ラ・ムーへの帰還
ナレミの葬儀は孤児院のある町の中心部にある小さな教会で行われた。
教会は、ムーを意味する四角形が至る所で日の光を浴びて輝いていた。
教会にいる神官とは別に、葬儀の場合は首都の神殿から葬儀担当の神官がやって来る。
ナレミの知り合いだったという葬儀の神官は、沈痛な面持ちで故人の棺を見つめていた。
葬儀に参列する人々の服は私たちと同じように黒い服を着るのが一般的だったが、子ども達はそんな服を持っていなかったため、思い思いの暗めの服を出来るだけ着て葬儀場に集まった。
教会の裏にある葬儀場は、墓石のある平地の中心地の丘陵にあった。
膝ぐらいまでの低い石壁がコの字に積まれて、その中心地にナレミの棺が静かに横たわっていた。
その周りを故人に関係する人々が参列していた。
孤児院の子ども達の他にも、卒業した子ども達も故人にその成長した姿を見せた。
エメと喧嘩をしたタキンも涙を抑えながら参列していた。
慈愛部からもミミの他にトウミ、そして、ミミの上司も参列した。
質素な葬儀だったが、教会には人々が溢れ、故人を思う人々が、それぞれがナレミからもらったものを思い返していた。
ある者は、ナレミから優しい言葉を、
ある者は、ナレミからいたわりの言葉を、
ある者は、ナレミから励ましの言葉を、
時には厳しい叱りを受けることもあったが、それは自分達の事を思ってのことだと分かっていた。
思い出が深ければ深いほど、涙も激しく流れた。
葬儀部の神官は、天に帰るムーの民、ナレミのために最後の祈りを捧げた。
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「ラ・ムーへの帰還」
ムーの民は
あなたの元に生まれ
あなたの理想を広げ
あなたの元に還ります。
タ・ナレミは、
あなたの愛を伝え
あなたのことを思い
あなたのために尽くました
本日、心通わせた人々と共に
かの者をあなたもとにお還しします。
どうか安らぎの世界に かの者を導きたまえ。
どうかあなたの光の下へ かの者を導きたまえ。
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神官の祈りの言葉は空に溶けていくようだった。
「さぁ、最後の挨拶を…。」
葬儀の神官がそう言うと、子ども達は棺で眠るナレミに花を添え始めた。
最後に、ミミ、オケヨト、エメが花を添えた。
ムー文明では太陽神であるラ・ムーへ還る意味を込めて、棺桶を空高く飛ばす。
やがて宇宙近くまで飛んだ棺桶はそのまま大気圏へ落ちて燃え尽き、ラ・ムーの住む場所に帰還する。
子ども達は、はるか空に飛び立って行く棺桶を見えなくなるまで見つめ続け、別れを惜しんだ。
(ナレミ…、眠るって言ったのはそういう意味だったのですか…?
眠るなんて嘘ばっかり…、私に仕事を投げて逃げただけじゃないの…?
私に出来ること…。それは何なの…?
この子達を守ること…?
女悪魔の私が…?)
エメは、ナレミから大きな課題を与えられたような気がした。
そう思えば思うほど、感情が抑えきれなくなった。
「タ・ナレミィィィィ~~~ッ!
教えて下さいっ!私はどうしたら良いのですかっ!!!!
私は…、どうしたら…。
うぅぅ…。うぅぅ…。」
エメの叫び声と共に子ども達は押さえていた涙が止まらなくなった。
膝を落とし泣く者、
嗚咽する者、
抱き合いながら大泣きする者、
小さな子どもをなだめながら泣く者、
その心はいつもナレミと共にあった。
ナレミの子ども達は一つになって故人を見送った。
オケヨトは叫んだ後、膝を落としていたエメの肩を抱くと、エメを見つめ大きく頷いた。
エメもそれに答えるように大きく頷いた。
二人は空を見つめ、子ども達を守れるような強さが欲しいと、ナレミに祈るのであった。




