発展か、欲望か
エメの精製した燃える水、オロヘネアは、オケヨトの言った通り、ムー大陸ではニーズは無かった。
だが、しばらくすると、この時代の二大文明であるアトランティスからの注文が殺到し始めた。
アトランティス大陸は、氷河期に形成された巨大な氷が大陸の北部から見ることも出来るぐらい寒い地域だった。
冬は現在よりも日光の指す時間が少なかったため、ムーで使われているようなウルムも使えず、木々を燃やして生活していた。
よって、燃える水は誰もが欲しがる燃料だった。
エメはさらに石河來帆だった頃に、避難所の外で見かけた簡易に作れて、とても暖かくなるロケットストーブを"ストーブ"をそのままナーカル語を当ててストウフと名付けて、売り始めた。
オロヘネアとストウフの組み合わせは、その暖かさとコストの安さから画期的な商品となり、アトランティス文明の人の間で口コミとして瞬く間に広がっていき、売上も爆発的に上がっていった。
アトランティス大陸はムー大陸から現在で言うところの太平洋、さらに、アメリカ大陸を超えたヨーロッパに近い場所にあって、ムー大陸の輸送システムを使っても、数日は掛かった。
それでも生産が追いつかないぐらい注文が殺到し、原油の掘削とオロヘネアの精製、ロケットストーブの制作を全て孤児院で行っていて、子ども達では手が足りなくなり始めた。
エメは自分のツナクに表示された売上情報を見て、大声を上げて笑った。
「あはははははははっ!!!こりゃ、間に合わないっ!商品の開発が間に合わないっ!!
お父さん達が商売に打ち込んだ理由が分かったわっ!ヒヒヒッ!!!」
そんなエメを見つめて、オケヨトはエメの言った父親の商売という言葉が気になった。
「お、お父さん…?漁業をやっていたんだよね…?」
「漁業…?あぁ、そうか。あはははははははっ!!!間違えたっ!あははははっ!」
むろん、エメが言った父親とは、來帆だった頃の父親のことだった。
彼女の父親は、何も無い地方だった太田町で、政治家に通じて電車を通し、街の開発にも取り組んだ事業家だった。
彼のお陰で池上の通った大学も作られた。
そんな父親の後ろ姿を見て育った來帆は、いつの間にかリーダーとしての知識を身につけ、事業の運営方法についても身につけていた。
「で、でも、もう良いんじゃない…?お金も沢山入ったし。」
十分集まったお金で孤児院の食事に困らなくなっていたので、オケヨトは、もうお金稼ぎは要らないと思っていた。
だが、エメは、
「何を言っているんだっ!これからだってっ!!」
とその欲望をむき出しにした。
「だ、だけど、オロヘネアの精製だって、ストウフの制作だって間に合わないし…。」
「そう、そうなんだ、そこが問題なんだ…。」
エメは少し顎を指で押さえて考えを巡らすと、
「そうかっ!!そうかっ!仕事を無くした奴らを雇うかっ!我ながら良い考えだっ!」
「えっ、ロネントのせいで…?」
「そうそう、俺達もロネントのせいで仕事を奪われたけど、同じような奴らも沢山いるって話だったろ?」
「うん…。」
「何もしていないなんて勿体ないってっ!俺達が仕事を与えてやるんだっ!」
「そ、それは良いこと…だね…。」
「そうだろ?俺は良いことをするんだっ!!」
「……。」
「ひゃぁっ!
原油を掘削する機械も買って、井戸を掘りまくらないといけないしっ!
精製装置も本格的な奴にしないといけないしっ!
ストウフももっと作らないといけないしっ!!
忙しくなるぜ~~~っ!
な、オケヨトッ!!
あはははははははっ!!!」
「……。」
「あっという間に俺達は金持ちだ~~~~っ!!!」
エメは両手を上に上げて喜んだ。
だが、オケヨトは、何故か不安を覚えた。
「…エメ…。」
「うん?どした?」
「い、いや、何でも無いよ…。」
オケヨトは自分が思っていることが正解かどうか、確信が持てなかった。
「変な奴だなっ!貧乏から脱出するんだ、お前も喜べってっ!!」
「そ、そうだね…。」
オケヨトはとどまることの無いエメの欲望が正しいのかどうか判断ができないのだった。
そして、
(ラ・ムー様…、タ・ナレミ…、どうか私たちを正しくお導き下さい…。)
そう祈る事しかできなかった。




