離脱
一週間後、第二回目の治療が始まった。
今度はロウアもイツキナの治療に同席した。
「アマミル…、私、耐えられるかしら…。」
イツキナは何時になく弱音を吐いたため、アマミルも少し弱気になった。
だが、自分も心が折れてしまっては同席した意味が無いと思った。
(イツキナ…。あぁ、バカバカッ!私も弱気になったら駄目じゃないっ!!)
「私がそばにいるのよっ!頑張りなさいっ!」
「うん…。ありがとう…。」
しかし、前回の治療で見せたイツキナの顔を思い出すと、アマミルは彼女が本当に耐えられるか分からないと思った。
それを否定する気持ちと肯定してしまう気持ちで頭がごちゃごちゃになりそうだった。
「ロウア君もありがとうね…。私、酷い顔になっちゃうみたいだけど、嫌いにならないでね…。」
「嫌いになんて…。助けになるか分かりませんが、コトダマを使ってみます…。」
「君の魔法ね。」
「はい。大丈夫です。何とかしますから。」
「ふふっ、頼もしいのね。あなたを信じるわ。」
魂のロウアは、不安になって思わず声をかけてきた。
(本当に大丈夫なのかよ…。)
(話したとおり、リスクが高くて…。試してみるけど上手くいくかどうか…。)
(んだよ…、弱気だな。いつものようにあっと言わせてくれよ。)
(うん…。)
(だけど、お前の訳の分からん魔法に期待しているのか、この前より安心した顔しているぜ?)
人は、かすかな希望があるから挑むことが出来る。
魂のロウアは、そのかすかな希望をイツキナに与えているロウアに感心していた。
(おれにこんなもん着せるからには何とかしないと許さないからなっ!)
魂のロウアは、剣と盾を装備した姿だった。
(うん!上手くいくって。)
(あぁ、信じてるぜ。神官様っ!。)
イツキナは歯が割れてしまわないようにするためのクッションを噛んだ。
"ハジメル。"
医療ロネントがそう言うと、治療室に緊張が走った。
(あぁ、ラ・ムー様…。どうか…、どうか…。)
アマミルが祈るのと同時に、医療ロネントはイツキナの背中を切開して治療薬を投与した。
「ギギギギギィィ…ググググッ…。ギギギィィィ…。
あ"ぁ"、あ"ぁ"…。ギギギギギィィ…。」
イツキナは、一回目のように痛みで恐ろしい形相になっていた。
顔は涙などでぐちゃぐちゃになって、酷い油汗ですぐに手術台が濡れ始めた。
ロウアは、この姿を見て頭が真っ白になってしまった。
「…あぁ…。」
イツキナの苦しむ声がロウアの頭の中をこだまし続けて自分が何をやりに来たのか、何をどうすれば良いのか全てが消えてしまった。
「ロ、ロウア君…?ロウア君???ちょ、ちょっと…。」
「……。」
「ロ、ロウア~~~~ッ!バカっ!!!!何とかしなさいっ!!!」
ビシッ!!
それを察したアマミルは大声でロウアの名前を叫んで頬を思い切りビンタした。
「い、痛っ!!何するんですかっ!!」
「ロウアッ!君は何しに来たのっ!しっかりしなさいっ!!」
「な、何しにって…。」
ロウアは、イツキナを見ると自分がやらなければならない事を思い出した。
「あぁっ!す、すいません。」
そして、コトダマの文字を空に切ってその言葉を発した。
<<魂と身体を分かつコトダマ、ワ・キタ・キト・ンルル!>>
すると、イツキナの身体が見つめられないほど、強く光った。
「ま、眩しい…。また、この光り…。」
光りが収まると同時に、イツキナの苦しそうな顔は落ち着いた顔になり、眠ってしまった。
「し、静かになったわ…。眠っているの…?」
「いえ、えっと…、言わば死んでしまっている状態です…。」
「えぇっ?!死んでしまったっ?!」
「はい、息はしていますので正確ではありませんが…。何とか上手くいきました…。」
そう言いながらロウアはイツキナの身体の上に向かって手を振った。
「だ、誰に手を振っているのよ…?」
「イツキナ先輩です。」
「ま、待ってよっ!何を言っているのか分からないんだけど…。」
「治療が終わるまでしばらく待ちましょう…。病室でお話ししますよ。」
「う、うん…。本当に不思議な子ね…、あなたは…。」
