務、小売業の販売員、運搬業のような仕事なども奪い始め、それに伴って人々は収入源を失い、路頭に迷うことになった。

やがて職を失った人々は、町にたむろしてスラム街を形成し始めたり、各々好きな享楽に興じたりするようになった。

また、皮ふ構造が人間とほぼ同じロネントも出始め、娼婦の代わりに用いられ、性欲の相手となったり、ロネントと人間の区別が付かなくなった者の中には、ロネントを恋人のように思い始める者まで現れたりして、社会的な問題となっていった。


このシンギュラリティ(技術的特異点)は、このようにして、ムー文明における社会構造を破壊していくのだが、形骸化した神官組織は、社会構造を再生させるための新しい価値基準すら示せず、かといって何か対策を取るわけでもなく、何もできずにいた。


そんな中、生まれたのがエメ商会だった。

始めは石油とロケットストーブによって、売上を伸ばした会社だったが、エメ商会がロネントを使わない方針だった事もあり、仕事を求める人達が殺到し始めた。

エメは彼らのために仕事を分け与えていったが、掘削できる原油も限度があるため、余った人々を集めて裏組織を作り、今で言う暴力団のような事も始めるようになった。


エメのところに集まった人々が感じていたのは、生きていても仕方が無いという絶望だった。


「社会が悪い。」

「俺達は悪くない。」

「こんな腐った社会は、要らない。」

「生きていても仕方が無い。」

「俺達の居場所はない。」

「何もかも上手くいかない。」


こんな彷徨う心の声がエメには聞こえていた。

この声は、やがてエメの中にある"闇"を動かした。

それは、女悪魔だった頃の殺戮に快楽を覚えた闇だった。


そして、半年前にエメはある結論に至った。


「俺は、社会改革を行わない神官組織を破壊することにした。」


エメ商会裏組織の会議でエメが発したこの言葉は、静かで、そして、淡々とした口調だったが、社員達を興奮させた。


「神殿の警備機能を麻痺させたのち、女王を人質にする。

新年で浮かれた人々の中に俺達の仲間を配置しろ。

こいつらに合図した後、一斉に神殿を乗っ取るっ!」


これがエメの計画した神官組織の破壊、つまり、クーデターだった。


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