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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
幻化体
133/573

兄さん、兄貴、カウラさん

イツキナの脊髄を再生させるための治療がロウアのコトダマとこの時代の治療によって数回続いた。

脊髄の再生治療にもかかわらず、痛みを感じない患者がいるという噂が、"人間"の医者にもさすがに知れ渡ってしまった。

そのため、同席したいと言う医者が出始めた。


「困りました…。」


コトダマという自分でも理解できないような魔法を使っているとは説明も出来ないので、ロウアは困ってしまった。


「そうね。だけど、嫌だとも言えないし…。」


アマミルもどうして良いか分からないと言った顔をしていた。


「コトダマを知って欲しくないんですよね…。」


「それそれ、そういえば、どうしてなのよ?」


「こんな魔法を使っている人間がいたら実験材料にされるだけですよ…。

もしくは監禁されて精神病人扱いになるかも…。」


ロウアは池上だった時代に自分の能力のせいで精神病院に閉じ込められたことを思い出した。

あんな恐ろしい思いはしたくないと思った。


「はぁ、そうかもしれないわね…。どうしたら良いのかしら…。」


「医者の後ろでコトダマをやってみようかなぁ。」


「…だけど、イツキナが光っちゃうのはどうするの?」


「…あぁ、そうでした…。」


メメルトの時もそうだったので想定されていたが、肉体から魂が外れるときに何故か身体が一瞬光ってしまう現象が起こった。

それはさすがに隠すことが出来ない。


「…う~ん。」


「あぁ、そうだっ!」


「どうしたんですか?」


行き詰まっていたが、アマミルはあることを思いついた。


「カウラさんはどうなの?君のお兄さんに相談してみようよ。」


「えっ!兄ですか…。」


ロウアは、兄…、つまり自分の過去世なら理解できるかもしれないと思った。


「どう?カウラさんなら信用できると思うの。」


「…分かりました。兄に相談してみましょう。」


「うんっ!君の身内だしね。」


(身内というか大昔の自分…。)


(まぁなっ!この頃、分かってきたけど、お前の魂の姿と兄貴はよく似てるな。)


ロウアが心の中でぼやくと魂のロウアが反応してきた。


(んだよ、気が進まないって顔しているぜ?)


(カウラさんと話すと自分と話しているみたいで違和感があってね…。

苦手って言うのかなぁ…。こういうの…。自分と話すのが苦手って、なんだろこれ…。)


(らしくないな、お前がぼやくなんて。)


(そうかな…。)


(ま、何とかなるって。)


こうしてロウアとアマミルはカウラを訪ねることにした。


-----


「まだ、あの研究室にいると思うのよっ!」


「この病院でしたよね。」


イツキナは幸いなことに、カウラ達の研究室のあった病院に入院していた。

だからロウア達はカウラの研究室を訪れることにした。


「さ、着いたわ。懐かしいわ…。6年も前だったなんて…。」


アマミルは6年ぶりに訪れた研究室の前で、あの時もドキドキしながら入ったことを思い出していた。

扉にはインターフォンもあったが、扉を叩いて呼び出した。


コンコンッ…


「はいっ?」


反応したのは、カウラと同じ研究室にいたオサだった。


「おぉっ!!!アマミルちゃんかっ!久しぶりだねっ!」


「こんにちはっ!お久しぶりです。」


オサは久々に訪れたアマミルを見ると喜んだ。

だが、ロウアはオサの顔見て驚いた。


(あぁ…、大崎…。)


(また、未来の知り合いかよ。)


魂のロウアが話しかけるまでも無く、この目の前にいるオサは、大崎 孝治の過去世だった。

ロウアが池上だった時に大学の研究室にいた大崎は、この時代でも"一緒"に研究をしていることになる。


(これも縁なのかな…。)


「あの後、ご挨拶も無くて申し訳なかったです…。」


アマミルが恐縮していると、オサはニコリとした。


「なんだよ、水くさいなぁ。そんなこと気にしないでいいさ。

さ、何も無いけど入ってよ。ん?彼氏かな。君もどうぞ。」


「違いますっ!」

「違いますっ!」


二人がハモるように否定するのでオサは吹いてしまった。


「わ、私はカウラの弟のロウアと申します。」


「えっ!君がカウラさんの弟さん?!いやぁ、アマミルちゃんと知り合いだったの?へぇ~。」


そして、自分達の室長の弟がアマミルと一緒に来たのに驚いた。


二人はオサの案内で研究室に入った。

研究室は色々なところにロネントのパーツが散らばっていたり、見たことも無いような部品があちこちに散らばっていたりした。

とても綺麗とは言えないが、実験道具などが散乱していた大学を思い出して、ロウアは少し懐かしく感じた。


奥にはもう一人、何か作業をしている人もいた。

よく見ると、その人の指の動きと同調するようにロネントの指が動いていた。


その人も部屋に誰かが入ってきたので気づいてこちらに向かってきた。


「ん?誰かと思ったら、アマミルちゃんか。」


「はい、お久しぶりです。エハさん。」


「久しぶりだねっ!」


ロウアはこのエハという人を見てまたかと思った。


(今度は、荏原か…。)


