具現化
それから数日して、來帆が手当たり次第、悪魔を殺しまくっているときだった。
グゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ…
「……?」
唐突に荒廃した世界は大きく揺れ始めたのに気づいた。
殺し合っていた者達も手を休めて何が起こったのだろうかと思って周りをキョロキョロを見回していた。
「く…空間がよじれる…?!」
來帆は、そう感じた。
やがて地獄という世界は、圧縮され始めた。
そして、小さな点になるとあの世と呼ばれる世界から一瞬で消え、別の場所に現れた。
その時、來帆は自分の異変に気づいた。
「な、何が起こった…?えっ?!身体が重い…!?」
悪魔達は何が起こったのか分からなかった。
空間のよじれが起こったと思ったが、次の瞬間は元の荒廃した地面に自分達がいただけだと思った。
だが、不思議な事に空中に大きな窓がいくつも現れていた。
その窓からは地獄では見ることの出来ない明かりが射していた。
「ま、窓だって…?!それに明かり…?ま、眩しい…。」
來帆は窓に恐る恐る近づいて覗いた。
そして窓から見える景色に驚愕した。
「!!!」
青い空、白い雲、青い海に、緑の山々も見えた。
それは、生きた人間なら誰でも見る風景だった。
真っ暗な世界に閉じ込められた者達は、その明るさが何を意味しているのか分からなかった。
その窓は遙か上空にあるらしく、下を眺めると地上には倒壊した建物が並んでいた。
來帆は見慣れた場所であることに気づき、ハッとした。
「まさか、ここは大田町っ?!」
やがて、來帆達、悪魔は窓から出ることにした。
上空にある窓から出ることは恐ろしくもあったが、その風景に近づきたかった。
当然、身体は落下していくが、來帆は絶対に落ちないと強く思った。
すると、背中の羽が自然に広がり、大きく飛ぶことが出来た。
空から見える世界は自分が、かつていた世界であり、いつの間にか呼吸もしていた。
來帆は、その懐かしい風景を喜び、空を飛び回った。
「あははっ!地上だぁぁぁっ!!!地上だぁぁぁぁっ!!」
來帆がさらに大きく空を飛び上がり、自分が出てきた場所を振り返ったとき、その巨大なものが否応なく目に入った。
「こ、これが私たちのいた世界…?」
それは巨大な塔だった。
來帆が出てきた場所は塔の頂上に近い場所だった。
塔は少しずつ移動していた。
來帆はベルフェゴールが同じように空中で、巨大な塔を驚いた表情で見ているのに気づいた。
「な、なんだいこれは…?これが私たちがいた場所だったってことかい?」
「知らねぇ…。さっき、俺達が出てきた場所なんだ…、そうなんじゃねぇか…?」
「…こんな塔の形をしていたって言うのかい…。」
「そ、それによ…、サタンの奴、俺達の世界と何かと合体させたようだぜぇぇぇ。ほら、下んところを見ろよ。」
來帆がベルフェゴールの言われるがままに塔の底辺を見ると、巨大な渦が見えた。
「な、なんだよあれは…。」
塔の底辺の一点に向かって何もかもが吸い込まれていた。
周りの空気を吸い込んでいたため、強風が吹き荒れていた。
來帆が見た渦は強風と一緒に吸い込まれていく木々の姿だった。
だが不思議な事に一切風の音が聞こえなかった。
「…これは…もしかしたら…。」
來帆は人間だった頃、これをテレビ番組か何かで見たことがあると思った。
「ブ、ブラックホール…?こんなに小さいものなんだっけ…?」
「…んだよ、それは…。」
來帆はそれに回答しないで、低い階層から出てくる羽を持たない悪魔を一人掴むと穴に向かって投げた。
「□□□□□□□~~~~!!」
その悪魔は何かを叫んでいるようだったが、來帆達には何も聞こえなかった。
そして、長く引き延ばされながら、中心の一点に吸い込まれていった。
「音も光りも吸い込まれる物体ということか…。あれには近づかない方が賢明だな…。」
「そうだなぁぁぁ。それよりも、キホォォォ、人間どもが泣き叫んでいるぜぇぇぇ。
アハハハハ~~~~ッ!ヒ~、ヒッヒッヒ~~~ッ。」
來帆の目はギラッと光った。
「そうだなぁっ!!」
地獄世界が地上に具現化した瞬間だった。
悪魔達はその欲望のまま、人間達を蹂躙し始めた。
來帆達のような阿修羅界の者は、人間を見つける度に片っ端から殺した。
色情地獄の者は人間を強姦し始めた。
餓鬼地獄の者は食料を奪い、足りなければ人間を食べ始めた。
阿鼻叫喚の地獄で苦しんでいた者は、自分の苦しみを人間に強要した。
日本の鬼のような姿をした者も、西洋の悪魔のような姿をした者も、あらゆる魔と呼ばれる存在が実体化した。
この世を闇に染めようとする名の知れた悪魔も実体化した。
世界は闇に染まっていった。
來帆は泣き叫ぶ人間の声を聞く度に身が震えるのほどの喜びを感じた。
自分の爪が人間を切り裂く度に、その感覚に酔いしれた。
「あははっ!あははははははっ!
ヒヒヒッ!!!
楽しいぃぃぃ、楽しぃぃぃ。
楽しすぎるぅぅぅぅ。」
この地獄世界の具現化は、永原秀人の身体を奪った地獄の頂点に立つサタンによって引き起こされた。
サタンは、あの世のものを、この世に具現化させる力を持ったヘッドギアと呼ばれる道具を使った。
神を憎み、光りの世界を否定する邪悪な、そして強い思念は、神によって閉鎖された地獄と呼ばれる世界を、そこに住む哀れな住人達と共に生み出した。
[[えにし]]
「妄想は光の速さで。」第13重力子 第90部分 プルガトーリョ
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