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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
新しい家族、小さな祈り
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エメ

入院して数日すると、ムーの女性神官二人が、來帆の前に現れた。

神官達は色々と聞いてくるのだが、來帆が言葉を理解できないため、困った顔をするしか無かった。


すると、神官の一人がペンを取り出した。

紙もないのにどうやって書くのだろうと來帆が思っていると、神官は空中に絵を描き始めた。


「えっ!!く、空中に絵を描いてる…。」


神官達は來帆の言葉は理解できなかったが驚いているのだけは分かった。

そして、菱形に近い図を書くと、指を指して、


「Mu...」


と言った。


「む?ムー?」


大人はうんうんとうなずいた。


(ムー?この場所ってことか。)


來帆はいくら思い出そうとしてもムーという国を思い出せなかった。


(この地図からすると島国よね…。どこにある国だろ…。地理は得意だったんだけど…。)


続けて、神官は、大陸の北部の一部を黒く塗りつぶして消えたことを示した。

それを見て、來帆は自分がその黒く塗りつぶされた場所で生活していた事を知った。


(あぁ…、私はまた天変地異に巻き込まれたのか…。いや、違うか…、この身体の持ち主か…。)


來帆がうんと頷いて理解した旨を伝えると、一旦、ムー大陸の図を消して、今度は何やら分からない二つの文字を書いて、


「エ・メ、エ・メ。」


と一文字、一文字を指差しながら言った。

來帆は自分の名前だと理解して、自分を指差した。

すると、神官もうんうんとまた強く頷いた。

神官達は來帆の素性を知っているようだった。


(私の名前は、エメというのか…。)


そして、エメという名前の上に男性と女性と思える汚い絵を描いて、両方に×を書いて悲しそうな顔をした。

それを見て、來帆はこの身体の持ち主の両親は亡くなったことを察した。


(あぁ、私と同じ…。お父さんとお母さんを失ったのね…。)


來帆は、哀れに思ったが、それを神官は両親を失ったショックと受け取ったのか、來帆を軽く抱きしめてくれた。


(違うんだけど、まあ、良いか…。)


そして、神官達は來帆のために腕時計を渡してくれた。


(腕時計…?)


その割には時間が表示されていないので、どうしていいのか迷っていると、神官はその腕時計に触れと、身振りで教えてくれた。


來帆が触ると、時計の上部に小さな画面が表示された。

一秒ごとに何かが点滅しているので今の時間を表示しているのは分かった。


(すごいっ!空中に画面っ!!スマートウォッチかしら…。こんなの見たことないけど…。)


二人の神官は何やら話し合うと、手を振って病室を後にした。

來帆も何となく手を振って見送った。


エ 海からの恵みを

メ 流れのまま受け止める者


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