この人も大学で同じ学生だった荏原真一の過去世だった。


(過去世の人は顔が同じだからすぐに分かる…。遺伝で顔って変わるはずなんだけど…。)


(顔が似ているのか?なんだ、お前のことだからお前の魔力かなんかで感じているのかと思ったぜ。)


(魔力って…。魔力なんて使ってなくて、不思議なんだけど、顔がそっくりなんだ…。みんなね…。

そう、君もね。)


(俺は永原って奴だっけ?)


(うん…。)


「どうしたんだい?彼氏を紹介に来たのかい?あははっ!」


「違いますっ!」

「違いますっ!」


またしても同じような事を聞いて来たので二人は再びハモるように否定した。


「お?息がぴったりだなぁ!」


「え、えっと、カウラの弟のロウアと申します。」


そして、ロウアが自分の紹介をするのも同じだった。


「えっ!!君が?!」


エハも同じ反応だったのでロウア達は顔を見合わせて笑ってしまった。


「座ってよ。見ての通り汚いけど、お茶ぐらいなら出せるからさ。」


「オサさん、ありがとうございます。」

「はい。」


オサに促されて二人は研究室の隅に置いてあるソファに座ろうとしたが、ガラクタが置いてあって座れなかった。


「すまん、すまん。適当にどけといてくれ。」


オサの言われたとおり、ガラクタをどかそうとしたが、どかしきれず、二人は窮屈な状態で座った。

そして、オサがお茶を入れてきたが、実験用のビーカーだったので二人はずっこけてしまった。


「コップが見つからなくてね…。」


オサは申し訳なさそうにしていた。

だけど、ロウアはこの時代でもビーカーに目盛りが付いているのでクスッとした。


「それで、どうしたんだい?」


オサは、お茶を持ってきて向かい側のソファを、やはりガラクタをどかしつつ座ると質問してきた。


「えっと、カウラさんにご相談したいことがあって…。お会いしたいのですがいらっしゃいますか…?」


アマミルは要件を伝えた。


「カウラさんか。今は外に出ていて、いないなぁ。」


「君はカウラさんの弟さんなら、家で会えるのでは?」


オサはもっともなことを言った。


「はい、そうなんですが、少し急用がありまして。」


「変な兄弟だな。ツナクで連絡すれば良いのに。」


「あっ…。」

「…そ、そうだったわ…。。」


二人はあまりにも急いでいたため、ツナクのことをすっかり忘れていた。


「ぷっ、ちょっと抜けているところがカウラさんに似ているな。」


エハはそう言うと、大笑いしたのでロウアとアマミルは顔を真っ赤にした。


「す、すぐに伝えます…。」


ロウアはツナクでメッセージをカウラに自分達が研究室にいることを伝えた。


「もうすぐ戻るそうです…。」


「そうかい?それならゆっくりしていなさい。」


「はい、ありがとうございます。」


ロウアはお礼を言うと、色々なロネントのパーツがあったので目をキョロキョロとした。


「ん?ロネントに興味があるのかい?」


「はい、学校でロネントの部活に所属していますので。」


「おぉ、そうなのか。興味あるなら色々と見ていくといいよ。」


「オサさん、ありがとうございま…。」


ロウアはお礼を言おうとしたが、アマミルが自分をキッと睨んでいたのでギョッとした。


「…え、えっと、少し違いました…。ロネントを使って人助けをする部活です…。」


「はぁ、人助けだって?変わった部活だな。」


オサは不思議な部活に入っているのだと思った。


「人助けか、俺達もそんな感じかもな。」


エハは自分の作業に戻りながら話に加わっていた。


「俺達もか、そうかもな。あっはっはっ!」


そして、ロウアが興味あるところを見ているところをオサとエハが説明するといったことがしばらく続いた。

アマミルは暇だったのでイツキナとツナクでメッセージのやり取りをしていた。


しばらくすると、扉の開く音がしてカウラが入ってきた。


「おっ、本当にロウアがいた。お前が私の仕事場に来るとはな。」


「あ、兄貴…。」


ロウアは呼び慣れない呼び方でカウラを呼んだ。

魂のロウアがそう呼んでいたと教えてくれたからだった。

その顔はまさに自分の21世紀の時の顔であり、ロウアは自分に話しかけているような不思議な感覚だった。


「お前がアマミル君とイツキナ君の知り合いだったとはなぁ。すごい偶然だね。」


