お風呂にて
ロウアは自分の部屋で、二人に教えてもらった言葉を復習していた。
ツナクトノの使い方を教わったから、自分が持っていた表示用デバイスに二人の特製教科書を写しながら、発音を交えて勉強していた。
<ロウア、お風呂に入って~っ!>
母親がお風呂に入れというが、ロウアはその場所が分からない。
「は、い」
取りあえずさっき習ったばかりの言葉で返事をするが、どうして良いのか分からない。
<お~い、ロウア、久々に一緒に入るか?覚えていないだろ?>
隣の部屋のカウラが、気を遣って声をかけてきてくれた。
ロウアは少し不安だったのでありがたかった。
そして、カウラに案内されながら一階の隅にある風呂にロウアは向かう。
<う~ん、そか……、お前は記憶喪失なんだっけ……>
カウラはロウアが記憶喪失だということを思い出して気遣ってくれた。
脱衣場で脱いだ服を置く場所を教えてくれたり、風呂場に入った後は滑らないようにとか、最初に洗ってから入らないと母親に怒られるぞ、とか親切に教えてくれた。
ロウアは風呂に入るとまた驚く。
(お、お風呂だ~~っ!)
まさにそれと表現するしか無いものが目の前にあった。
風呂釜があり、そこには心も身体も癒やされそうなお湯がたっぷりと入っていた。
(この文化って変わらないのかな?
それに風呂場も広いっ!銭湯みたいだっ!)
石けんも変わらず存在していたが、タオルは、その肌触りの柔らかさに驚いた。
(や、柔らかくて、気持ち良いっ!)
ロウアが身体を洗って湯船に入ろうとすると、カウラが話しかけてきた。
<海で溺れたんだよな……。水は怖くないか?>
ロウアに宿った池上は、自分が溺れたわけでは無いので首を振った。
<そうか、それなら良かった。
それにしても、映画とかテレビで見た事あるけど、記憶喪失って本当にあるんだなぁ>
(映画とかテレビって、この世界もあるのか。リビングみたいな部屋にはテレビが無かったけど……)
<でも、こっちの言葉は分かるんだろ?>
ロウアはうなずいた。
<不思議だな。話すことは出来ないのに>
ロウアは、記憶喪失では無いことを伝えたいが、その術を持っていない。
<そのうち思い出せるといいな>
ロウアは、うんとうなずくしかなかった。
身体を洗って風呂釜に入ったが、二人でつかっても全然余裕があった。
ロウアはカウラを改めて見たが、その顔が21世紀の自分の顔そっくりなので、自分が目の前にいるような感じだった。
(う~ん、僕が目の前にいるような変な感覚……)
<どうしたんだ?顔になんかついているか?>
ロウアは首を振った。
風呂から上がるとタオルと寝間着が置いてあった。
(お風呂、気持ちよかったぁ……。
はぁ、またこのタオルも肌触りが良い……)
ロウアは、さっき覚えたばかりの言葉を使った。
「あり・がと。お、やすみ、なさい」
「あぁ、おやすみっ!」
二人は風呂から上がると、それぞれの部屋に戻っていった。
ロウアは、空中に浮遊しているベットで寝ようとする。
(こ、これ、どうやって乗るの……?う~ん……。困った……)
ロウアは、"力"を思い出した。
池上だった頃の超能力だった。
(使えるのかな……)
ロウアは空を飛ぶことを強く思い描く。
すると身体は空中に浮かんだ。
(おぉ、力は使えるみたいだ)
ロウアは、そのまま飛びながらベットに入った。
ベットは、意外にも平衡状態で安定している。
ロウアは、この時、ベットの足にボタンがあり、そこを押すとベットが降りてきて乗りやすくなるのを知らなかった。
(ふ、不思議な感覚だなぁ……。でも、身体への負担が少なくて、き、気持ち良いかも……?)
最初はベットの浮遊感覚に慣れなかったが、風呂に入り身体が温まったので、すぐに眠ることが出来た。
「Zzz……」
2022/10/08 文体の訂正




