大学の跡地にて
來帆はその翌日も池上が体育館を出て行くところを待っていた。
(今日はどこに行くのかしら…。)
來帆は、救助活動のことは忘れて、池上自身に興味がわいていた。
「あら、今日もついていくの?」
「(ドキッ!)」
來帆は不意を突かれてドキッとした。
「お、おばさん…、もう、驚かさないで下さい…。」
「それでついて行くんでしょ?むふふっ、若いって良いわねっ!おばさん、楽しみよっ!」
「も、もう…、わ、私はただお手伝いをしたいだけで…。」
來帆はズバリ付かれて慌てて言い訳をした。
「良いのよっ、もうっ!むふふっ!」
中年の女性は自分の子どもに彼氏が出来るような楽しみを抱いていているようだった。
「むふふっ!」
「もう、おばさん、炊き出しに行くんでしょっ!!」
「はいはい、それじゃぁ、頑張ってねっ!胃袋よ、忘れないでねっ!」
來帆と知り合いになった中年の女性は顔をニヤニヤとしながら体育館を出て行った。
遠くから、來帆を見て頑張れと手を振っていた。
(もう…、そんなんじゃ無いのに…。)
と思っていたが、池上への興味は尽きない。
(池上さんはどうしてここに?
あの人も私と同じ病院にいたって言ってたよね…。
後から聞いたけど、あの病院は精神病院だった…。
私は記憶が無くなってしまった間にあの病院に…一体、私はどうなっていたのかしら…。
池上さんもそうだったということ…?
大体、昨日の小さな女の子はどこに行ってしまったの?
池上さんが、まさか消してしまった…?殺してしまったということ…?
いいえ、それは無いわ、私はずっと見ていたもの…。)
そんなことを考えていたら、池上が体育館を出て行こうとしていた。
(あっ!)
來帆は急いで後を追っていった。
(頑張ってねっ!胃袋よ、忘れないでねっ!)
そんな声が聞こえてくるようだった。
(ち、違いますからっ!)
來帆は顔を真っ赤にして誰とも言えない人に言い返していた。
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池上は、今日も大学の跡地に向かっていった。
來帆は見つからないようについて行った。
しばらく、池上は瓦礫を探索していると、彼を待ち受けたように、若い警察官が現れて、何やら話を始めた。
來帆は、遠くて二人の声は聞こえなかった。
(この前お話ししていた警察の方ね。何を話しているのかしら…。)
來帆が耳を澄ましていると、
「あ、あの…。」
後ろから声をかける人がいた。
「(ドキッ!)は、はいっ!」
來帆はまたしてもビクッとした。
後ろを振り向くと、自分より少し若いように見える少女が立っていた。
そして、またも不思議な格好をしていた。
「それって十二単…ですか…?」
來帆は挨拶や、自分に何故声をかけてきたのかということよりも先に、着ている服について聞いてしまった。
「あ、そうです。よくご存じですね。」
「だけど、少し丈が短い…。」
「にゃっ!…えっと、短い方が、男性は好きだって聞いたので…。み、短すぎますか…?」
「そんなことは無いけど…。」
來帆は丈の短い十二単なんて見たことがなかったし、よく見ると頭に猫耳を付けているし、何かのコスプレなのかと思った。
それに、彼女の後ろを何冊かの本が見えて、しかも、空中に浮いているように見えた。
突っ込みどころ満載の女性を目の前にして、來帆は混乱していた。
「あ、あの…、ここは危ないから離れた方が良いです…。」
「えっ?!どうして?」
すると、
<チュー、チュー…。>
急にネズミの鳴き声が聞こえた。
(ネズミの声…?)
來帆が驚いていると、少女はどこからかネズミを出して、耳に当てた。
「にゃっ!戸越先生…、すぐに行きます。すいません。」
「先生?誰と話しているの…?それにそのネズミは…?」
來帆がいぶかしがっていると、
「チュー帯電話というらしいです。この時代はすごい連絡手段があるんですよね。」
「ちゅ、ちゅーたいでんわ?えっ?!」
「えっと、この場から離れて下さいね…。危険ですからっ!」
「ちょ、ちょっと…。」
少女は走って池上達の方に向かっていった。
來帆は言われたとおり少し離れてだが、瓦礫の隙間から池上と少女の方を見た。
(昨日の女の子も不思議だったけど、あの子も変な子…。
私もストーカーだから人のこと言えないか…。)
よく見ると背筋の曲がった暗い顔をした男性もいることが分かった。
來帆は少女が戸越先生と呼んだ男性だと言うことが分かった。
やがて、しばらく話していると男性が急にふっと消えてしまった。
(えっ?!き、消えた…?どこに…?)
來帆が驚いていると、後ろから不気味な声が聞こえた。
「君は何をしているんだ…。」
心の奥を掴まれたような恐ろしい声だった。
來帆は背筋が凍るのを感じた。
(この人、怖い…。)
來帆は振り向いて戸越の顔を見ながら後ずさりした。
「え、えっと…、い、池上さんの後を追ってきて…。」
「うん…?池上君の知り合いか…。」
「知り合いというか、何というか…。」
「全く…、面倒だなぁ…。
そうかぁ…、彼女かな…、クックックッ…。」
「ち、違い…ま…、ぐぶっ…!」
來帆は否定しようとした時、お腹から何かとがったものが出ているのに気づいた。
その瞬間、口から血を吐き出し、その場に倒れた。
「目撃者は…消えてもらわないと、お、怒られてしまうんだ…。ブツブツ…。
また、池上君に恨まれそうだなぁ…。ブツブツ…。」
戸越はヘッドギアの力で作り出した巨大な刃物状のトゲを來帆の身体から抜き去ると、
「あの警官も気になるが後でいいか…。警官だと面倒なことになるかもしれないし…。ブツブツ…。」
と云い、どこかに飛び去っていった。
「(い、痛い…、お腹が…。い、池上さん…。あれ…、意識が…。)」
來帆は意識が遠のくなか、池上の助けを求めた。
だが、その声は誰にも届かなかった。
[[えにし]]
「妄想は光の速さで。」第5重力子 第22部分 またあなたに会えたっ!
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