「う、うん…。」


「学校で同じ部活なんです。」


「うん?部活かっ!イツキナ君は、陸上部に戻れたのかい?」


カウラはそう言ったが、ロネントを使った状態では運動部は難しいと思ったのですぐに否定した。


「す、すまん…。運動系は難しいよね…。」


「は、はい…。学校で困っている人達を手助けする活動をする部活です。」


「おぉっ!それは良いっ!人助けなんて出来るもんじゃ無いぞ。」


「はい、ありがとうございます。」


「部活の名前は?」


「"霊界お助けロネント部"と言います。」


その名前を聞いた三人はきょとんとした。


「な、なんだって?」


「で、ですから、"霊界お助けロネント部"です…。」


アマミルは、もう一度聞かれてしまって少し恥ずかしいと感じてしまった。

それを察したロウアが助け船を出した。


「ロネントを使って人助けをする部活です、だよ…、兄貴。」


ロウアは出来るだけ、魂のロウアのように話した。

それでなくても話しにくいのに、いつもと違う口調でさらに話しにくいと思っていた。


「はぁ、そうなのかい?あれ、ロネント部は私も所属していたんだけど、どうしちゃったんだろう。」


「ロネント部とお助け部という部活が合わさったんです…、だ。」


ロウアが続けて説明した。


「ぷっ!なんとあの伝統ある部活がっ!あっはっはっ!」


カウラは自分の部活が合併されて変な名前になっていて怒るかと思いきや笑ったので、アマミルとロウアは驚いてしまった。


「い、良いの…かよ?自分の部が無くなったんです、だよ?」


ロウアはそんなカウラに疑問を投げた。


「良いさ、時代と共に色々と変わるのもね。しかし、"霊界"ってのが分からないなぁっ!」


「そ、それよりも、カウラさ…、兄貴、お願いがあって来たんだ。」


ロウアは説明に困って話を切り替えた。


「ん?そういえば、メッセージに書いてあったな。

それにしても、お前なんか話し方がおかしいぞ?」


「えっと…。」


アマミルとロウアはイツキナの治療について説明した。


「あぁ、イツキナ君はそんな治療を…。

我々のロネントでは、満足いかなかったのかなぁ…。」


カウラは自分達の発明したロネントを否定されたように感じてがっかりした。

オサとエハも同じだった。


「そんなことはありませんっ!」


だが、それはアマミルがすぐに否定した。


「皆さんのおかげで学校にも通えたし、部活も出来たし、友達もたくさん出来たんですっ!

だ、だけど、部活のみんながイツキナの身体の事を沢山、沢山…、考えてくれたんですっ!!

そしたら、イツキナが脊髄を治したいって言い始めて…。」


アマミルの強い説明で、カウラ達は納得した。


「…そうか。友達の気持ちが彼女を動かしたのか…。

だけど、脊髄の再生治療なんて成功するはずが…。

私も少しは知っているが、痛みでショック死するか、精神がおかしくなるかしか…。」


「はい、だけど、今、ロウア君の魔法で痛みを無くすことに成功しているんです。」


「えっ?ロウアの魔法?魔法って何だい?」


アマミルが魔法と言っても、当然、研究員の三人は理解できなかった。


「えっと…、それについてお願いが…。」


ロウアが病院の立ち会いについて依頼があった旨を説明した。


「うん?痛みを無くす魔法を知られたくない?

いやだけど、その魔法ってのが本当ならすごいことなんだが…。

医者にも診せた方が今後のことになると思うよ?」


「カウラさn…、あ、兄貴、申し訳ないけど、この力は説明が出来なくて…。

ぼ、僕にしか出来ないと思し…。」


「お前にしか出来ない?

う~ん、何をしているのか私も興味が出てきたよ。

一緒に立ち会えば良いんだね?」


「うん、お願いしま…したい。それで医者達に説明して欲しいんです、して欲しい。

というか、誤魔化して欲しいというか…。」


「だけど、僕も医者達に説明する責任が発生してしまうんだよ?分かっているのかい?」


「うん…。」


「まぁ、良いだろう。いずれにしても一度見ないとな。」


こうしてカウラは半信半疑であったが、ロウア達の話を聞いて立ち会うことが決まった。


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