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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
新しい家族、小さな祈り
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対上級生チーム

エメがアラヤに混ざってからは、昼は神官やオケヨトから言葉を覚え、夕方はアラヤで遊ぶ日々が続いた。


アラヤでは、上級生対下級生でチームを作っているので下級生はいつも負けていたが、エメが加わることで形勢逆転し始めていた。

エメ自体が活躍するのもそうだったが、下級生達を適切な位置に配置させて、指示を出し、組織立って行動するので、意思統一していない上級生チームは段々と勝てなくなっていったのだった。


(やっぱり、サッカーみたいにポジションを決めてしまえば、効率的にゲームを進められるわ。)


エメは21世紀のサッカーを思い出し、応用したのだった。


「私は真ん中で指示を出すから、各人ポジションから動かないでくれ。」


正確には來帆だった頃の父親のサッカー好きが影響した。

來帆の父親は、來帆が聞いてもいないのに、チーム編成や、ポジションの意味などを教えてくれた。


(お父さんの知識がこんなところで役に立つなんてね…。)


そんな日々が続いてからしばらくして、いつものようにアラヤで遊んでいると、上級生達がエメに執拗に攻撃をしてくるのが分かった。

上級生チームは負け続けるの事に業を煮やして、エメを含めて下級生チームをわざと殴ったり、けりを入れたりと、攻撃的になった。


「むっ!!」


エメはそんな攻撃にさらに腹を立てたが、同じ下級生チームは上級生の攻撃が怖いため、動きが遠慮がちになり、また負け続けるようになった。


「…ゼッタイに許さないっ!」


「…エメ、喧嘩は駄目だよ?」


オケヨトは、喧嘩腰のエメを咎めるように言った。


「ダケド、許せないヨッ!」


「良い作戦は無いの?ほししょんだっけ?あんな風にさ。」


(ポジションね…。濁音の発音が全然出来ないなぁ…。作戦かぁ、う~ん。)


エメは、仕方なく、同じチームのメンバーにパスをした後は、上級生からの攻撃を避けるように逃げろと指示した。

この単純な作戦は功を奏して、パス回しが上手なチームになり、また上級生のチームに勝てるようになっていった。


試合が終わってエメが上級生達を見ると歯ぎしりを立てて怒っているのが分かった。


「ケケケッ!!」


エメは気持ち悪く笑ったが、オケヨトは、


「エメ…、まずいよぉ…、タキン達が怒っているよ…。」


とリーダー格の上級生を特に怖がっていた。


「オケヨトッ!あのひとたちがワルイッ!わたしたちはマチガッテいないっ!」


エメはオケヨトの弱気を切って捨てた。


だが、上級生達の虐めは段々とエスカレートしてきて、アラヤ以外では、食事の時に足を引っかけようとしてきたり、階段から突き落とそうとしたり、アラヤではさらにエメを執拗に攻撃してきたりした。


そんな事が続いたあと、いつもの試合中、ついにエメがプツリと切れてしまった。

上級生チームのリーダーであるタキンが、エメに殴りかかってきたのでエメは殴られる前に殴ってしまう。

タキンは不意を突かれたのか、そのまま倒れてしまった。

そして、怒りが収まらないのでまた殴りかかってきたが、エメは受け流すとまた殴り飛ばした。


「ふっ!あははっ!」


エメは地獄界で悪魔達を殺しまくった日々を思い出し、殴り飛ばした爽快さに酔いしれた。

だから、オケヨトが停めるまで、我を忘れてタキンを殴り続けた。


「エ、エメッ!や、止めろってっ!」


「ちっ。」


エメは何とか落ち着くが、タキンの顔はボロボロになっていた。

その後、エメは神官にこっぴどく怒られてしばらくは部屋を出てはいけないと言われた。


「あんな事をしたら駄目だよ…。友達だろう…?」


「ともだちじゃないっ!あっちからコウゲキしてきたっ!まけっぱなしはイヤだっ!」


「だけど、エメ…。」


「わたしはぜったいにまけないっ!」


「…エメ、だけど、あの時の顔…、すごく怖かったよ…。」


「えっ?!」


「悪魔に取り憑かれているみたいだった…。」


「あ、あくま…?」


エメは阿修羅界での自分の姿を思い出してぞっとした。


「わかった…。」


エメはそう言うと、布団に潜って、怒りをコントロールできなくなる自分を反省した。


(…あの鱗だらけの姿みたいだったってことか…。)


そして、殴った後、自分の拳も痛かったことを思い返した。


(オケヨトに言われると、悪い事をしたような気がしてくる…。)


他人にとやかく言われると腹を立てるエメだったが、オケヨトに言われると素直になってしまった。


-----


エメは、謹慎期間が過ぎた後、傷だらけのタキンを見つけると、


「タキン、ごめんなさい。」


と丁寧に謝った。


「…んだよ、こっちも悪かったよ…。」


タキンもふてくされているようだが、素直に謝ったので二人のわだかまりは無くなった。


「エメッ!すごいじゃないかっ!!ちゃんと謝るなんてっ!

ラ・ムー様もお喜びになっているよっ!!」


そんなエメを見て、オケヨトはエメに抱きついて来た。


「ダ、抱キツクナ…。」


エメは困り果ててしまった。


(…だけど、この鼓動…、何なんだ?)


エメは抱きつかれて、心拍数が高まるのを感じて気味が悪くなった。


それからは、他の上級生達もエメに喧嘩を売ってくることもなくなり、大人しくなっていった。


ある日の食事の時、エメがタキンの横に座ると、


「タキンッ!話ある。チーム、タダシク、ワケル、タイ」


と片言のナーガル語で提案した。


「うん?何を言ってるか分からんぞ…。オケヨト、何て言ったんだ?」


「エメは、上級生と下級生で公平にチーム分けをしようって言ってるよ。

良い考えだよっ!エメッ!」


「…あぁ、そういう意味かっ!お前よく分かったな…。

…エメがそう言うなら、そうしようか。」


こうして、アラヤのチーム分けも上級生チームと下級生チームの混合チームになって、勝ったり負けたりするようなまっとうな試合になった。


女性神官は、そんな子ども達のやり取りを暖かく見つめていた。


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