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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
その発展は誰がためか
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失ったつながり

エメとオケヨトが昼食を取っている時だった。

タキンの部下だった孤児院の年長組だったトイがエメに連絡があった。


「エメ、大変だっ!タキンの奴がっ!従業員を殺そうとしているっ!」


「な、なんだって?!」

「えっ!そ、そんな、あり得ないよっ!」


エメとオケヨトは、トイに連れられて作業現場にやってきた。


「ふ、ふざけるなっ!!今更、何を言っているんだっ!!」


タキンが怒りをあらわにして40代ぐらいの従業員を今にも殴りかかりそうにしていた。


「お、おいっ!タキンッ!やめろってっ!どうしたんだよっ!!」


エメはタキンを止めようと身体を掴んだ。

だがタキンも身体を必死に動かして抵抗している。


「タキン、ど、どうしたんだい?」


オケヨトはタキンに優しく話しかけると、少し落ち着きを取り戻した。

他の従業員達も何があったのかと、こちらを見つめていて、当の従業員は膝をついて、申し訳なさそうにしていた。


「…わ、私は…。」


その姿を見て、エメはこの従業員が何か大きなミスをしたのだと理解した。


「こいつが何か失敗でもしたのか?」


「…違う…。」


「じゃあ、どうしたんだよ。」


「……。」


「…お、おい?」


何も話さなくなったタキンを見かねたオケヨトは、


「と、取りあえず、事務所に行こう。そこで話を聞かせて?」


と提案し、一同は孤児院の一室にある事務所に移動した。


エメとオケヨトはタキンと従業員を椅子に座らせて、


「で?何があったんだって。だけど、何かやらかしたにしては、大げさだぜ?」


と、早速、何があったのか説明を求めた。


「……。」


だが、タキンは相変わらず何も話さない。

すると、中年の従業員が先に口を開いた。


「じ、実は…、実は…、か、彼は…、タキン…さんは…私の息子なのです…。」


「はぁ!?」

「えっ!!」


エメとオケヨトは、従業員がタキンの父親と名乗ったので驚愕した。


「タキン、そうなの?」


オケヨトがタキンに聞くと、


「知るかよ、俺は小さい頃にここに連れられてきたんだ…。」


と言って、そっぽを向いた。


「た、確かに私の息子です…。彼の右肩にあるアザは赤ん坊の頃からあるのです…。

まさかと思っていましたが、顔つきも私の亡き妻に似ていますし…。」


「…こんな事って…。

で、でも個人情報は、登録しているんですよね?

遺伝子とツナクで親子かどうかはすぐに分かるはず…。」


オケヨトはどうして今まで親子だと気づかなかったのだろうかと思った。


「遺伝情報は、ムー文明では神殿で管理されているです。

ムーの住人なら必ず登録されているはず。」


「わ、私はオーウィからやって来たのです…。」


「…い、移民ということですか…。だから、遺伝子情報を登録されていなかったのですね…。」


「はい、オーウィは、こちらほど豊かではありませんから妻と仕事を探しに…。

ですが、仕事も見つからず、妻は病気で亡くなり、子どもを育てることができず…。」


「だから、タキンをこちらに…。」


「はい…。せ、正確には、神殿近くで…、この子を…。」


タキンは、父親の言葉をそこまで聞くと、急に立ち上がって、


「置き去りにしたっていうのかっ!!

ふっ、ふざけるなっ!!

金が無くなったのが、俺を捨てた言い訳にならないだろっ!!」


自分の父親をにらみつけ、また殴りそうになっていた。

だが、その目には涙が溜まっているのに、オケヨトは気づいた。


「タ、タキン…。君の気持ちは分かるけど…。」


「オケヨトッ!俺はこいつを殴らないと気が済まないっ!」


「だ、だけど…、君の父親なんだよ?」


すると、中年男性は、


「オケヨト様…、良いのですっ!殴って欲しい…。タキン…さん…。

どうあれ、私はあなたを捨てたんです…。」


とタキンをオケヨトとタキンを見つめ、小さく丸まって泣き叫びながら続けた。


「あ、あなたを…、あなたを捨ててしまったのは、私です…。ひどい親なのです…。

私は…、私は…、うぅぅ…。今更、親を名乗ってもと思いましたが…。

あなたの顔見ていると、妻の顔も思い出してしまい…。

どうしても、どうしても…。」


「ちっ、ちくしょうっ!」


「タキンッ!駄目だよっ!!」


オケヨトが止めるまでも無く、タキンの拳は悔しさの涙と共に空中で止まっていた。


「どうして…、捨てた…。俺を…。どうして…、どうして…。」


そう言うと、膝を崩して大粒の涙を流した。


「くそうっ!くそうっ!」


オケヨトはタキンの肩に手を当てて慰めた。

すると、エメは、


「タキン…、どうするんだ…?

お前の親が見つかったんだ。

ここにいなくても良いんだぜ…?」


「エメッ!お、お前まで俺を捨てるのかっ!」


「違う…。俺達は親がいなくなったり、捨てられたからここにいる。

その前提が無くなったんだ…。お前の好きにして良いってことだ…。」


「俺は…。

俺は、ここ(孤児院)の子どもだ…。今更…親子になれって?

俺にはタ・ナレミっていう母親がいて、孤児院の仲間が家族なんだよっ!!」


「……。」

「タキン…。」


タキンの思いが、エメとオケヨトにも伝わった。


「エメッ、お前は生意気な奴だと思ってたけど、今では感謝しているんだ。

これからも俺を使ってくれよっ!なっ?」


「そんなの…、当たり前だろ…。お前がいて俺だって助かってる。」


「エメッ!ありがとうっ!」


「だが、お前の父親っていう、こいつはどうするんだ…。」


エメは縮こまっているタキンの父親を見ながら言った。


「仕事が無いんだろうから、できれば会社に置いて欲しい…。」


「良いのか?」


「あぁ、俺にとっては赤の他人だが、ロネントに仕事を奪われたってのは同じだからな。」


「分かった…。だが、部署は変えよう。お前の下だとやりにくいだろ?」


「すまない。そうしてくれると助かる…。」


タキンの父親は、エメを見つめると


「しゃ、社長…、あ、ありがとうございますっ!感謝いたしますっ!

タ、タキン…さん…、あなたにも感謝します…。

あ、あの…、い、いえ…、私は何も言えない…。あなたを息子とも呼べない…。

それは、分かっています…。

た、ただ、これを…、これだけを受け取ってもらえませんか…?」


と言って、この時代には珍しい、一枚の写真をタキンに渡した。

そこには、男性と女性が写っていて、女性は子どもを抱えていた。

タキンはすぐにこれが最後の家族写真だとすぐに分かったが、


「こ、こんなものっ!」


と捨てそうになった。

だが、その母親は笑顔で子どもを見つめていた。

父親も妻と子どもを優しく見つめていた。


「…あぁ。」


タキンは母親の顔を見て、自分への思いを知った。

この気弱な父親も自分の事を思っていてくれたのだと知った。

経済的な事情が、家族をバラバラにしてしまったのだと知った。


そう思うと、涙が流れそうになったが、強く目をつぶると、写真を手に取ったまま、黙ったまま部屋を後にした。


「タキン…。」


オケヨトは自分にも両親が現れたらどう思うのだろうかと思った。


(僕も父親と、母親と、呼べるんだろうか…。)


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