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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
新しい家族、小さな祈り
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小さな愛

ミミはムーの首都にある神官達の神殿に出勤すると、慈愛部を統括する部長に孤児院の状況を説明した。

だが歯切れの悪い回答しか得られず、段々とイライラしはじめてしまう。


「ですからっ!孤児院の担当神官がご病気なのですっ!!」


「ミミ君、神官の一人が病気なだけだろう?自分で病院に行けば良いだけじゃ無いか…。」


「ですから、先ほども言いましたが、タ・ナレミは自分のお給料を孤児院のために使っていて、お金が無いんですっ!

だから、私たちの方で何とかして…」


ミミがそこまで話すと遮るように、部長のヘステは、


「それは何度も聞いたよ…。

自分のお金を別のものに使っていて、病院に行けないなら自業自得じゃないのか?」


「ひどいっ!!ひどいっ!!ひどすぎるっ!!

孤児院はお金が無くて困っている状況なんですっ!

私たち慈愛部が神官を助けなくて、どうやって生きていけというんですかっ!!!」


ミミが主張を引っ込めないので段々とヘステも言葉が強くなってきた。


「だが無いものは無いっ!我々だって決められた予算で運営しているんだっ!!

特定の孤児院だけ、しかも、一人の神官だけを助ける事なんて出来ないっ!!

それぐらい分かるだろっ!!」


と言いながら机を強く叩いた。


「分かりませんっ!全然、分かりませんっ!!

何が"慈愛部"ですかっ!!

何が愛を広める部署ですかっ!!

ラ・ムー様の愛なんてこれっぽっちも無いっ!!

もう良いですっ!!

私が実費で何とかしますからっ!!」


ミミはそう言い捨ててヘステの部屋を出ていった。


ヘステは、うんざりした顔で大きなため息をついた。


「ミミ君、分かっている…。分かっているんだ…。私だってどうにかしたい…。」


-----


ミミは自分の机に憤慨しながら戻るとトウミが様子を見に来てくれた。


「ミミ君…、どうだった?

…まぁ、君たちの声は外からも聞こえていたけど…。」


「タ・トウミ…、私どうしたら良いのでしょうか…。

タ・ナレミを助けないと、子ども達が路頭に迷ってしまいます…。」


ミミは、ナレミの暖かく、しかし、か弱い力で握ってくれた手を思い出した。


「あぁ…、慈愛部なんて名前だけ…。

決まったお金を分散させているだけじゃないですか…。

それが足りなくなってしまえば、恵まれない子ども達を助けることすら出来ないっ!!!

私たちは…無力です…、うぅぅ…。」


「ミミ君…、私たちが出来ることはあるよ…。

さっき君が自分のお金を出すと言ったが、僕も少しなら出すよ。」


「タ・トウミッ!

うぅぅ…。ありがとう…ございます…。」


トウミの優しさにミミは涙を流しながらお礼を伝えた。

そして、二人の話を聞いていた部署の他の人も集まってくると、


「ミミ君、僕も少しだけど。」

「ミミッ!さっき、かっこ良かったよっ!私も出すわっ!」

「私のも使ってくれ。」

「みんな同じ気持ちなんだ。全くもどかしいよ。」


と言いながら少しずつお金を提供してくれた。


「皆さん…、ありがとうございます。ありがとうございます…。うぅぅ…。」


ミミは涙を流して皆の協力に感謝した。


やがて、業務の時間が終わり、夜も遅くなり、ミミが一人になって雑務をこなしている時、


「ミミ君…。」


部長のヘステがミミのところにやって来た。


「あぁ、タ・ヘステ…。お昼は申し訳ございませんでした…。

大変失礼な…」


「それは良いんだ…。少ないけど、これを使ってくれ…。」


ヘステはそう言いながら、お金を渡してくれた。


「!!!」


「…君の言ったように我々の部署だけでは無力だ…。

だが、神官組織全体でロネントについて議題に上がっているんだ…。

いずれ何かしらの対応があるだろう。

それまでは我慢してくれ…。」


「タ・ヘステ…。ありがとうございますっ!!」


ヘステはミミの喜んだ顔を見ると、


「…はぁ~。誰かに怒られたのなんて久々だったよ…。」


と自分へを叱責を笑顔で皮肉った。


「も、申し訳ございませんっ!!」


ミミは顔を真っ赤にして恐縮した。


「それにお金…、ありがとうございました。

お子様もお生まれになって大変な時なのに…。」


「うちなら何とかなるさ…。

例のロネントが家に派遣されて妻も仕事が出来るようになっているしね。」


「…家政婦型の…。」


「そう…。

まずは神官達の家で"実験"ってわけさ。

確かに、こいつ(ロネント)のお陰で家は少し楽になった。

だけど、本当に便利なんだろうか…。

こいつのせいで社会全体が歪み始めている気もする…。」


「ロネントが…。」


ミミは機械人形の呼び名をつぶやくしか無かった。


「…ミミ君、明日は孤児院の行くんだろ?早く仕事を片付けて家に帰ることだよ。」


そう言うと、ヘステはミミの席を後にした。


「は、はいっ!ありがとうございました。」


ミミは慈愛部の皆からもらった小さな愛をぎゅっと自分の胸で抱きしめた。


「ラ・ムー様、感謝いたします…。」


明日は孤児院に行って医者にナレミを診せることが出来ると思った。

元気になったナレミとエメ達の喜ぶ顔が浮かぶのだった。


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