幽体離脱レポート
「んん…、あれ…、あれ、あれ…?わ、私の身体が見える…。ロネントじゃ無いわよね…。」
イツキナは身体から離れて魂となって丁度、手術台の上にいて、自分を見つめていた。
「そうか、肉体から離れちゃったのか…。
あら…、ロウア君が手を振ってるわ…。
…んん?どうして顔に手のアザがあるのかしら…。」
魂が身体から抜けるとき、ロウアが何か切り離すような言葉を話していたのを思い出して、イツキナは自分に起こったことを理解した。
「それにしても、痛みもなくなったし不思議ね…。
ふふっ、アマミルの顔ったらっ!
まぁ、私の顔はそれ以上に酷いんだけど…。」
イツキナは自分のぐちゃぐちゃな顔を見てうんざりした。
すると後ろからロウアの声が聞こえた。
「なんだよ、自分で理解しちまったか。説明は不要だったな。」
イツキナが振り向くと目の前にロウアがいたので驚いてしまった。
「えっ?!ロウア君…???君も抜けちゃったの…?」
「あん?俺は俺だぜ?そか、分からないか。あそこにいる奴とは別人だ。」
「えっ?!違うの…?話し方も違うし…。」
「彼はイケガミ様が宿る前の身体の持ち主よ。イツキナ。」
イツキナはロウアの横にいる女性が自分の知った顔だったので更に驚いた。
「メ、メメルトッ!!」
「ふふっ、久しぶりねっ!」
「メメルト…。私あなたに何も出来ないで…。ごめんなさい…。」
「あははっ!あなたらしいのね。こんな時なのに、昔のことを謝るなんてっ!」
「…う、う~ん…。こんな時…、そうね。身体から抜けちゃったんだっけ…。」
「そうよっ?イケガミ様の力で痛みから解放させるために身体から魂が抜けてしまったの。
だけど、霊子線だけで何とかつながっている状態だから危険な状態なのよ…?」
「えっ!そう、そうなのね…。」
イツキナ自身は見えないが、頭から銀色の線が肉体の頭と結びついていた。
「だから、私とロウア様と女神様で守っているというわけ…。」
「女神様…?
…そういえば、あなた達、盾と剣なんて持って物騒ね…。」
「イケガミ様のお話だと、この間にあなたの身体を誰かに奪われてしまうかもってことらしいの。」
「えぇっ…、そうなのね…。
さっきから話しているイケガミ様って誰のこと?」
「そうよね、知らないものね…。
この方はさっきも説明したけど、あなたの知っているロウアという身体の元の持ち主なの。」
「そういうことだぜ?」
「えっ?それじゃ、イケガミ様って…。」
「話は長くなるけど…。身体にしばらく戻れないから大丈夫かな…。」
メメルトは知っていることをイツキナに説明し、魂のロウアもそれをサポートした。
「ま、まさかっ!今のロウア君、いえ、イケガミって人は、未来から来たの?」
「俺も信じられなかったがそうらしいぜ?」
「"イケガミ"ってそういえば、アルちゃんとシアムちゃんもそう呼んでいたわね…。
あだ名かと思っていたんだけど違ったのね…。」
「あの二人には説明済みだからな。半分ふざけて呼んでいるんだ。」
「はぁ、だからあんな魔法が使えるのね…。」
「あれは未来では使えなかったらしい。この時代で使えるようになったんだと。」
「そうなのね…。」
イツキナはロウアの不思議な存在感と魔法について何か分かったような気がした。
「しっかし、静かだな。やばそうな奴は来ないみたいだな。」
「そうですね…。良かったです。」
すると、髪が短くて輝く翼を持った綺麗な女性が上から降りてくるように現れた。
「見回ってきたけど、何もいないね…。」
「そうですか、良かったです。」
その女性は輝いているのでイツキナは眩しくて目が開けられなかった。
「眩しい…。」
「少し眩しかったかい?光りを落とすか。」
光りが落ちてきて、その姿を見るとイツキナはどこか懐かしいと思った。
「あ、あなたは…。あ、あれ…、私、泣いているの…?」
見たことが無いはずの彼女を見て泣いている自分に気づいて驚いた。
「私…、どうしたのかしら…。でも、とても懐かしい…。」
「久々だね。全くあんたは転生する度に苦労するんだからさ…。」
「いつもありがとうございます。師匠…。えっ、師匠…?」
イツキナは自分で話した師匠という言葉に驚いてしまった。
短髪の女性は、それを聞いて微笑んでいた。
その微笑みは自分を優しく包んでくれたようであり、何もかも信じられる人だと思った。
「女神様がイツキナとカウラさんつないでくれたのよ。」
「こら、メメルトッ!余計な事言うなって…。」
「ご、ごめんなさい…。」
「えっ…。そうなんですか…。ありがとうございます。」
「やれやれ…。
カウラって人に感謝するんだね。それとイケガミ様にもね。
身体と切り離すことでお前の痛みを和らげているんだからさ。」
「はい、助けてもらってばかりで申し訳ないです…。。」
「ま、私らは、何ももらえないけど、感謝でもしてくれりゃ、それでこっちも嬉しいのさ。」
「はい、感謝いたします、師匠。」
「ふふっ。」
そう言うと、女神と呼ばれた女性はイツキナを優しく抱きしめてくれた。
「あぁ、…師匠。いつもありがとうございます。」
イツキナは女神の胸の中で心が落ち着くのを感じた。
しばらくして、短髪の女神は一つの疑問をなげた。
「…それにしても、あのイケガミって人は、カウラって人にそっくりなんだけど。何なんだろ?」
「どうやら、俺の兄貴の未来の姿らしいぜ。」
魂のロウアは、自分の兄の未来世の姿であることを教えた。
「あん?そうなのかい…。イツキナ、お前はあの人に頭が上がらないねぇ…。」
「カウラさんの…?
えっと、カウラさんが最初に助けてくれて、未来から来たカウラさんも私を助けた…?
不思議すぎて、頭がおかしくなりそう…。」
「全くだよ。私も未来から来た人だって聞いても理解できなかったわ。
それにしてもあの光りの量…。
すごい人なのは理解できる…。」
「すごい方なんですね…。」
メメルトも感心していた。
そんなことを話していると短髪の女神は、ロウアからのサインに気づいた。
「うん?そのイケガミ様が、身体に戻しも良いかと聞いているよ?」
「はい、戻りますっ!皆さん、ありがとうございましたっ!!」
「おう、んじゃな。また治療があるから会えると思うぜ。」
「またね、イツキナ。」
イツキナは三人に手を振った。
そして瞬きをした瞬間に身体が重くなるのを感じた。




