置き土産
ミミは、「や」曜日に来ると言ったが、結局、孤児院には現れなかった。
エメやオケヨトは、不思議に思って思ってツナクでメッセージを送ったが、それに応答も無く、二人を不安にさせた。
だが、翌日、ミミは、もうすぐ日が暮れるかという時間に現れた。
「あぁ、こんにちはっ!タ・ミミ、昨日はどうされたんですか?みんな心配しましたよ。」
オケヨトは孤児院を代表して挨拶をしたが、車を降りたミミは、下を向いたまま震えているだけだった。
「……。」
「…どうしたんだ?連絡も無いから心配したんだぜ?」
挙動のおかしいミミを見かねて、エメも声をかけた。
「…エメ君、オケヨト君、昨日はごめんなさい…。」
「は、はい…。タ・ミミが無事だったので良かったです…。」
オケヨトは優しく返事をしてあげた。
「ま、良いけどさ。で、ここ(孤児院)の神官はいつ来るんだよっ。」
「エメッ!今、そんな話しても仕方ないだろ。」
「ちっ!こっちは心配したんだから少しぐらい言っても良いだろっ!」
「…ごめ、…ごめんなさい。
エメ君の…言ったことも…道理だわ…。
…あぁ、言えない…、私からは言えない…。うっ、うぅぅ…。」
ミミは急に頭を下げて謝り、両手を顔に当てて泣き出したので、エメ達はどうして良いのか分からなくなってしまった。
「な、何だよ…、どうしたんだよ…。」
「…ウッ、ウッ、あぁ…、ヒック、ヒック…。」
ミミは、嗚咽を繰り返すだけだった。
身体も震え続けるミミを心配して、オケヨトは、
「タ・ミミ、どうされたのですか…?」
と声をかけたが、場の空気に合わない声が、ミミの乗ってきた車の方から聞こえて来た。
「コンニチハッ!」
エメとオケヨトは、声の方を振り返って、何かが立っているのに気づいた。
「キョウカラ、ワタシガ、ミンナノメンドウヲ 見るよ。」
「お、おい、こいつは何なんだ?」
エメは壊れかけの声で挨拶するロネントが、ナレミと同じ神官の服を着ているので嫌な予感がした。
「……。」
ミミは顔を覆ったまま、膝を落とすと酷く震えた。
「お、おいっ!タ・ミミッ!こいつは、何なんだってっ!!」
「こ、こ…、これ…が、あ、あ、あ、新しい…、」
ミミは震えた声で何かを説明しようとしていた。
オケヨトも普通じゃ無いミミを心配した。
「タ・ミミ…?」
「あ、あ、あ、新しい…、し、し、し…、しんか…ん…なの…。」
「はっ?!」
「えっ?!」
エメとオケヨトは耳を疑った。
「コンニチハッ!ワタシガ新しいシンカンだヨっ!!ヨロシクッ!」
「ふ、ふざけ…、ふざけるなっ!!」
エメは頭に血が上ってミミを罵倒した。
ミミは猫耳が倒れたまま震えているだけだった。
「…ごめ、ごめ、ごめんなさい…。
わた、私…、私…、こんな役目…嫌…嫌よ…、もう、嫌…。
い…や…。」
ミミは、そう言うと膝を崩して倒れて、そのまま気絶してしまった。
「なっ!ど、どうしたんだよ…。」
「タ・ミミッ!わっ、わっ、わっ…。」
エメとオケヨトは、ミミを急いでベットに連れて行って寝かせてあげた。
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しばらくすると、ミミはベットで意識を取り戻した。
オケヨトは水の入ったコップをミミに渡しながら、声をかけた。
「タ・ミミ、大丈夫ですか…?」
窓から見える庭では新しい神官であるロネントが子ども達と一緒に遊んでいた。
「あれが本当にタ・ナレミの代わりだって言うのかよ…。」
エメが嫌みを込めて言ったので、ミミはコップの水を口にすることも出来ず、
「…う…ん。」
とだけ言った。
「はぁ…、信じられないぜ…。人間の代わりに機械人間をよこすなんて…。」
「…ごめ…んな…さい。し…、神官が…不足…しているの…。」
「だから、あれ(ロネント)か…。仕事にあぶれた人が多いんじゃないのかよ…。」
「タ・ミミ、水をお飲み下さい…。」
オケヨトは、声が枯れてきてしまっているミミを心配して、水を進めた。
「う、うん…。ありがとう。」
ミミは水を飲みながら少し落ち着きを取り戻し始めた。
「エメ君の言うとおり、仕事を失った人は確かに多い…。
だけど、神官に…なるための…条件は…厳しすぎる…。
ほとんどの人が…、なれないのよ…。
仕事を途中で辞めてしまったような人は…資格すら無くて…。」
「はんっ!!お前たちのせいで仕事を失ったのにかよっ!!」
そう言われると、ミミは反論も出来ず、また身体を強ばらせた。
「エ、エメッ!」
オケヨトは、ミミを責めるエメに首を振った。
「あぁ、もうっ!!分かってるって…。だけど、あれは、さすがに無いだろ…?」
エメは呆れ顔で言ったので、ミミは更に恐縮して、
「…ご…、ごめん…、ごめんなさい…。私は力不足…。
わ、私が悪いの…。
ロネントが…ナレミの…代わりに…なれるわけが無いわ。
私だって…、そう思う…もの…。だけど、上からの命令…。
あぁ、タ・ナレミに顔向けできない…。」
いつの間にか正座になったミミは頭を抱えて前のめりになり、ベットに顔を埋めた。
「タ・ミミ、頭を上げて下さい。
タ・ミミが僕たちのことを思ってくれているのは分かっていますから…。
昨日も説明に来るのが嫌だったのですよね…。」
「オ、オケヨト君…。ありがとう…。ありがとう…。うぅぅ…。」
ミミは、オケヨトの優しさに両手を手に当てて泣くしか無かった。
エメは、行き場の無い怒りを抑えるのも面倒になり、あきれ顔でミミの後ろで遊んでいるロネントを見つめた。




