あの時の姿
ロウアとアマミルは病室に戻ろうと屋上の入り口から病棟に戻ろうとした。
だが、いつもは先頭を切って歩いているアマミルがロウアの後ろを歩いていたので、ロウアは違和感に包まれていた。
(あれ、なんで先を歩かないんだろ…。)
そして、自分の上着の隅っこを掴んでいるのが分かってさらに驚いていた。
やがて、イツキナの病室に入ると、カウラがロウア達を見て声をかけた。
「戻ったのかい?…青春だなぁ。」
カウラはイツキナが出て行って、それを追っていったロウアを見て、青春時代の甘酸っぱさを感じていた。
いつの間にか、ロウアの上着から手を放していたアマミルは顔を真っ赤にしていた。
「せ、青春…?!」
ロウアは何を言われたのかさっぱり分かっていなかった。
「あははっ!」
ロウアがよく見ると、霊体となったイツキナもニヤニヤしてこちらを見ていた。
(ふふふっ!アマミルも正直じゃ無いのよね。)
(こいつもこういうのが分からないんだ。)
それを聞いた魂のロウアは他人の思いを感じないロウアをあざ笑った。
(はぁ、鈍感なのかしら。)
(絶対にそうだ。ほっとけ。もう。)
ロウアは二人が何か自分の事をバカにしているのでムッとしたが、イツキナを戻さないといけなかったので準備を始めた。
「イツキナ先輩を戻しますっ!」
「あれ?時間で自然に戻るわけじゃ無いのか。」
カウラは自然に戻るのだと思っていたので少し驚いていた。
「うん、勝手に戻れるわけじゃなくて…。僕がいないと戻れない…。」
「はぁ、なるほど。お前の存在は重要なんだなぁ。」
「じゃあ、やるね。」
ロウアはそう言いながらコトダマを切ろうとしたが、相変わらず魂のロウアとイツキナ、さらに、髪の短い女神や、メメルトも混ざって霊体だけの会話ががわいわいと続いていた。
ロウアはそれを見てムッとしていたが、コトダマで戻してしまおうとした。
「戻しますよっ!!」
(あらあら、ロウア君を怒らしてしまったみたいね…。)
イツキナはさすがに気づいて申し訳ないと思った。
<<ワ・キタ・キト・ンホホ!>>
(ん?あれ?)
だが、戻るサインはもらったはずだったが、イツキナは一向に身体に戻らなかった。
(どうしたんだい?)
女神は戻らないイツキナをいぶかしがった。
(戻りませんね…。)
と、身体に戻らないイツキナをメメルトも不思議に思っていた時、ロウアが叫んだ。
「し、しまったっ!!」
だが、すでに遅かった。
アマミルは、目覚めたイツキナの目つきが明らかにいつもと違うため、驚いていた。
「イ、イツキナ…、あなた…。」
それを証明するようにロウアがさらに叫んで目の前の人間を睨んだ。
「お前は誰だっ!」
「やだなぁ、イツキナよ!」
目覚めたイツキナはベットの上に立って、そう言った。
「違うっ!お前は誰だっ!すぐに身体から出て行くんだっ!」
「ふん、これは私の身体っ!身体、身体、身体っ!!やったわっ!!!
あの子にそっくりで気持ちが悪いけど、まあいいやっ!」
その声は明らかに別人の声だった。
そしてベットの上に立ち上がると、ロウアが驚くような事を言った。
「日本語を話すあなた…。
あまりに久々に聞いたからあの時は気づかなかったけど、そうか貴方もあの災害に巻き込まれた人だったのね。」
「えっ?!」
そう言うと、イツキナの肉体をかぶった別人は、すっとベットから降りて、病室の窓から外に出て行ってしまった。
「あっ!し、しまったっ!」
ロウアが窓に駆け寄ったがどこにも見当たらなかった。
「ロ、ロウア君、メメルトさん、探してっ!」
(お、おう…、分かったぜ…。)
(は、はい…、ごめんなさい…。)
誰もが油断していたため、何が起こったのか理解するのに時間が掛かった。
「油断してしまった…。」
ロウアは冷静さを失って油断した自分を責めていた。
そして、アマミルは腰を抜かして呆然としてしまっていた。
「イ、イツキナが、走った…わ…。」
「ど、どうしたというんだ…。イツキナ君が、は、走っていったぞ…。
これもお前のコトダマというやつのせいなのか???」
カウラも驚きの表情でロウアに問い詰めた。
「ち、違います…。やられてしまいました…。イツキナ先輩の身体が誰かに取られてしまいました…。」
「えっ!!身体が乗っ取られただって…?!そんなこと…。」
「……。」
アマミルは、走り去ったイツキナの姿がまだまぶたに残っていて力が入らなかった。
走り去ったイツキナは、運動競技をしていた頃のそのままだったからだった。
「アマミル先輩。僕も探しに行きます。」
「え、えぇ…。」
ロウアの声にアマミルはそう答えるだけしか出来なかった。
(私も行くよっ!)
髪の短い女神もロウアに従った。
後には、呆然とするアマミルとカウラ、そして身体を失ったイツキナが残った。




