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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
もう一つの最後 - いじめっ子少女 來帆 -
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悲しげな青年

來帆は歩きながら何故入院していたのだろうかと思った。


「転校が決まってから一人になって、学校に行かなくなって…。

何か恐ろしいことがあったような気がするけど思い出せない…。」


記憶がすっぽりと抜けていて、何をしていたのか全く思い出せなかった。


來帆は"線路"だった場所を歩き続け、夕方になるかならないかという時間になると、地元の駅まで戻ることが出来た。

だが、駅は倒壊して無くなっており、活気のあった街も自分が目覚めた場所と同じような悲惨な状態だった。


來帆は、空腹でくたくたになっていたが、更に何とか力を絞って自分の家を目指した。


それから、しばらくして何とか到着したが、門から見えるはずの自分の大きな家は倒壊して瓦礫しか見えなかった。


「ここが…私の…家…?」


絶望のまま"門"を通り抜け、庭を通って瓦礫の場所まで来た。


瓦礫のそばまで来ると、母親の部屋だったところに壁が残っていて、椅子に座っている女性の腕が見えた。


「お、お母…さん…。お母さんっ!!!」


母親の姿を見つけて近寄っていったが、そばに寄るにつれて、來帆は絶望に包まれていった。


「あぁっ!そ、そんな…。」


母親の腕は椅子から垂れて壁の向こう側から見えたが、椅子に座る本体は瓦礫に挟まれて死亡していた。


「お母…さ…ん…。」


母親の変わり果てた姿を見た來帆は疲れとショックで意識を失った。


-----


次に目覚めたところはどこかの学校の体育館だった。

いつの間にか夜になっていて、窓から見える空は真っ暗になっていた。


(ここはまさか…、私が通っていた中学校…?)


その瞬間、愛那という同級生に行った数々の虐めについて思い出されて吐き気に襲われた。


(うっ…。)


吐き気はしばらく収まらなかったが、少し落ち着いてくると周りを見る余裕が出来た。

奇跡的に残った体育館には大勢の人が集まっていた。

寄り添って互いを温め合っている家族がいたり、傷ついて寝ている人もいたり、涙を流している人もいたりした。

來帆は、ここが地震の避難所になっているのだと理解した。


だが、相変わらず自分がここにいる理由が分からなかった。


(また、突然、移動している…。)


來帆がいぶかしがっていると、向こう側から男性が向かってきて声をかけきた。


「…大丈夫ですか?」


その青年は自分よりも2,3歳年上のように見えた。

少しもの悲しい顔をはしているが、ニコリとした顔は自分に安らぎを与えるような優しい顔だった。


「僕が救助活動をしているときに、倒れていたから連れてきたんですよ。

医者の話では休ませていれば大丈夫ということでしたのでこちらに。

気がついて良かったです。さぁ、これをどうぞ。」


その青年は、そう言うと、おにぎりと味噌汁を差し出した。


(ぐぅ~)


來帆は食事の匂いでお腹が鳴ってしまったため、顔を赤らめた。


「あ、ありがとうございます…。は、恥ずかしい…。」


「いえいえ、元気な証拠ですよ。」


青年はニコリとすると、話を続けた。


「あなたは…、あの家に住んでいたのでしょうか…?」


「…はい、昔住んでいました。」


「昔…?」


青年は來帆がおかしな事を言うと思った。

自分の家に住んでいたとはどういうことだろうと。

だが、着ている服から何となく事情を察した。


「もしかして、入院していたんですか…?えっと、石河來帆さん…かな…?」


「……!」


來帆は自分の名前を言い当てられて驚いた。


「すいません。驚かせてしまいましたね。その服に名札がついていたから…。」


「えっ!あぁ、本当だ…。」


來帆は自分の上着の右上に名札がついているのに気づかなかった。


「その患者衣は、遙か南の方にある病院のものですよね…?随分、歩いたでしょう…。」


「は、はい…。い、痛っ…。」


來帆は返事をして足を動かそうとして、足に痛みを感じた。

よく見ると、足が傷だらけになっていた。


「消毒だけしておきました。」


「あ、ありがとうございました。」


來帆は、目の前の青年が自分の足に触れて治療してくれたのかと思うと恥ずかしくなった。


そして、自分の置かれた状況を聞きたくて、唐突だと思ったが、藁にもすがる思いで青年に聞いた。


「わ、私は、どうしてあの病院にいたのでしょうか?

変な事を言うかもしれませんが、気づいたらあの病院の外で寝ていたんです…。

一体何が起こったのでしょうか?

色々なところの家が倒れているし…。

亡くなった人も沢山いて…。

…大きな地震が起こったのでしょうか?

