アラヤ
エメが孤児院に来て数ヶ月が経過して、いつものようにオケヨトが自室でエメにナーガル語を教えていた。
「エメ、少しはここの生活に慣れてきた?」
「ハイ、少シダケ。」
エメも片言だが返事ぐらいは出来るようになっていた。
「それは良かった。」
「食事ハ、マズイ。」
オケヨトは気を利かせてくれたのに、エメはずけずけと言った。
「あははっ!正直だなぁ。僕らは美味しいと思っているよ?
君の家は、よっぽど良い食事だったんだね。」
「お金持ちダッタヨ。」
と石河來帆だった頃の話をしたが、詳細を話す語彙力も無く、片言でしか説明出来なかった。
「へぇ~、そうだったのかぁ。それならここの生活は酷いんだろうなぁ…。」
オケヨトは、エメが災害に遭う前は裕福な生活をしていたのだろうと勘違いした。
「ヒドイッ!ヒドイッ!」
エメは両手を上下に振って生活の酷さを表現した。
「あははっ!ごめんねっ!」
ただ、オケヨトもどうすることも出来ず、笑って謝るしか無かった。
やがて、外で孤児院の子ども達が何やら遊んでいる声が聞こえてくると、
「エメ、ナーガル語の勉強は、このぐらいにしてみんなのところに行って、一緒にアラヤをやろうっ!」
とオケヨトが、一緒に遊ぼうと誘った。
オケヨトは、エメが他の子ども達と話が出来ないから、せめて一緒にスポーツをやることで交流させようとしたのだった。
「アラヤ?」
ただ、アラヤと言われても、エメはピンときていない。
何となくいつも子ども達が遊び場でいつもやってるボールを使ったスポーツのことだろうと思った。
「さっ!行こうよっ!」
「ハイ。」
エメは興味も無かったから真剣に見ていなかったが、今日はオケヨトに誘われたので少し真剣にそのスポーツを眺めて見た。
(ボールを蹴ってるから、サッカー…?)
貧困層でも遊ぶことの出来るボールを使ったスポーツは、いつの時代でも存在する。
アラヤは、12神官の一人、ラ・コルによって考案されたルールのシンプルなスポーツだった。
このスポーツは、ゴールポストが無く、相手側の線を引かれた場所を越えれば点数が入った。
手を使っても良いらしく、空中に飛んだボールを手に取って投げている者もいた。
手を使った場合、ゴールさせることは出来ないのか、手で受け止めた場合はすぐに下に落として自分で蹴るか、遠くの味方にパスをしていた。
(そうね…、点数が入りまくるサッカーってところね。
サッカーって、やってことないんだけどなぁ…。)
人数はあまり決まりがないらしく、5人対5人の時もあれば、8人対8人の場合もあった。
(う~ん、本当は正式な人数があるはずだけど、人が足りないみたいね。)
エメはサッカーもどきに参加すると、持ち前の負けん気と地獄界で鍛えた運動神経でなかなかの活躍を見せた。
そんなエメを見て、オケヨトは、
「やるじゃないかっ!」
と褒めたので、エメはちょっと照れながらニコリとした。
(随分簡単なスポーツね。
だけど、私よりも歳のいった人とそれ以下の人達でチームを組んでいるから面白くないわね…。)
エメが、そう思った通り、チームは16歳以上の上級生のチームと15歳以下の下級生チームに分かれて争っていた。
むろん、上級生チームの方が力も強いため、下級生チームはいつも負けていた。
(上級生チームが楽しむためのゲームみたいっ!何か腹が立つ…。)
ア 太陽の象徴となる球を
ラ 縦横無尽に、
ヤ 飛ばし合うるスポーツ




