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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
その発展は誰がためか
193/573

前夜

孤児院では、週に一度行われる経営会議とは別にオケヨトを抜かした会議が開かれるようになっていた。


エメが作り上げた組織は、石油とロケットストーブを売る表の組織と、裏の組織の二つが存在していた。


その裏の組織は、神官組織の調査と、各地でロネントによって仕事を奪われた者の勧誘、そして、表組織の同業者が現れたときの鎮圧などを行っていた。

これら裏組織への伝達は、ツナクを使わず、口伝達というアナログな方法をとった。

ツナクを使うと神官組織に情報が漏れてしまうためだった。


さらに、この裏組織は、表の組織で得た資金を使って、アトランティス文明から武器の調達を行っていた。

当時のアトランティス大陸に芽生えた文化は、簡単に言ってしまえば野蛮的な争いを好む文化だった。

作者は、これを文化と言って良いのか分からない。

文化とは宗教から始まっていくが、その宗教が成り立つ前の弱肉強食の文化がアトランティス文化だった。


いわばムー文明の欲望はアトランティス大陸に吹き出しているような状態だった。

この欲望は、我々の時代に存在するような拳銃のような銃器を生み出し、これも我々の言葉だが、近接する当時のヨーロッパ大陸を貪るように植民地化していた。


裏会議が終わりの時間に近づいた頃、エメは、


「決行は年始のムーにする。神官組織が油断している時を狙う。」


と静かに、だが、決意のこもった声でこの場にいる表と裏のリーダー達に"その決行日"を伝えた。


リーダー達は、エメの決行という言葉に身震いし、遂にこの日が来たのだと思った。


"決行日"とは、つまり、ムーの神殿を奇襲する日の事だった。

表の組織も、裏の組織もその日のために準備を進めて来た。

会議にいた者は、互いを見つめ、決意を新たにして互いの手を自然に取った。


-----


会議が終わり、真剣な面持ちのリーダー達が分かれる途中、エメはタキンに声をかけた。


「…タキン、良いのか?」


エメはタキンに父親が現れたのを気にしていた。

孤児院の子ども達は、そのほとんどが両親に出会うことはない。

そんな子ども達の中で、タキンには父親と名乗る人間が現れたのだ。

これから命を駆ける戦いに挑むのに、このまま連れて行って良いのか、エメは迷ったのだった。


だが、タキンは、


「なんだよ、今更っ!

俺はお前について行くって決めたんだぜ。俺を育ててくれたのは、孤児院だ。

ロネントへの恨みを晴らしてくれるは、お前しかいないしなっ!」


と自分への父親に対して微塵も未練が無いと言った。


「そうか…、それなら良いんだ。」


「それに…。」


「…?」


「俺達みたいな死んでも誰も気にしない奴らの方が革命を起こしやすいんだ。」


「……。」


「後腐れ無いしなっ!思いっ切りやってやろうぜっ!

俺はこんな腐れ切った文明を終わりにしたいんだ。」


「そうだなっ!」


エメも、タキンの言った後腐れ無いという言葉に同意した。

親も子も無い孤児院の子どもだからこそ思い切って革命に望めるのだ。

そう思うと、自然と気合いが入った。

エメはタキンを気遣ったが、逆に励まされた気がした。


この会話を聞いていた一員も、


「やろうぜ、エメッ!」

「この日のために準備してきたんだ。」

「そうだっ!俺達の時代を作るんだっ!」

「俺達ならやれるっ!そうだろ?エメッ!」


若者らしく皆が興奮していた。


エメも巨大な悪に立ち向かう気分で高揚していた。


(女悪魔だった頃は一人でもがいていたが、今は一人じゃ無いわ…。

こいつらとならやれるっ!!)


その思いは悪か善か、自分では分からなかった。

オケヨトは自分を悪だと言うだろう。

だが、沸き上がる気持ちは止められなかった。


(オケヨト、今度こそ見てろっ!この世界を変えてみせるっ!)


それは女性としての意識では無かった。

野望ある男性の意識だった。


[エメ商会裏組織図]

社長:エメ、副社長:タキン

├調査部:サチ

├勧誘部:インビ

├鎮圧部:サフ

├調達部:クレメ

└総務・経理部:クウチ


2019/04/02

後書きに裏組織図を追加しました。

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