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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
新しい家族、小さな祈り
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暖かい手

首都の慈愛部の神官である猫族の神官であるミミは、エメ達のいる孤児院に訪れていた。

ミミが孤児院を仕切っている女性神官のナレミについて、エメ達に聞くと口ごもってしまった。


ミミは不思議に思いながらも、ナレミの部屋へと案内された。


「タ・ミミ、こちらです。」


オケヨトは丁寧にそう言うと、ミミをナレミの部屋に案内し、


"コンコン"


続いて、扉をノックした。


「タ・ナレミ、慈愛部の本部からタ・ミミさんがいらっしゃいました。」


"ガチャッ"


オケヨトは静かに扉を開けると、部屋の真ん中でベットに今まで寝ていたナレミが上半身を起こしたところだった。


「まぁ、いらっしゃい…。」


エメ達はミミを中に導くと、入り口から出て行った。


ミミは、エメ達が口ごもった理由が分かった気がした。

そして、その弱り切った声を聞いて、挨拶をし忘れてしまった。


「タ・ナレミ…、お身体…どうされたんでしょうか…?」


「タ・ミミ、こんな姿で申し訳ございません。少し疲れてしまっただけですよ…。」


ナレミは、神官らしく威厳を保って、笑顔で返したが、ミミは彼女の死期が近いことを悟った。


「いきなり押しかけてすいませんでした。」


「いえいえ、エメ達から今日来ると聞いていましたよ。本当に来てくれてありがとう。」


「子ども達はとても元気だったので良かったです。」


「そうですね。私の方が元気をもらっているぐらい…。

本当なら私がみんなにラ・ムー様の愛を伝えないといけないのに…。」


「そんな…、子ども達は、タ・ナレミの愛があったからここまで成長できたんですよ。」


「そうかしらね…。

みんな本当に良い子ばかり…。

それに、エメとオケヨトが頑張ってくれるから助かっているわ。

ラ・ムー様に毎日感謝しているのよ。」


ミミはエメとオケヨトが、孤児院でナレミを助けているのが分かった。


しばらくの間、ミミは孤児院の状況をナレミにヒアリングした。


ナレミの口からは自分の身体の事は一切出なかった。

子どもの予防接種のことととか、里親を探して欲しいことととか、そして予算のことなど、常に子ども達のことを考えているのが分かった。

そんなナレミに、ミミは目頭が熱くなり、涙が流れるのを押さえながら、聞き漏らさないようにした。


しばらくして、


「それでは、私はこれで…。」


「あぁ、はい。今日は本当に来てくれてありがとう…。

すでに慈愛部には、お伝えしていますが、私の"次の方"をどうかお願いします…。」


「そ、そんなっ!」


「いいえ、私、分かっているつもりです…。ですので、どうか早めにお願いできればと…。」


「あぁ…。タ・ナレミ…。そんな…、すぐにお元気になりますからっ!」


「ありがとう…、でも、どうか…、お願いします…。」


「…分かりました。ちゃんと上司に伝えます。」


ミミは、自分の死期を分かっているナレミの気持ちが痛いほど分かった。


「タ・ミミ…。」


「…はい?」


そう言うと、ナレミはミミの手を暖かい両手で包むように握った。


「子ども達を…、どうかよろしくお願いいたします。」


と涙を浮かべながら、その思いを伝えた。


「あぁ、タ・ナレミ…。もちろんです。ラ・ムー様はいつでも私たちを包み下さっています。」


「そうね、そうよね。ありがとう。」


「私に出来る限り、あの子達を守らせて頂きますから…。どうか、ご心配なさらずに。」


「ありがとう、ありがとう…。」


ナレミの手の力は弱々しかったが、さらにぎゅっとミミの手を握った。

その弱い力には、子ども達のことを思うナレミの気持ちが込められていた。

ミミはその手を同じように強く握り返し、自分の決意を伝えた。


「それでは、タ・ナレミ…。」


ナレミは笑顔でミミに応えた。

ミミは部屋を出るとハンカチで涙を拭いた。


「……。」


エメはそれを見て見ぬ振りをして、


「…夕食でも食べていってよ。」


「う、うん、お言葉に甘えようかな。」


ミミは一旦、ナレミのことを忘れて、子ども達と食事を楽しんだ。

元気な子ども達との食事は、ミミを元気にしてくれた。


(タ・ナレミの言ったとおりね…。この子達を助けてあげたい…。)


ミミは食事の後片付けまで手伝って、帰り際、


「タ・ナレミのお身体…、いつからなの…?」


と、入り口まで送ってくれたエメとオケヨトに聞いた。


「何日か前に、食事を取っている時に、突然倒れてさ…。」


「……。」


ミミは言葉を失った。


「タ・ナレミは、一人でここを切り盛りしていたんだ。

身体はボロボロなんだ…。

だけど…、だけど…、俺達はタ・ナレミを医者に診せることが出来ないっ!!」


エメは悔しそうにそう言った。


「……。」


ミミは聞かずとも、お金が無いためだと分かった。


「分かったわ…。お医者様のことは何とかする…。」


「…ありがとう。」


エメはお礼を言った。


「ありがとうございますっ!タ・ミミッ!」


オケヨトもお礼を言った。


ミミは、二人に手を振って挨拶すると、車を拾って戻っていった。


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