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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
もう一つの最後 - いじめっ子少女 來帆 -
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災害

その病院は丘の上にあり、街を一望できる位置にあった。

近隣住人も何の施設なのか分かっておらず、窓に付いた鉄格子が異様に見えるだけだった。

そんな鉄格子を除けば普通の病院のようにも老人ホームのようにも見えた。


病院の二階にある病室では、うつろな目で空を見つめて独り言を言う少女がいた。


「悪い子…、悪い子…、死んだ方が良い…、私なんて、死んだ方が良い…。」


自分を責めるような言葉を繰り返す少女の右手は自分で切った傷跡がいくつも残っていた。

極端なうつ病患者には、刃物を持たせないようにしていたのだが、いつの間にか手にして自分を傷つけていたのだった。


やがて病院のチャイムが12時を告げて、食事の時間となった。


「石河來帆さん、お食事の時間ですよ。」


看護師は、少女のところに食事を持ってくるといつものように声をかけた。


「悪い子…、悪い子…、悪い子は食べたら駄目…。」


來帆は、看護師の声には耳を貸さず、食事にも目を向けることは無かった。

看護師は、机の上に食事を置くと、この哀れな少女を見つめた。


「…若いのに、可哀想に…。」


6年前に入院した頃は、何かに恐れて暴れ続けていたが、今では薬のお陰で暴れ回らないようになった。

だが、考える能力を奪われた人間になっただけであり、治療には疑問を持っていた。


「これって本当に治療…?ううん…、私が考えても仕方が無い…。」


諦めたようにつぶやくと、


「朝食は取ったのね。それでは片付けるから、昼食も食べて下さいね。」


看護師は、朝食の後片付けをして、病室を出ようとした時、突然、ドゴーンッと大きな音が鳴り響いた。

その音があまりも大きかったので腰を抜かして倒れてしまった。


「えっ、何の音なの…?」


看護師は、雷が落ちたのだと思った。

雷が近い場所に落ちたので、聞いたことも無いような大きな音になったのだと思った。


だが、立ち上がって窓の外を見ても、一箇所だけ不思議に雲が集まっている以外は、真っ青な青空が広がっているだけだった。


「変ね…。」


そう思った直後、看護師は、小さな揺れを感じた。


「じ、地震…?」


看護師は身構えたが、たまに起こる震度1か2の地震だろうと思った。

だが、揺れは収まらず、徐々に大きくなっていくのが分かった。


「えっ?!えっ?!」


更に揺れは激しくなり、看護師は、立っていられなくなった。

病院中で様々な物の倒れる音がすると、その看護師は始めて事の重大さが分かった。


「た、大変っ!」


しかし、事はすでに遅かった。

病院は柱にヒビが入り始め、あらゆる窓が割れ始めて、倒壊しかけていた。

看護師や、患者は激しい揺れのため、動いて避難することも出来ず、パニックになっていた。


「に、逃げ…。」


看護師はそう言った時、天井の一部が看護師めがけて落ちてきて、逃げる間もなく命を失った。


「ぐがっ…。」


來帆は、そんな看護師を見て、自分もそうなるのだと悟った。


「あぁ、ゆるしてくれるのね…。あいな…。」


その声は倒壊する音でかき消されるだけだった。


[[えにし]]

「妄想は光の速さで。」第2重力子 第7部分 遙か上空の彼方で

https://ncode.syosetu.com/n7232dh/7/


履歴:

2018/12/09 リンクを追加

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