虐めの加害者
ロウア達の時代から1万年2千年後、日本の太田町という地方都市だった。
ロウアの肉体に宿った池上は、この時代で大学生時代を送った。
その池上が大学生になる数年前の事だった。
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その少女は、教室にいつものように到着した。
すると同級生の永原愛那(イツキナの未来世)が座っていないので違和感を感じた。
愛那の机には、自分が昨日マジックで書いた文字が残っていた。
"死ね!"
"バカ!アホ!"
"学校に来るな!"
"えらそうにするな!"
その少女は、我ながら辛辣だと思ったが、自分に楯突いた愛那を許す気持ちにはならなかった。
数ヶ月前、自分が虐めていた女生徒を守るように愛那が自分を怒ったので、許せず、虐めのターゲットを愛那に変更して虐め続けていたのだった。
(ふん、自分が悪いんだ。)
虐め始めると強気だった愛那の顔が徐々に弱気になっていくのが愉快だった。
それからは、愛那を見る度にイライラとしてしまい、とことん虐めてしまうのだった。
やがて朝礼の時間になったが、愛那は教室に現れなかった。
少し遅れて担任の教師が神妙な面持ちで入ってくると衝撃的なことを生徒達に話した。
「…昨日、永原 愛那さんが、ご自宅で亡くなられました…。」
(えっ!)
一斉に教室はざわついたが、担任は、永原愛那の死因については何も言わなかった。
だが、ほとんどの生徒達は、同級生の死の原因が分かった。
分かっていたが何も言えず、誰もが沈黙を貫いていた。
一番、恐怖を感じたのは、虐めていた当人である少女だった。
そして、一緒に虐めをしていた友達を見ると下を向いていたり、肩をふるわせていたりしているのが分かった。
教師は明らかな虐めを証明するような愛那の机を見ていられず、出席を取るとさっさと職員室に戻った。
一時間目が始まるまで時間があったので、少女の周りに"虐め仲間"が集まった。
「來帆…、まずいよ…。」
「どうするの?やばいって…。」
その少女、石河來帆は友の声にどう答えて良いのか分からずにいた。
「…大丈夫だって、バレないよ。気にしないでいいってっ!」
だから、適当な事を言うしかなかった。
「そうかなぁ…。」
「…私怖い…。」
「だけど、聞かれても余計なことを言わないようにしよう。」
そして、友達が正直に全て話してしまうのを恐れて、予め釘を刺しておいた。
翌日、机は誰が変えたか分からないが、綺麗な机に交換されていて、その上には花瓶と花が挿してあった。
椅子は誰も座らないため、撤去されていた。
來帆はそれを横目で見ただけで机に座った。
いつものように朝礼が始まって出席を取ると、教師は少女達が恐れていたことを言った。
「石河さん、三上さん、川上さん、後で職員室に来て下さい…。」
少女達は自分らが呼ばれたので、急に恐怖に襲われた。
ついに、加害者の自分達が呼ばれた。それは同時に学校側が実体を知っているという事だった。
三人が職員室の担任のところに行くと、校長室の横にある生徒が入らないような面談室の前で待たされた。
そして一人一人呼び出されて事情を聞かれた。
三上、川上と最後に來帆と、明らかに、首謀者の前に事情を集めておき、証拠を集めようとする手法に思われた。
三上と川上は面談室から出てくると涙を流しており、來帆と目を合わせるのを避けるように教室に戻っていった。
そして何も言わず教室にいそいそと戻っていった。
「石河、入れ。」
最後の來帆の番になって、面談室から主任担当の声が聞こえると來帆の恐怖は頂点を迎えた。
「は、はい…。」
面談室には、学級の主任と、担任が椅子に座ってこちらを見ていた。
「そこに座れ。」
主任は、担任と同じ男性であったが、すごみがあり、來帆は殴られてしまうのではないかと思った。
「は、はい…。」
「お前、呼ばれた理由は分かるな。」
「い、いいえ、わ、分かり…ません。」
來帆は誤魔化そうとしたので主任は、その瞬間激怒した。
「お前っ!!何をしたのか分かっているのかっ!!!」
「!!!」
大人の怒りの声は中学生の少女では耐えられないぐらいの恐怖だった。
「人が一人死んでるんだぞっ!!こっちが分からないと思っていたのかっ!!!
