生き残った者
後の人は、マグニチュード9の直下型の地震であると説明した。
だが実際には、断層がずれて起こる地震の類いでは無かった。
この地震の震源地は、太田町にある大学の浅い場所だった。
何かが上空から一箇所に抜けるように落ちて、その衝撃が広がった地震だった。
その衝撃は大学から波紋のように地面に伝わり、その波は衰えること無く広がったため、耐えきれる建物はほとんど無かった。
人々は建物から逃げる時間も、机などに隠れる時間も無かった。
昼時だったので、様々な家庭で火が使われていて、あっという間に火事も広がった。
激しい揺れが街中を覆い尽くした後は、倒壊した建物で潰されたり、数メートル規模で陥没した地面に落ちたりした人々が無残な姿をさらしていた。
幸い、雨雲が急速に広がり、倒壊した建物や、広がった火事に雨が降り注いだ。
あらゆるものを洗い流すように降る雨は何者かの涙のようにも見えた。
來帆が気づいたのは、翌日だった。
「う…、うぅぅ…。」
崩壊した病院を目の前に來帆は何とか身体を起こすと、完全に"自分"を取り戻した。
「えっ…。どこなの…ここは…。酷い瓦礫…。地震でもあったみたい…。」
來帆はキョロキョロと周りを見たが、瓦礫だらけの場所に自分がいるので、何が起こったのか理解できなかった。
地震の際、來帆は奇跡的に窓から外に投げ出されたのだった。鉄格子は倒壊と共に外れていた。
「私…びしょびしょ…。クシュンッ!」
ただ、自分の服が濡れている事だけは分かった。
周りを見渡すと地面が濡れているので、雨で濡れたのだと分かった。
「じ、地震が起こって、その後、雨が降ったのね…。クシュンッ!さ、寒い…。」
至る所でしずくの垂れる音がしていた。
裸足のまま來帆は、しばらく周辺を歩き回ると、いつも電車で見えていた、丘の上にある病院だということが分かった。
「ここ…病院…?何でこんなところに私…。
…この服、患者衣…?私、入院していたの…?どうして…?」
來帆が不思議に思ってさらに歩き回っていると恐ろしい光景が目に入った。
「!!!」
來帆は、吐き気に襲われて口を手で押さえた。
「うっ…!」
よく見ると瓦礫に挟まれて息をしていない患者や、看護師が何十名もいるのが分かったからだった。
「ひどい…。」
自分が雨と共に流れた血の上にいることも分かって飛び上がるようにして、それを避けた。
「わ、私だけは助かったということ…?」
來帆以外に生きている者はいないように思われた。
「そ、そんな…。」
來帆は、病院のスリッパを見つけると、それを履いた。
「わ、私…、どうしたら良いの…?
そ、そうだ…、家は?
お父さん、お母さんは無事なのかしら…。
家に帰らないと…。」
來帆は、丘から街を見下ろすと、更に恐ろしい光景が目に飛び込んできた。
家はほとんどが倒壊しており、色々なところから煙が出ている。
どこからか叫び声も聞こえて来て、來帆は恐ろしくなって逃げるように走り出した。
途中、底の見えない地割れの起きた道路の上で、何度もスリッパが脱げそうになった。
「はぁ…、はぁ…。」
來帆は、死亡した人を見ては目をつぶり、叫び声が聞こえれば耳を塞いで必死に走り、何とか、父親の権力で通した路線のところに到着した。
海と山に囲まれた線路は、地震のせいで曲がりくねり、遙か彼方まで続いていた。
「これに沿っていけば、帰れる…。」
來帆は混乱した頭を整理できないまま、自分の家に向かって歩くことにした。




