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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
新しい家族、小さな祈り
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第六の人生

21世紀に現れた極小ブラックホールに飲み込まれた來帆の身体は、その摩擦熱で燃え尽きてしまった。

だが、強大な重力を持ったそれは、魂を原子よりも小さな点にすると、別の次元へと誘った。


ブラックホールは、質量と空間と存在した時間に合わせて、どこかと結びついている。

その場所をホワイトホールと呼ぶ者もいたが、現在の科学では確認することは出来ない。


やがて、小さな点となった哀れな魂は、ホワイトホールから抜けると、シルバーコードと共にある身体に結びついた。


その身体の痛みで來帆の意識はどこからか引き戻された。


「ん、んん…。い、痛っ…。」


來帆は、うつろな目で周りを見渡すと、どうやら自分のいる場所がどこかの海岸であることが分かった。

波の音が耳に響き、潮の香りが來帆の鼻をくすぐった。


來帆は身体を起こし、


(私はブラックホールに飲み込まれたはず…、それがどうして…?)


と自分が生きていることを不思議に思った。


(それに、この身体…、鱗だらけの身体じゃなくなってるわ…。イタタ…。)


來帆は柔らかい肌に戻ったのを感じ、同時にそれが傷だらけであると分かった。


(き、傷だらけ…。)


やがて身体を確認している來帆に向かって、どこからともなく男性が駆け寄ってくるのが分かった。


(自衛隊の人…?似てるけど、違う服…。)


帽子をかぶり、軍服のような服だったので來帆はそう思った。

やがて來帆に近づくと、意味不明な言葉を話した。


「□□□□□□□?!□□□□□□□□!!!」

(君、大丈夫かい?!生存者がいたぞっ!!!)


「えっ???何を言っている…?よく分からない…。」


そう言いながら、立ち上がろうとした來帆は足の強烈な痛みで倒れてしまった。


「い、痛い…。あ、足が…!!」


そう言いながら自分の右足を見るとあらぬ方向に向いていた。


軍服の人は來帆の足を何かで固定すると、抱きかかえて、近くに停めてあった車に連れて行ってくれた。


(救急車かしら…。)


絶壁と砂浜しかないここに、どうやってここに来たのか分からなかったが、白いワゴン風の車が置いてあった。


(あれ?タイヤが見えない…?)


來帆は、不思議に思ったが、後ろの扉が自動で開いて、男性は設置してあったベットに來帆を寝かしてくれた。


「い、痛っ!!」


來帆は寝かしてくれた時の衝撃で足が酷く痛んだ。

そして、痛みに耐えながら、窓の外を見ると、車と思った乗り物が空中に浮かんだので何が起こったのかと思った。


「と、飛ん…で…い…る…の……?」


窓から見える外は今にも雨が降りそうな空だった。

來帆は痛みで気を失いながら、ここが自分の知らない場所だと悟った。


-----


來帆が気がつくとどこかの病院だった。

看護師とらしき女性が、目の覚めた來帆に気づくと、薬を勧めてきた。


「えっ?!あなたずっとそこにいたの…?い、痛っ!!」


「□□□□□□□□□。□□□□□□□□□□□。」

(おはようございます。痛み止めのお薬をどうぞ。)


看護師は何か言ったが、全く理解できなかった。

仕方なく、來帆は勧められるまま、その薬を飲むことにした。


(苦くないわね…。あれ、痛みがなくなった…?)


よく見るといつの間にか骨折した右足にはギブスがはめられていた。


(私が知っているギブスよりも軽い。まるで靴下みたい。でも確かにカチカチに固まっているわね。)


そんなことに驚いていると、看護師は、痛みのない注射のようなものを來帆の右腕にうった。


「□□□□□□□□□。□□□□□□□□□□□□。」

(回復注射をうちます。またしばらくお休み下さい。)


「な、何を…注射した…の…よ…。」


と言いかけたが、強力な麻酔薬で、また意識を失った。

どれぐらい経ったのか分からなかったが、次に目が覚めると傷口は完全に治っていた。


「はぁっ?!な、治っているわ…。あの飲み薬のお陰…?嘘みたい…。」


気づくと、後ろには看護師が立っていて、


「□□□□□□□□□。□□□□□□□□□□□□□□。□□□□□□□□□。□□□□□□□□□□□□□□。」

(おはようございます。お言葉が理解できないようです。申し訳ございません。本日は足の再生治療を行います。)


と言ったが、來帆は分かるはずもなく、來帆の目が覚めるのに合わせて、どこか別の場所に連れて行った。


「ま、また、あなた?!ずっとそこにいたのっ?!

