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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
その発展は誰がためか
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それは燃ゆる水

子ども達が見つけた黒い水は、我々の時代のガソリン、軽油の精製元になっている、所謂、"原油"だった。


エメは黒い水を孤児院の庭に持って来て火を近づけてみた。


「おぉっ!火がついたっ!やっぱりそうだっ!やったぜっ!」


「えっ、えっ、えっ!なんで水が燃えるんだい…?」


オケヨトや、子ども達は、揃って首をかしげ、目の前で起こった事が信じられなかった。

エメは仲間達の方を見ると、燃える水について説明した。


「お前たちは初めて見るのかもしれないな。これは原油ってやつだ。」


「ケンユ?なんだいそれは…。」


「大地の下に眠ってる神秘の水ってところかな。」


「こんなものどうして沸いていたんだろう…。」


「普通はもっと地層の深いところにあるんだけど、こんな風に湧き出すこともあるらしい。

掘削すればもっと取れるかもしれない。」


ムー大陸の乗っている巨大な大陸プレートの地底には、巨大なマグマが存在していた。

その上部には、マグマ上澄みである"原油"、さらに、原油から発生するガスの吹きだまりである"ガスチェンバー"が入り交じって存在していた。

その溢れる原油の一部が、地殻の隙間をぬって、孤児院の近くから湧き出ていたのだった。


「はぁ、エメは、よく知ってるね…。どこかで見たことがあるの?」


「社会見学で精製工場を…、じゃない…、たまたま昔見た本で、し、知っているの…、知っていたんだ…。」


「そ、そうなのか…。」


オケヨトは、漁業区で生まれたエメがこんな事を知っているはず無いと思った。

だが、すぐにナレミが亡くなる直前にエメと話していた内容を思い出した。


(あぁ、そうか…、エメはここに来る前の世界で、この水のことを知っていたんだ…。)


だが、それ以上は問わないで、


「…こ、これで冬も温かく過ごせるねっ!」


誤魔化すように話を続けた。


「おいおい、これを孤児院で使うと思っているのか?」


「ち、違うのかい?」


オケヨトは、原油の用途は孤児院だと思っていたので驚いてしまった。


「違うってっ!これを売るんだってっ!」


エメは、目がキラリと光らせると喜びに満ちた声で回答した。


「えぇ、これを…売るの?」


「そうさ、だけど、もう少し精製しないとな。

今はこんな小さな火だけど、精製すればもっと燃えるはずっ!」


エメは原油の上で小さく燃えている火を見ながら言った。


「精製…?」


「こいつを熱で蒸発させて分離させるんだ。」


「分離?」


「そうそうっ!不純物も多いから、綺麗にしてやるんだ。」


オケヨトは根本的な疑念を持っていた。


「だ、だけど、ウルムがあるのに売れるのかい?」


オケヨトが疑念を持ったように、すでにムー文明にはエネルギーを生み出す装置が存在していた。


ムー文明は太陽から照射されている霊的なエネルギーを物質化して利用している。

各建物にあるピラミッド型の"ウルム"と呼ばれる装置がそれだった。


これは、とても安い値段で買うことの出来るエネルギー発生装置だった。

つまり、各家庭で使える超小型の発電装置だった。

この装置で部屋の明かりや、ツナクを使うためのエネルギー装置など、我々が使っている電気のように、この文明では使われていた。


なお、このウルムは、ラ・ムーが太陽神であることから着想して作った発明品である。

溢れる太陽の光が様々な生命の源になっているところから、そのエネルギーを採取する方法が、ラ・ムーの12神官の一人であるラ・ナクロを中心に行われ、彼の半生を費やして発明された。

ピラミッド型の装置に集まった太陽から発生される霊エネルギーは、物質化されて利用された。

この形は、現在でもピラミッドとして、エジプトや、中南米や、日本など、各地に模造されて存在している。


「大丈夫さ、売る場所もある程度目処がついている。」


「そうなんだ…。

だ、だけど、火がつくから扱い方を気をつけないと…。

これって、危険なものだよね…?

僕は、この黒い水が怖いよ…。」


「オケヨト、お前は心配しすぎだって。う~ん、そうか…。」


そう言うと、エメは子ども達の方を振り返って、


「お前たち、絶対にこれが湧いている場所に近づくなよっ!

年長者は、あの場所にちっこいのを近づけるな。」


「うん、分かったよ、エメ。」


年長者の一人がエメの指示に返事をした。


「俺も離れた場所で研究する。

俺の近くにもちっこいのを近づけるなよ。

火も絶対に近づけるな。

この辺一帯が丸焼けになっちまうからな。」


と小さい子が近づかないように指示すると、


「うわぁ、こわいよぉ。」

「丸焼けやだぁ~。」

「もう、あそこに行かないぃ~っ!」


一斉に子ども達は怖がった。


「そうそう、それで良いんだ。近づかなければ大丈夫だ。」


エメは怖がる子ども達の頭を撫でてあげた。


その後、一か月程度でエメは原油を精製する装置を作って、ガソリンを分けることに成功した。


「これが限界かな…。本当はもっと分離できるはずなんだけど…。

石油も取れるはずなんだけどなぁ…。

飛んで行ってしまうガスももったいないなぁ…。集められれば天然ガスとして使えるんだが…。」


エメが作った簡単な蒸留装置では、採取できるのは、30度~180度の間で取得できるガソリンが限界だった。

本来なら、温度を上げることで灯油、軽油など分けることも出来た。

この過程でガスが発生するが、それは集めようも無く、空中に放出するだけだった。

残りの塊は、アスファルトとして、花壇の周りを固めたり、孤児院を補強したりした。


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