本当の姿
我に返った少女は、自分が大学の跡地にいることに気づいた。
(…私、何をしていたんだっけ…。そうだ、お腹…。)
來帆は、自分のお腹に手を当てて傷を確認した。
(あ、あれ…、私のお腹は…?何かとがった者が刺さって、とても痛かったんだけど…。)
だが、腹の傷はどこにもなかった。
何が起きたのか確認するため、周りを確認すると、自分の後ろに目を疑うものが横たわっていた。
(えっ!!!あれは私…?私なのっ?!それなら、ここにいる私は誰なの…?!)
そこに倒れている"自分"は、腹と口から血を出して死んでいるようだった。
來帆が愕然としていると、
(あら、気づいたのね…うふふふ…。生まれ変わった気分はどうかしら…。)
と突然不気味な女の声が聞こえた。
(あ、あなたは…?)
來帆が声の方を向くと、その女は丁寧にスカートを両手で掴み、お辞儀をしていた。
よく見ると女は來帆の通っていた中学校の制服を着ていた。
(初めまして…。ふふっ…。)
顔は下げたままでよく見えなかった。
來帆はまた不思議な少女が現れたのだと思った。
(今回で三回目…。昨日、今日と不思議な女の子に会うのよね…。
だけど、あなたは今までの中で一番普通かも。)
(そうなんですか…。だけど、この顔に見覚えは?)
そう言いながら女が顔を上げたとき、來帆の顔はみるみるうちに青ざめていった。
(あ、あなたはっ!!!あ、あい…、愛那っ!)
その女の顔は來帆の気が狂う前に見た愛那だった。
(イ、イヤァァァァァ~~~~ッ!!)
(アハハハハハハッ!いやぁぁぁぁぁ~~~だってぇぇぇぇっ!
ヒィ~~ヒヒヒッ!アハハハハ~ッ!!クククッ…。)
愛那は奇妙な笑い声に來帆は恐ろしくなっていった。
(あ、愛那…、許して…、もう止めて…。)
(止めて…?嫌よ…、あなたが私にしたことを忘れたの…?
ヒィ~~ヒヒヒッ!)
(ごめんなさい…、ごめんなさい…。)
(ごめんなさい…、ごめんなさいぃぃぃ?
アハハハハ~ッ!!クククッ…。
ヒィ~~ヒヒヒッ!アハハハハ~ッ!!クククッ…。)
來帆は身体を震わせるしかなかった。
(…あ~ぁ、もう飽きてきちゃった…。
そうね…、正体がばれたって事にしようかしら…。)
冷たく笑っていた愛那は、急に真顔になると、來帆を見つめて、そう言った。
(しょ、正体…?)
すると、その姿はみるみるうちに恐ろしい姿に変わっていった。
にやりとた顔は耳まで口が裂け、血管が浮き上がった顔になり、曲がりくねった角が生えた。
肌も血管が浮き上がって紫色となって、目つきは全てを冷めた目で見るようであり、爬虫類のように細い色になっていた。
さっきまで着ていた制服は黒く薄汚れて、ドロドロに解けているようにも見えた。
(…い、いやぁ~~~っ!!!ヒ、ヒィ~…。)
その姿を見て、來帆は後ろに倒れてしまった。
(そう…、その声…、私…大好きぃぃぃぃ。
アハハハハハハハハハハハハ~っ!たのしぃぃぃぃぃ~っ!!!!
もっと叫んで~~~~っ!!
ヒ~~~ッってっ!!!アハハハハハッ!)
愛那は、來帆の全てを笑っているようだった。
來帆の頭のてっぺんから足の先まで全てを否定しているようだった。
(愛那…、許して…、許して…、許して…、許して…。)
來帆は目をつむり、祈るように何度も許しを請うた。
だが、女は來帆の顔を掴んで、目を思いっ切り開けた。
(許して、許して、許してぇぇぇぇ…?
駄目よぉぉぉ、私を見なさいぃぃぃぃ。)
來帆はなすすべも無く、身体を震わせた。
(や、止め…、ヒィィィィィ~~…。)
(い~しぃ~かぁ~わぁ~~、來帆ちゃ~~~ん…。
あの時は心の奥に隠れれば良かったけど、今度はそうはいかないよぉぉぉぉ~~~っ!!
カカカァァァッ!!)
(い、いやっ!!!いやぁぁぁぁぁ~~~~っ!!
いや、怖い、怖い、怖いぃぃぃぃ。助けてぇ~~~~っ!!)