大人しくなったイツキナを不思議に思った医療ロネントだったが一通り調べて何も問題が無いことが分かると、引き続き、治療を続けた。
再生治療の光の照射が終わり、病室に戻ったが、イツキナは静かに眠ったままだった。
「ロウア君、イツキナは大丈夫なの…?」
アマミルは、イツキナがあまりにも静かなので逆に不安になってしまった。
「はい。この前は落ち着くまでどれぐらいでしたか?」
「そうね、4時間ぐらいだったからしら…。」
「なるほど、僕と同じぐらいか。」
「それより、説明してよっ!イツキナどうなっちゃったのよっ!」
アマミルは訳の分からない状態だったのでイライラし始めてしまった
「あぁ、すいません…。今、イツキナ先輩の肉体と魂を切り離している状態なんです。」
「はぁっ?!そんなこと…。」
出来るわけ無いとアマミルは話しそうと思ったが、ロウアなら出来るのでは無いかと思った。
「そ、そう…。ちゃんと戻れるの?」
「はい、た、多分…。」
「なぁに?多分??自信が無いのっ?!信じられない…。このまま起きなかったどうするのよっ!!」
アマミルは、ロウアが自信なさげだったので更にイラついてしまった。
「い、いや、えっと…、す、すいません。何分、始めてなもので…。」
「はぁ…、あなたを信じるしか無いわね…。」
そして、ため息をするとあきれ顔でロウアを見つめた。
「は、はい…。」
「アマミル先輩、さっきはありがとうございました。」
「なぁに?…ぷっ、そうだったわね。ごめんね。ぷぷっ、あははっ!」
アマミルは自分が叩いたため、頬に手の跡が付いているロウアを見てふいてしまった。
「そ、そんなに笑わなくても…。何か付いていますか…?」
「だってっ!あはははっ!!!」
アマミルは友達の苦しみが消えたのを見て安心したのか、ロウアの顔を見る度にしばらく笑っていた。
そして、イツキナの治療薬が切れるまで、二人は仕方なく、昼食を取ったり、部活について話したりしながら時間を待った。
「そろそろ大丈夫かなぁ。…良いですか?」
「誰に聞いているのって…。あぁ、イツキナね…。」
「はい。イツキナ先輩は、良いそうです。」
そして、ロウアは魂を戻すコトダマを発した。
<<肉体と魂を結びつけるコトダマ ワ・キタ・キト・ンホホ!>>
すると、またイツキナの身体が光り、今までぐっすりと眠っていたイツキナが目を覚ました。
「ん、んん…。」
イツキナは未だ寝ぼけたような声を出した。
アマミルはその声を聞いて少し安心した。
「イツキナ…、良かった…。」
「あぁ、痛たた…。未だ薬が少し残っているわね…。」
「そうですか…、早すぎましたか…。」
「でも、これなら耐えられるわ…。ありがとう、ロウア君…。」
「アマミル、ごめんね。心配させちゃって。」
「良いのよ、それよりも平気なのよね?」
「うん、もう、ビックリよ、自分で自分の身体を見たわ。
でも、そうね。ロネントを操作している感じに近いかもしれないわ。
それに、空中を飛んでいるし、とても不思議だったわ。あぁ、楽しかったっ!」
「そ、そう…。楽しかった…?そう、良かったわ…。」
イツキナはアマミルの心配をよそに楽しそうに笑っているんで拍子抜けした。
「それに、メメルトにも会ったわ。ロウア君の秘密も分かっちゃったっ!
あと、師匠って人にも会ったわ。イタタ…。」
イツキナは嬉しそうに話したときに身体を動かし過ぎて薬が残っている事を忘れていた事に気づいた。
「そ、それは秘密のままでお願いします…。」
イツキナがロウアの秘密を話そうとしてしまったので、ロウアが慌てて止めた。
「えっ!それなによっ!」
「秘密らしいから、話せなくなっちゃったっ!」
「…ずるいっ!」
アマミルは二人のやり取りを見ていて、自分だけ取り残されたような感じがしてちょっとだけ寂しく感じた。
「ふふふっ!イタタ…。わ、笑うと痛い…。」
以前の地獄のような痛みの時間と比べると比較にならないぐらいの雰囲気だった。
イツキナは痛みが若干残ったままだったが、少し心地よいと思った。
その姿を見て、アマミルもロウアも安心した。




