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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
幻化体
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治療一回目

医療の一回目は、午前中に行われる事になっていたので、アマミルは授業を休んで同席することにした。

関係者以外を治療室に入れることは問題だったが、イツキナ本人の希望により許可された。


この時代特有の空中に浮いた車椅子でイツキナは治療室に入った。

車椅子は、ツナクトノから本人の意思を受け取って動いているので本人の意思で動いていた。

これもカウラ達の研究を応用したものだった。


治療室に二人が入ると、広い部屋に手術台がぽつんと真ん中に置いてあり、周辺にある機械類と医療ロネントの存在、そして治療用のメス、回復させるライトなどが目に入ってきて、その物々しさで二人に緊張が走った。


イツキナは、アマミルの肩を借りて手術台に座ると、背中が上になるようにうつ伏せ状態になった。

医療ロネントからは、口に挟むものを渡されて、それを口にくわえた。


アマミルはイツキナの手をしっかりと握って勇気が出るようにラ・ムーに祈った。


(ああ、ラ・ムー様、親友であるイツキナをどうかお守り下さい…。どうか、どうか…。)


組織を再生をするためには、再生する細胞を表面に出す必要があり、また再生能力を高める薬を塗らなければならなかった。

この薬は神経に作用するので想像を絶する痛みをもたらすのだった。

痛みを和らげるような麻酔薬は、再生能力を落とすので使えないので患者はしばらくこの苦痛に耐えなければならない。

さらにイツキナのような脊髄神経を再生させるという事は、痛みが全身に広がることを意味した。

今までこの治療をして耐え抜いた人間はほとんどいない。

耐えたとしても、痛みのため脳がおかしくなり、まともな精神状態でいられなくなるか、痛みによるショック死の例しか無かった。


医療ロネントは人間らしさを欠いているので淡々と治療を始めた。


"ハジメル…。"


そして、イツキナの背中の一部を切開した。

これだけでも相当の痛みだったが、医療薬が投与されるとイツキナの顔つきはその痛みで豹変した。


「グググッッッッ!!!ギギギギギィィ…。」


イツキナは涙、鼻水、口からはよだれも垂らして痛みに耐えていた。

友達の痛みに耐える顔をアマミルは見ていられなかった。


イツキナはアマミルの腕をつかみ、叫ぶような声を上げながら思い切りその腕を思い切り握ったため、痛みが走った。


「い、痛っ…。」


だが、その痛みは友の痛みの数万分の一だとアマミルは思った。


「ぐぁぁぁぁ、あぁ、あぁ、あぁ、ああああああああああ…。」


やがて友は意識を失って倒れてしまった。


再生させる光りの照射も終わって、背中の切開された場所は一旦、縫合されて病室に戻った。

シートはイツキナの流した汗でびしょびしょになっていて、顔も涙と汗、鼻水、よだれでグシャグシャになっていた。

アマミルはシートを交換してあげて、顔を拭いて上げた。

そして、またイツキナの手を握ってあげるのだった。


「あぁ、イツキナ…。」


やがてイツキナが目を覚ますとまた地獄が始まった。


「イツキナ、大丈夫…?」


「う、ううん…。…がぁぁっ!!!」


イツキナは一瞬だけ返事をしたが、痛みは引き続き彼女を苦しめるのだった。


「ぎゃぁぁぁぁ、あぁぁ、あぁぁ、ぎぃぃぃい、助けてぇぇぇぇっ!!!」


「イツキナッ!私ここにいるわっ!」


イツキナは何かの取り憑かれたような恐ろしい目でアマミルを睨むと叫び始めた。


「アマァァァッミルゥゥゥゥッ…、助けて、助けて、助けてっ!!!私を助けてっ!!!

痛い、痛い、痛いっ!!痛いぃぃぃぃぃぃぃ…。痛いの…。あぁぁ、あぁぁ…。

だ、駄目、これ、駄目…。無理無理無理…。

アマミル…。

グッ…、ギギギィ…。」


「イツキナ…、頑張って…。イツキナ…、私はここにいるからっ!」


「アマミルぅぅぅ、くそう、くそう、バカやろうっ!嫌い嫌い大嫌いっ!!!あんたなんて大嫌いっ!!

みんな大嫌いっ!!痛い、痛い、くそう、くそう、畜生っ!!!」


イツキナの言葉は正常なときに聞いたことも無いような言葉に変わっていった。

だが、その痛みがもたらした副産物だと思うしか無かった。


アマミルはそんな友達の姿を見て、予めもらっていた昏睡させる装置を使った。

それは今で言うライトのようなものであり、スイッチを押すと光りが出る。

その光りを目に当てれば、相手を昏睡させる非常用に近い装置だった。


アマミルは暴れ回るイツキナを抑えて何とか照射することが出来て、イツキナはそのまま倒れるように眠ってしまった。

だが、1時間もするとまた痛みで目が覚めて同じように苦しみながら罵詈雑言を言い、暴れ回る。

それをまた押さえながら眠らせるといった作業を数回繰り返した。


薬が切れる頃にイツキナは疲れ切って寝てしまっていた。

そして、また汗でシートが汚れていたので、アマミルは交換して上げた。


そんなところにロウアが病室を訪れた。


「イ、イツキナ先輩は大丈夫ですか…?」


「あぁ、ロウア君…。」


ロウアはアマミルが疲れ切った顔を見て何があったのか想像する事が出来た。


「これは思った以上だわ…。こんなのがどれぐらい続くのか分からないなんて…。

私も気がおかしくなりそうだわ…。」


アマミルは本音を思わずこぼしてしまった。


「ほら見て…。」


そう言ってアマミルが腕を見せるとイツキナの握ったところがアザとなって残っていた。


「……!」


ロウアは一瞬、驚いたがすぐに冷静さを取り戻した。


「…そうね。君は同じ治療をしたんだものね。」


「はい、あの痛みは尋常では無かったので何があったか想像できます…。」


「この治療で狂ってしまう理由が分かった気がするわ…。」


アマミルは疲れ切った顔でそう言った。


「…分かりました。今度は僕も同席します。」


「えっ?」


アマミルはロウアが同席したいと言ったので驚いてしまった。


「そう、そうね。私もありがたいわ…。」


アマミルは、一人では耐えられそうに無かったのでありがたいと思った。


ロウアは、魂のロウアとメメルトからも様子を聞いていたので何があったか分かっていた。

二人とも見るに堪えない姿だったと話していた。

それと苦しみが続いたとき、黒い姿の悪魔も現れたと話していた。

ロウアは始め理解できなかったが、酷い痛みが闇と同調して引き寄せてしまったのだろうと思った。


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