突然、どうして…?

私、どうしたら…良いのでしょうか?

こ、今年は何年なんですか?」


混乱した頭のままで聞いたので自分でも何を聞いているのか分からなくなってしまった。


「ご、ごめんなさい…、色々と聞いてしまって…。分かるはずありませんよね…。」


青年は困った顔をするでも無く、


「突然、意識が戻ったということですか…。あぁ、それでか…。」


と、言い、來帆の頭の後ろをキッと睨んだ。


「何かご存じですか?!」


青年は、睨んだまま、來帆の肩をぽんと叩いた。


「はい?す、すいません。怒っています…よね…。突然、質問したから…。うん…?」


來帆は何故、肩を叩かれたのか分からなかったが、身体がすっと軽くなるのが分かった。


「あれ、身体が軽くなった…?な、何をしたんですか…?」


「はははっ、ちょっとした邪気払いをしただけです。酷い経験をしたようですね…。」


「えっ?」


「…驚かないで下さいね、今年は、20xx年…です…。」


「!!!」


來帆は自分が最後に見たカレンダーは6年前だったから呆然として、自分に一体何が起こったのかと思った。


「ごめんなさい、驚きますよね…。」


「……。」


青年は放心状態の來帆に、


「可哀想に…、記憶が無くなってしまうぐらい恐ろしい事が起こって、心の奥に隠れてしまって、身体は誰かに操られてしまったのか…。

いや、あの霊はもっと前から君のそばに…。」


と、來帆の状況を把握しているかのように言った。


「えぇ…?心に隠れてしまった…?で、でも確かに…、私は6年間の記憶が無い…。

身体を操られていたって、どういう事でしょうか…?」


青年は來帆の疑問には答えないで別の質問をした。


「…石河さんのご両親は…?もしかして、この地震で…。」


「地震…。やっぱり、大きな地震が…。」


來帆は倒れる前に見た女性の腕を思い出した。

確かにあの指は母親のもの、自分の知っている父親との結婚指輪だった。


「…お母さん…。あれは確かにお母さんでした…。」


青年も來帆を助けるときに女性の遺体を見つけたが、何も応えなかった。


來帆は最後に見た父親と母親の顔を思い出した。

自分が迷惑をかけたにも関わらず優しく見守ってくれた父親と母親、今となってはその優しさが懐かしくて、その胸に飛び込みたかった。


「お父さん、お母さん…。もう一度会いたかった…。うぅぅ…。」


來帆は涙が止まらなくなっていた。


「私は、どうして、お父さん達と離れてしまったの…?どうして…?」


「……。」


來帆は自分の家で愛那の幻を見たのは何となく覚えていた。

だが、突然、目が覚めると倒壊した病院にいた。

混乱して涙を流す、來帆が肩をふるわせていると、


「ごめなさい…。」


青年がいきなり謝りだした。


「えっ、どうして謝るんですか…?

ごめんなさい、私の方こそ、いきなり泣いたりして…。

それに、助けて頂いて、お礼を言いたいぐらいです…。」


「…石河さんが泣かれるのも無理はないと思います…。」


「……。」


「…え、えっと…、し、しばらくは、ここにいれば大丈夫…です…。」


「は、はい…。…えっ!」


來帆は青年が目に涙を貯えていることに気づいた。


(男の人が泣いているとこを初めて見た…。でも、何故…?)


「…すいません、僕は行きます。まだ助けを求めている人がいるかもしれませんので…。」


青年は來帆に涙を見せないようにするため、立ち去ろうとするのが分かった。


「は、はい。あっ、ありがとうございました。あの、お名前は…。」


「…僕の名前は、池上良信…。石河さん、私が言えた義理ではありませんが…。」


「???」


「やけにならないで自分をしっかりと持って下さい…。」


池上と名乗る青年は背中を向けて顔を來帆に少し向けるとそう言った。


「は、はい。」


自分をしっかりと持てと言った言葉の意味はピンとこなかったが何故か説得力があり、來帆はその言葉を心に刻んだ。


「(ごめん…。)」


池上と名乗った青年は、小声でそう言うと急ぐように体育館の出口に向かって走って行った。

だが、急に立ち止まると、


「…うん?…アイナ…、慰めてくれるのかい…?ありがとう。

えっ、あの子は君の知り合い…?そうか…。」


池上は誰かと話しているような独り言を話していたが、


「愛那…?!」


來帆は、池上が"愛那"と言ったのでドキッとした。


「い、池上さん、愛那って?あっ!」


來帆は声をかけたが聞こえなかったのか、池上は走って行ってしまった。


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