(アハハハハ~~~~ッ!ヒ~、ヒッヒッヒッ。)
來帆が叫ぼうが何を言おうが、愛那はあざ笑うだけだった。
そして、來帆が恐怖でどうにかなりそうになった時、愛那は不思議な事を言った。
(愛那と同じ時代に生まれたことを恨むんだねぇぇ…。ヒッヒッヒッ。)
(あ…、愛那と…?あ、あなた…、あ、あ、愛那じゃ無いの…?)
(愛那、愛那、愛那ぁぁぁぁ、ヒィ~~ッ、ヒヒヒィィィィッ!)
女は気が狂ったように笑い、踊っていた。
(あなたは…、誰…なの…?)
來帆がそう言うと、目を右、左、と動かし、目を見開くと來帆をキッと見つめた。
(あの時は、お前のお陰であいつを自殺するところまで追い詰めることが出来たからねぇぇぇっ!)
(…あ、あの時っ?!)
(お・ま・え・は、俺と一体化していたんだぁぁぁぁ。
よくやってくれたぜぇぇぇぇ。
つ・ま・り、俺とおなじ…ってわけさぁぁぁ~~っ!!)
(一体化…?あ、あなたと同じ…?)
(そうさぁ…。同じ姿って事だぁぁぁぁ。)
(ち、違う…、私はあなたとは違うっ!)
來帆はこの恐ろしい女と同じと言われて否定したが、
(違わないぃぃぃぃ…、お前のその姿を見れば分かるぅぅぅぅ。
これで見てみろぉぉぉぉ。)
女は鏡をどこからか出してきて來帆を映すと、鏡に映った自分を見て我が目を疑った。
(…う、うそっ!)
自分の顔には真っ黒な鱗が生えていて、目も爬虫類のそれと同じだった。
頭には女と同じような山羊のような曲がりくねった角が生えていた。
(いやぁぁぁぁぁ~~~~っ!!)
そう叫んで、顔に手を当てると、その手には黒くて鋭くなった爪が生えていた。
その手の甲も真っ黒な鱗がびっしりと生えていた。
(こんなの私じゃ無いっ!)
(お前だってっ!!!それがお前なんだっ!!!
それが人をおとしめて喜ぶ人の姿なんだぁぁぁっ!!!
俺はお前を褒めてるんだぜぇぇぇぇ?)
(ち、違う…。)
來帆は鏡に映った自分を認められず震えていた。
(素敵じゃないかぁぁぁぁっ!!!!
あんな猿みたいな皮を被って、池上って奴にケツをふっていても、皮を剥げば本当のお前になるってことだぁぁぁぁぁっ!!
アハハハハハハハハハハハハ…、ヒヒヒ~~~ッ!!)
(嘘嘘嘘…。嘘よ…。)
女は、また來帆の顔を掴んで顔を近づけてきた。
いつの間にか姿が変わった來帆は凍り付くしか無かった。
(その鱗はお前が周りの人間との間に作った壁ぇぇぇぇぇ。
お前のその爪は人を死に落とし込んだ、こ・こ・ろ、そのものだぁぁぁぁ…。
愛那をおとしめた、その姿ぁぁぁぁぁ、美しくて、かわいぃぃぃぃ~~。
かわいいぃぃぃよぉぉぉぉぉ~~。
アハハハハ~~~~ッ!ヒ~、ヒッヒッヒ~~~ッ。)
(あ、あなたは…、一体…。)
(俺は…、サタン様の忠実な下部ぇぇぇ、ベルフェゴールゥゥゥ…。)
(ベ、ベルフェゴール…。)
(ベルフェゴール様だろうがぁぁぁぁっ!!!!)
(ヒィィィィ…。)
來帆は気づかなかった。
愛那を虐めていたときの自分はすでにこの悪魔に取り憑かれていたことを。
虐めることによって得た快楽は悪魔が人をおとしめるときに得る快楽と同じだったことを。
すでに悪魔の言いなりになり、魂を売ってしまっていたことを。
(あの訳の分からない、池上とかいう奴に睨まれた時は逃げてやったが、今度はそうはいかない…。
おまえはぁぁぁ、俺のもんだぁぁぁぁ。)
(い、池上…さん、助け…て…。)
(池上の名前を出すなぁぁぁぁっ!!!
お前は愛那を殺したときから俺のもんだったんだぁぁぁぁ。)
(ヒィィィィ…。ち、違う…。)
來帆の声は悪魔の耳には届かなかった。
世界を黒く染めようとする二人の悪魔がいるだけだった。




