屈辱の登校日
四階生の教室を覗くと、生徒は半分しかいなかった。
(人少ないね)
(あぁ、わざわざ学校に来る必要も無いしな)
(えっ!?あ、そうか。家で授業を聞いているんだ……)
(そうそう。お前らの時代は違うのか)
廊下から教室を除いていると、向こう側から誰か近づいてきた。
<あぁっ!ロウア君っ!!!海で溺れたと聞いたんだ。心配したよっ!!!!>
「は、波多野さんっ!(じゃない……)」
そう、この顔に見覚えがあった。
まさに、池上の時に世話になった警察官の波多野だった。
「はたの……?」
<先生、気にしないで下さい。海で溺れてから少し変なんです>
<そ、そうか……。大変だったな……>
(はたのって誰かしらないが、こいつは担任だぜ?)
「こ、こ、こんにちは」
ロウアは、よく分からず挨拶して一礼だけした。
<元気で良かった……。だけど、その右手……>
「じこで、きえた」
<消えた?事故で失ってしまったのか……>
<はい、海で溺れた時に怪我をしてしまいました。だけど、治療中だから治ると思います>
シアムが補足してくれた。
<そうか、夏休み中に直ると良いが。再生治療はとても痛いと聞くよ……。ロウア君、頑張れよっ!>
「はい。あり・がとう。(この優しい兄貴のような接し方……、まさに波多野さんだ……)」
ロウアは過去世の波多野に出会い、少し嬉しく感じた。
(ハタノ?誰だ、それ?あいつは、キルクモっていう名前の先生だぜ?)
(僕は未来で彼を……、いや、後で話すよ)
(……?)
<来週は、登校日だから、少しは直っているかな。今日はどうしたんだい?>
<ロウア君が、色々忘れてしまっているから、学校を案内して思い出してもらおうとしています>
<うん?忘れて……?>
<はい、記憶喪失になってしまって……>
<そうか……。災難が続いているな……。
まあ、見学ならいくらでもして良いから。
早く思い出せると良いなっ!>
「はい」
(う~ん、だけど不安だなあ……)
(まぁ、俺もいるからさ)
(ありがと)
キルクモは、挨拶すると、立ち去って行った。
<アルちゃん、話さなかったけど、どうしたの……?>
<えっ?あっ、その……>
<そうか。キルクモ先生のこと好きなんだっけ>
<やだやだやだ~~~っ!!!シアムっ!何話してるのっ!!!バカッ!!>
<ごめん……。話しちゃった>
<話しちゃったじゃないよ~~っ!!!>
どうやら、アルは、あの担任が好きみたいだった。
それをあっさりとシアムがバラしてしまう。
「ぷっ!あははっ!!」
ロウアは思わず笑ってしまった。
アルとシアムはそれを見て、きょとんとしてしまった。
<もう……。ロウアが笑ってるじゃん……>
<でもでも、ロウア君の笑顔を久々に見たかもっ!>
それを聞いてロウアも自分が久々に笑ったと思った。
<色々あって緊張していたんだよね>
そしてロウアは肩の力が抜けた気がした。
(前はいつ笑ったんだろう……。
覚えていないや……。
少し僕も緊張していたのかな……)
この首都ラ・ムーにあるラ・ムー学校は、広く広大で、廊下も僕が知っているものの数倍はあったが、教室も広かった。
大学の講堂に近い広さであって、扇状で階段になっている。
(こんなに広くて、黒板は見えないのでは……)
(心配すること無いぜ?机の上に、先生が書いた内容が見えるからな)
(そうなんだ。それなら、学校に来ない人は、家で同じように見えるって事だね)
(察しが良いな。お前たちの時代はどうか知らないが、勉強は大変だぜ?)
(う、う~ん……)
この後三人は図書館に移動した。
(図書館は思ったほど広くないなぁ。
そうか、みんなデータ化されているんだ)
三人は受付で小さな部屋を借りて、ロウアのナーガル語勉強会が開かれた。
<うんとさ、来週はロウアの登校日でしょ?>
<そうだね>
<それまでに何とかしないと不味くない?>
<うん……。すこし急がないと同じ教室の人とお話も出来ないよ……>
<ロウア、分かってるの?>
ロウアは苦笑いするしか無い。
<さっ、頑張って勉強、勉強っ!>
<ふふ、アルちゃん、自分の勉強は頑張らないのにっ!>
<汗っ!>
来週がロウアの登校日と分かったこともあり、翌日からはアルとシアムから勉強会の時間も延長されてた。
ロウアも予習、復習を繰り返して勉強した。
そして、その登校日……。
「えっ?しけん?」
ロウアの記憶喪失の話は学校側に連絡されていて、登校日で授業を受ける事もなく、学力試験を受けることになる。
これは言わば、抜き打ち試験だった。
一人、別の教室に移動させられて、広い教室に一人でぽつんと試験を受けた。
「ロウア君、すまないね……。上からの命令なんだよ……」
担任だったキルクモは、ロウアに申し訳なさそうに話した。
「キルクモせん・せい、だいじょうぶ」
ロウアはどんな科目があるのかも分からず試験を受ける。
試験が終わるとロウアはぐったりとした。
(国語、数学、科学、社会、最後は宗教だったかな……、外国語は無くて良かったけど……)
(あぁ、酷い……、酷いぜ……。絶望的だな、こりゃ……)
魂のロウアが言わなくても、ロウア自身が全く回答できなかったのだけは分かった。
問題を読み取るのさえ難しいのに、回答など出来るわけが無かった。
まして、知らない知識を問われては答えようも無い。
翌日、現実がロウアにつきつきられた。
「ショックだ……」
その結果を家で受けるとロウアはショックを受けた。
ロウアの学力は、全ての科目で成績が極端に悪かったので一階生となってしまった。
魂のロウアは酷く怒っていた。
(……笑っちゃうしか無いぜっ!
後期が大変だな。同級生からバカにされるぜ……)
(……すまない。
しかも、一年で何とかしないと退学らしいね……)
絶望した気持ちのまま、ロウアは後期を迎えることになる。
キ 流れる神の光を
ル 周りに広げ、
ク さらに循環させて
モ 受け止めてまとめる存在
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2022/10/08 文体の訂正