永原はお前たちのせいで自殺したんだっ!!」
「……!」
來帆は顔から血が引いていくのが分かった。
主任の自殺という言葉で、自分がやってしまったことの重大さをやっと理解した。
「お前たちが永原を虐めていたことを認めるんだなっ!三上と川上は認めたぞっ!」
「……。」
來帆は、二人が自分と目を合わせかなった理由が分かった。
「聞いているんだっ!応えろっ!!!」
「は、はい…、私たちが…、い、い、虐めて…まし…た…。」
そう言うと、來帆はわんわんと泣き始めた。
「お前のその苦しみ以上に、永原は苦しんだんだっ!!分かっているのかっ!!」
「…は、はい…、ごめん…なさい…。う、うぅぅ…。」
「もう戻れっ!このことはお前の両親にも伝えるっ!!」
來帆は厳格な両親をこれを聞いたらどうなるのだろうと思うと怖くて仕方がなかった。
教室に戻ると、すでに一時間目が始まっていて、静かに扉を開けたが誰もがこちらを見ているのが分かった。
涙で顔がぐしゃぐしゃになっている顔を見られるのは恥ずかしがったが、どうにも出来なかった。
友の顔をちらっと見たがすぐに目をそらして下を向いていた。
やはり、同じように主任から怒られたようだった。
來帆は放課後が来なければ良いと思っていたが、時間は残酷にも過ぎ去り、自宅に戻らざるを得なかった。
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來帆の自宅は学校から電車で数駅過ぎた先にあった。
所謂、高級住宅街にあり、來帆の父親はこの地方では誰もが知っている大きな地主だった。
海に接した太田町に国道と電車を地方議員を応援して通すことに成功して、土地を鉄道会社や企業に貸すことで莫大な利益を得ていた。
來帆が通う中学校も父親が持っていた土地だった。
落ち込んだまま來帆は、家に到着するといつものように扉を開いたのだが、いつもより重く感じて開けるのに苦労した。
來帆が自宅に戻ると居間に父親はタバコを吹かして座っていた。
父親からは、子どもの頃から厳格な教育をさせられていたので、來帆は父親の前では何も言えず、大人しくしているしかなかった。
そして父親も母親も家にいることは少なかったので孤独な幼少期を過ごしていた。
來帆は父親が早い時間に自宅に戻っていることに驚き、すでに学校から連絡を受けているからだと覚悟した。
「た、ただいま…、お、お父さん…。」
「來帆…。」
來帆は自分の手足が震えるのが分かった。
「お前…、全く面倒をかけて…。」
「あ、あの…。」
「だが、安心しなさい。こんなくだらない事はすぐに処理させるから。」
「えっ?!」
來帆は父親が何を言っているのか分からなかった。
「俺が悪いんだ。お前を一人にさせてしまったからだよな。」
「お、お父さん…。」
その瞬間恐怖で震えていた手足が収まり、來帆は父親の胸に飛び込んだ。
「お父さん…、ごめんなさい…。」
「良いんだ、悪かったな。しばらく学校は休みなさい。悪いが別の学校に転校してもらう。」
「転校…?」
來帆は気心の知れた友達を失うのは悲しかったが、仕方ないと思った。
「は、はい…、お父さん、ありがとうございます…。」
「さ、自分の部屋に戻りなさい。」
「わ、分かりました…。」
こうして、圧倒的な権力を持つ來帆の父親で永原愛那を虐めたという事実は消し去られた。
永原愛那の両親もマスコミを使いながら抵抗をしたが結局全て押さえ込まれて全て無かったことにされた。




