幻の孤児院神官
ミミは、朝から自宅に自動運転の車を呼び寄せて、エメ達のいる孤児院に向かった。
(このお金があれば、タ・ナレミをお助けできるっ!)
空はどんよりと曇っていたが、ミミの心は晴れ渡っていた。
ナレミを医者に診せれば回復すると確信みたいなものがあったからだった。
すでに前日にエメにツナクで連絡してあった。
ミミは、ナレミの回復した姿を見て喜ぶ子ども達の顔を思い浮かべると嬉しくて仕方が無かった。
ミミが孤児院に到着して、車から降りると冷たい風がミミを襲い、その寒さに少し震えた。
孤児院はムー大陸の北部に位置していて、我々と同じように四季が訪れる。
今は丁度、初冬になりかけていた。
だが、子ども達は寒さも気にならないのか、皆、以前のように元気にミミを出迎えてくれた。
エメとオケヨトも子ども達の後ろから手を振っていた。
「おはようっ!おば…じゃない、ミミお姉ちゃんっ!」
「おばさんって、言っちゃ駄目だってオケヨトが言ってたぞっ!」
「おば…、えっと、おはよう…です。お姉ちゃんっ!」
ミミは自分への気遣いを教育されているのが、ありありと見えて頭を抱えてしまった。
オケヨトはそんなミミを見て、
「エメ~…。僕は余計なことをみんなに教えたのかも~…。」
「オケヨト…、おまえは悪くない…。悪くないぞ…。」
そんな会話をミミは聞いてか聞かずか、
「おはようっ!みんなっ!!私のことはおばさんでいいぞっ!」
とミミが子ども達に言った。
すると、子ども達は遠慮が無くなって、ミミに集まって足に抱きついたり、一生懸命話しかけたりした。
「わ~っ!おばさ~んっ!」
「ミミおばちゃ~んっ!」
「おば…、お姉ちゃんっ!」
(あはは…、めちゃくちゃだ…。でも、可愛いぞ~っ!)
ミミは、子ども達の相手をしながら、ふと孤児院の扉を見ると、ナレミも迎えに出て来ていることに気づいた。
「タ・ナレミッ!おはようございますっ!お、お身体は大丈夫なのですかっ?!」
ナレミは、ミミに優しい笑顔で応えたが、エメとオケヨト、それに子ども達は不思議な顔をした。
「タ・ナレミ?何を言っているんだ?
それより、ツナクに書いてあった良い話って何だよ。」
エメはミミを不思議そうな顔で見つめた。
「おはようございます。タ・ナレミですか?残念ですが、まだベットに…。」
オケヨトも同じように首をかしげていた。
「えっ?何を言ってるのそこにいるでしょ?あ…、あれ?」
さっきまで、扉でこちらを見て微笑んでいたナレミは、いつの間にか姿を消していた。
その瞬間、ミミは急に青ざめると、
「エメ君っ!オケヨト君っ!タ・ナレミのところにっ!!」
「どうしたんですか?タ・ミミ?」
オケヨトはミミの慌てぶりに何が起こったのかと思った。
「ま、まさかっ?!」
エメは何かを感じて、急いでナレミのところに向かった。
扉を開けると、ベットには静かに眠っているナレミがいた。
(さっきのタ・ナレミは…幻だったの…?)
ミミはいぶかしながら、ナレミのベットに近づき、恐る恐る名前を呼んでみた。
「タ・ナレミ、おはようございます…。
タ・ナレミ…?
タ・ナレ…ミ…。」
だが、返事はなかった。
ミミはナレミの心音を確認すると、その場に倒れ込んでしまった。
「あぁ、あぁ…、あぁぁぁ…。ま、間に合わなかった…。嘘よ…、嘘でしょ…。」
すでに、ナレミは天に召された後だった。
その顔は安心しきっていて、少し笑っているようにも見えた。
エメとオケヨト、それに子ども達もいつの間にかナレミを囲んでいた。
子ども達は、徐々に何が起こったのかを理解し始めると、その心のままに泣き始めた。
「うっ、うっ…。」
「うわぁ~ん…。」
「タ・ナレミがぁ~~~。」
オケヨトもナレミのベットに顔を埋めながら涙を流した。
「タ・ナレミ、どうして…。昨日はあんなに元気だったのに…。うぅぅ…。」
「嘘だろ…。な、何でそんな急に…逝っちまうんだ…。
昨日…、俺に話したのは…遺言だとでも…言うのかよ…。」