何なのあなたっ!ロボットみたいな目をしているしっ!!

ちょ、ちょっと、待ってよっ!!

どこに連れて行くのよっ!!」


來帆の訴えに何か応答していたが、言葉が通じるはずもなく、そのまま治療室と思われる場所に連れて行かれた。

部屋には数名の看護師が來帆を待ち構えていた。

來帆のベットが部屋の中央にベットが固定されると、別の看護師が足のギブスに何かの薬をかけ始めた。

するとさっきまで固まっていたギブスがドロドロに溶け始めた。

看護師はそれを手際よくどけると、


「何で外すのよっ!!まだ治っていないわっ!!えっ?!ちょっと何をするのよっ!!」


「□□□□□□□□□。□□□□□□□□□□□。□□□□□□□、□□□□□□□□□□□□□□□。」

(申し訳ございません。大変痛い治療となります。恐れ入りますが、身体を押さえさせていただきます。)


來帆の身体は、そのまま何人かの看護師に身体が押さえ込まれた。

來帆は暴れたが、どうすることも出来ず、やがて、看護師の一人が足の一部をレーザーのようなもので切開した。



「な、何をっ!!!い、痛っ!!!!痛い、痛いっ!!や、止…め…て…。」


來帆は、今度は痛みで気を失ってしまった。

気を失う瞬間、変な薬を傷口に投与されて光を当てられのが分かった。


翌日、目が覚めると骨折したはずの右足が自由に動くことが分かった。


(あ、足が治っている…?骨折していたはず…。痛みもない…。

一体、何をしたの…?

身体の傷もあっという間に治っているし…不思議…。)


そう思っていると、朝食とおぼしきものが給仕係の女性によって運ばれてきた。


「□□□□□□□□□。」

(お食事でございます。)


「また、不気味な人…。何なの…。う、うん…?」


その食事は、和食にも似ていたが、そのご飯は粒がとても大きかった。

見たことのない魚を焼いた料理も大きな皿の上に盛られていた。


「お、美味しそう…。」


「□□□、□□□□□□□□□。」

(どうぞ、お召し上がり下さい。)


來帆は何を言ったのか分からなかったが、空腹には勝てず、貪るように食べ、その味に舌がとろけそうになった。


「おいし~~っ!!なんて美味しいのかしらっ!」


來帆は誰かと、このことを共有したいと思ったが、言葉の通じる相手はいなかった。

食事を持ってきた給仕係は看護師よりも機械のように動いていて、少し不気味だった。

來帆は、ちょっとだけ話しかけたが意味不明な言葉が返ってくるだけで会話は、やはり出来なかった。


「□□□□□□□□□□□□□□。□□□□□□□□□。」

(お言葉が理解できないようです。申し訳ございません。)


「ハァ~…。私はどこに来てしまったんだろう…。」


「□□□□□□□□□□□□□□。□□□□□□□□□。」

(お言葉が理解できないようです。申し訳ございません。)


給仕係は、機械的に応答すると、來帆の食事を片付けて、そのまま下がっていった。


來帆は自分の境遇に笑うしか無かった。


「ふふふっ…、あははははっ!

一体何回目なんだろう…。

いつも目が覚めると、知らない場所にいる…。

私の…、私の人生は、一体なんなんだよっ!!!」


しかし、この場所は今までとは全く異なっていた。

來帆はベットから立ち上がって病室から抜け、廊下を見渡すと、多様な人間が歩いているのが分かった。


(金銀黒の髪に、白い肌、それにネコの耳を付けた人も多いし、尻尾を付ける人もいる…。

看護師やさっきのやつみたいに、ロボットみたいなぎこちない人もいる…。

しかし、何語を話しているんだろう…。英語とも中国語とも違う…、どちらかというと日本語に似ている…。

ここはもしかして天国なのか…?)


ついこの間まで阿修羅地獄を経験した來帆にとって、ここは天国のように思えた。


(でも、身体が重いし…。)


霊体であった頃と違い、何かに触れることも出来たし、それを持つことも出来た。


「私、生きているよね…。」


第一の人生:普通の学生人生を歩むが同級生を虐めて転校を余儀なくされる

第二の人生:発狂して意識を失い精神病院行き

第三の人生:一瞬だけ人間の人生を送る

第四の人生:殺害されて霊体となり阿修羅地獄へ、以外にも最強の戦士となる

第五の人生:ヘッドギアの力で実体を持ってこの世で暴れまくる

第六の人生:ブラックホールに巻き込まれてムーへ到着


波乱の人生は続く…


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